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頭砕かれるよりはマシだ!

 ダダダダッ!


 俺の右手に握ったグロック18がフルオートで弾丸を吐き出す。

 吐き出された弾丸は宙を走り、一直線に数メートル先の『影』へと飛ぶ。

 だが――


「チッ、やっぱ通常弾じゃダメか」


 弾丸は『影』の体を突き抜け、向こう側の壁に当たって弾ける。

 まるでダメージになっていない。


 しかし、お返しとばかりに影の触手が一本、凄まじい速度で襲い掛かってきた。

 俺は倒れ込むようにして体を右に投げ、避ける。

 背後で バリバリ という音が響く。

 触手が結界と触れ合ったのだろう。


 だが、そちらには視線を向けずに駈け出す。

 『影』へと向かって。


 俺がコイツを倒すためには、なるべく金の弾丸を使わずに触手を避けて接近し弾丸を叩きこむしかない。

 そのために必要なのはスピードだ。

 即断即決。

 『影』に対応されない速度で突っ込む。

 だが――



 ビュゴッ



 床を駆ける俺に向かって残った四本の触手が空気を裂いて殺到する。


 足を薙ぎ払うために1本。

 胴を刺し貫く軌道で1本。

 頭上からの振り下ろしで2本。

 一瞬の判断とは思えないほどに的確な、逃げ場のない攻撃。


 ダメだ、避けれない。


 極度の集中によってスローモーションになった思考で、瞬時にそう判断を下す。

 同時に、左手のマテバをまっすぐ前へと向ける。

 狙いは胴体を狙ってくる触手。

 この1本は致命傷になり得る。

 多分、本命だ。

 これだけは絶対に回避しなければならない

 だから――


 ドンッ


 と狙いを合わせて引き金を引いた。

 なまじ直線に突っ込んできたので狙いを絞るのは難しくない。


 金色の尾を引いた弾丸が触手に激突する。

 再び キィンッ という音と金色の波紋が広がり、正面から迫っていた触手は打ち砕かれ消え去る。

 しかし、次の瞬間には足元と頭上から触手が襲い掛かってきた。


 だが今は、正面の触手を消したことで目の前の空間が開いている。


 俺は足元の触手を飛び越えるようにして、前面の開いた空間に身を躍らせた。

 背後で触手たちが空を切るのを、風の流れで感じる。

 しかし視線は前を向いたまま。

 振り返らない。

 迫ってくる硬い床に手から肘、肘から背中という風な順番で流れるように接地して受け身を取る。

 床を一回転してすぐさま体勢を立て直し、立ち上がった俺は勢いをそのままに足を踏み出す。


 いや、踏み出そうとした。


「ッ! これは!?」


 しかし、踏み出そうとした足が上がらない。

 まるで床に縫い止められたかのように。

 すぐに足元へ目を向けるとそこには――


「さっきの影か!?」


 足元を薙ぎ払おうとしていた影の触手。

 それが俺の両足を掴み、床につなぎとめていた。

 俺が飛んで避けた瞬間に、すぐさま取って返していたのだろう。


「クッ……離せ!」


 足に力を込めるが、ビクともしない。

 すぐさま左手のマテバの銃口を下に向ける。

 ――だが、遅かった。

 問答無用で最初から撃っていなければならなかった。


「カハッ!」


 一瞬の隙。

 動きを止めた俺の背中を バンッ と強烈な衝撃が襲う。

 呼吸が止まり、肺の中の空気が絞り出される。

 咄嗟に振り替えると、先程頭上から襲い掛かってきた触手が俺の背中を殴っていた。



 防弾チョッキの上からだってのにこんな威力かよ……!



 背骨が圧し折れそうな強烈な衝撃。

 しかし、攻撃はそれだけでは終わらない。


 チラッ と右側の視界の隅に影が映った。

 俺は右側に向かって反射的に両腕を組む。

 次の瞬間――


 ドンッ


 と両腕を衝撃が貫く。

 振るわれたもう1本の触手が組んだ両腕に当たったのだ。

 受け止めた両腕が痺れ、体中が ミシミシ と軋みを上げる。

 まるで車に撥ねられたかのような、普通ならば吹き飛ぶほどの威力。

 しかし、足に絡みついた触手がそれを許してくれない。

 さながらサンドバックの様に、その場で衝撃を一身に受け止めねばならなかった。

 あまりの衝撃に嘔吐感がこみ上げてくる。

 喉を胃酸がこみ上げてきて、口に苦い味が広がっていく。

 それを歯を食い縛り、耐える。


 ヒュッ


 という次の攻撃が振るわれる音が耳に届く。

 それが到達する前に、足元へマテバの銃口を向けて躊躇わず引き金を引いた。

 痺れた腕に反動が辛い。

 あまりの反動にマテバを取り落しそうになるが、必死に指に力を込めて耐える。


 キィンッ


 甲高い音と共に、足を縛っていた触手が雲散霧消する。

 拘束が解けたことで、迫ってきていた触手を紙一重で避ける。

 ゾゾゾッ という不快な音が左の耳元に届く。

 頭を狙っていた触手が左耳のすぐ横を通ったのだ。

 ……俺の左耳と頬の皮を削り取りながら。

 顔の左側に灼けるような痛みを感じる。



 でも、頭砕かれるよりはマシだ!



 その痛みを気力でねじ伏せて行動する。

 右手に持ったグロックを『影』へと放り投げた。

 『影』はしかし、飛んでくるそれに目を向けない。

 当然だ、近代兵器は特災に対しては無力だから。

 やけくそか何かか、そう思ったに違いない。

 まるで意味のない行動。


 その通り、意味なんてない。

 これはただ、右手を空けるためだけの行動。

 あわよくば隙でも出来ないかと思っただけのこと。

 最初から期待していない。


 俺は空いた右手を背広の内側に突っ込む。

 背広から取り出したのは、手の平に収まるくらいの筒状の細長いもの。

 上部にピンが、横にレバーがついている。

 すぐさま、レバーを握りこみながら上部に付いていたピンを口に咥えて、乱暴に引き抜く。

 そのままそれを、俺と『影』との中間の床に転がすようにして投げた。

 瞬間――



 パパパパパッ!



 という炸裂音が鼓膜を貫き、強烈な閃光が視界を埋め尽くした。

 聴覚は キィーン という耳鳴りで潰れてしまう。

 しかし、視覚はサングラスが閃光を和らげてくれたおかげで何とか保たれている。

 このサングラス、実はこういった状況も考えて作られた特別製だ。



 さっきの攻撃でサングラスが飛ばされなかったことは不幸中の幸いだった。



 今投げたのはスタングレネード。

 閃光と爆音によって行動不能にする、非殺傷型の鎮圧用武装だ。

 攻撃力はまるで無い。

 だが、特災相手でも目眩ましの効果は望める。

 そして同時に、この『影』相手ならば強烈な閃光が攻撃になる。

 光を苦手とするコイツ相手ならば。

 事実、『影』は光を嫌がるかのように動きを止めていた。


 その隙を俺は見逃さない。

 『影』への数メートルの距離を、一気に詰める。

 途中、スタングレネードが放った閃光が残っているが構わず突っ込む。

 高温で燃え続ける閃光が肌を焼く。

 しかし、足は止めない。

 今しかないんだ。


 炎を抜け、残り3メートルの位置まで迫った時『影』が動き出す。

 自身の右手をまるで槍のように変化させ、一気に伸ばしてきたのだ。

 それが空を切る音は潰れた聴覚では聞き取れない。

 だが、聞こえていたら凄まじい風切り音が聞こえていたと思う。

 それ程に凄まじい速度だった。


 その攻撃に対して俺が左手のマテバで照準を合わせたのは、当たる直前。

 足を止めないまま引き金を引き絞る。

 俺の構えたマテバ。

 その射線上にまっすぐ伸びた『影』の槍へと金の弾丸が発射された。

 弾丸は金の波紋を生み出しながら槍の先端を打ち砕き、そのまま槍を2つに引き裂くかのように中央を真っ直ぐ突き進む。

 槍を裂くごとに金の波紋が生まれていく。

 音速を超えた弾丸は一瞬にして槍の先端からその根元、『影』の肩口までを突っ切る。

 弾丸が肩を突き抜けた瞬間、槍が砕けるように消え去った。

 その間も俺は足を止めていない。


 そして遂に『影』の目の前へと至る。



 こういう時、師里(もろさと)なら何か言うのだろう。

 カッコつけたセリフを。

 だが、俺は刑事だ。

 何も言うことなどない。

 ただ、市民の敵を排除する。

 それだけだ。



 俺は『影』の頭にマテバの銃口を突きつけ、躊躇わずに引き金を引いた。

 金色の弾丸が『影』の頭に突き刺さり、波紋を生む。

 次の瞬間、砕けるようにして『影』の頭は消え去った。




 ☆★☆




「フゥー」


 大きく息を吐き出す。

 耳が聞こえないせいで自分の声が酷くおかしく感じる。

 その時だった――


 視界の隅で部屋の入り口のドアが勢いよく開いた。

 跳ね上がるようにして、反射的に銃口を向ける。

 しかし、そこから現れたのはセーラーブレザーを着た中性的な顔立ちの人物。

 白髪に赤目という特徴的な容姿をした、『B&Bトラブルバスターズ』の一員。

 たしかアヤと言っていたか。


 そのアヤが部屋に鋭く視線を走らせ、次いで驚いたような強張った表情を作った。

 そして俺へと視線を向けて何事か口を開き始める。

 聴覚が先程のスタングレネードによって死んでいるが、身振りと視線によって俺の背後を示していることに気付く。

 促されるままに振り向くと――


「なっ!?」


 思わず声が出た。


 背後に庇っていたはずのガラスケース。

 その中にあるものがあったからだ。


 赤い十字架。

 白銀色の杭。

 漆黒の蝙蝠。

 そして、青白い水晶。


 盗まれたはずの封印の鍵が集まっていた。

 その周囲に視線を向けると、最初に俺が避けて結界へとぶつかったはずの触手が、ガラスケースに張り付いていた。


 そういうことか!

 俺と戦いながら触手のうちの1本で結界を解除していたんだな!

 そして、『蒼白月(ペイルムーン)』を盗まずにこの場で復活を――!


「させるかぁ!」


 左手のマテバをガラスケースに向ける。

 だが――


 引き金を引くよりも早く、4つの鍵が寄り集まりガラスケースを内側から粉々に吹き飛ばした。

 部屋に衝撃波が荒れ狂う。

 各所に付けられていたライトが壊され、室内がうす暗くなる。

 腕で顔を庇った俺だったが、耐えられず足が床を離れる。

 そのまま宙を飛び、凄まじい速度で壁へと叩きつけられてしまった。


「ガハッ!」


 あまりの衝撃に呻き声をあげ、俺の意識はそこで途切れた。

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