……あまり詮索してやるでない
夜が明けた頃、ようやく連絡がついたスズ達と合流して俺達は事務所に戻ってきた。
ちなみに連絡がつかなかったのは、スズがブリューナクを使ったせいで電波が乱れてしまっていたかららしい。
心配かけさせやがって。
……ブリューナクまでも使う状況だったということで、別の心配が増えたけどさ。
そうして事務所で一休みした俺達は『漆黒蝙蝠』が奪われた経緯をスズとアヤから訊きだしていた。
ちなみにこの場にいるのは6人。
俺、レイ、スズ、アヤは当然として、四十万と写楽さんも詳しく聞きたいということで同行してもらった。
一睡もしていないので、さすがにレイや写楽さんの顔には疲れが見える。
だが他の四人は意外と平気だ。
四十万は職業柄徹夜には慣れていそうだし、俺やスズは徹夜上等の生活スタイルだから苦でもない。アヤは朝が来ることが逆に嫌そうなくらいだ。
そんな面々を見まわしながら、話を聞き終えた俺は口を開く。
「なるほど、正体不明の女か……」
「信じらんねーぞマジで、素手で刃掴んでそのまま投げ飛ばしてきたからな」
「お前らが5分とは言えども足止めされたわけだし、その戦闘力は脅威だな。
――でも一番重要なのはソイツが〝何者なのか〟っていう点だ」
「確かに、今までは単独犯だと思って動いていましたが、何らかの組織が背後にいるのであれば相応の対処が必要ですね」
俺の言葉の意味を写楽さんが補足説明してくれる。
「それもそうだが、俺としてはあの『分身』というものの方が脅威だと思うぞ。もしも数百人で波状攻撃をされてみろ、ひとたまりもない」
そう反論するのは四十万だ。
「そうだな……アヤ、お前はどう思う?
暗殺者オタクのお前の意見を聞きたい」
「ん? 分身だろ、なら多くて2~3人だと思うぞ」
「その根拠はなんだ?」
訝しげに更に問いかける四十万。
まぁ、素性のわからないただのオタクと説明しているような相手の言葉を、そう簡単に信じられないのはわかるけど。
「簡単なことだ。アレは戦闘力も分割されるんだよ。
さっきお前が言った様に何百人にも別れたら、一人一人の戦闘力はたかが知れてる。
この面子なら守りきれると思うぜ」
「……なるほどな」
苦い顔で頷く四十万。
「だが、それでも複数になる可能性はあるわけだし、その謎の女もまた出てくるかもしれないわけか」
「やはり警備を増員するべきでしょうか?」
「……予算の問題がな」
写楽さんの提案に四十万は難色を示す。
「でもそれで盗まれてちゃ仕方ないだろ」
「それはそうだが……こっちにもいろいろあるんだよ。自由に動かせる人材には限りがあるんだ」
「あのさ、1つ訊いていい?」
そうして俺達が相談をしている最中、唐突に一つの声が上がる。
「どうしたレイ?」
ソファーにぐったりと座り、眠そうな顔をした妹に顔を向ける。
「いや、なんかいろいろ話してたみたいなんだけどさ、もっと守りやすいところに動かしちゃダメなの?
そうすれば少ない人数でも守れるんじゃない?」
と、何てことないように言った。
先程まで口を開いていた大人達は口を閉じ、その提案について考える。
悪くない――いや、いいアイデアなんじゃないだろうか?
「……なるほど、盲点じゃったな。結界から出すことが危険だと思っておったが、今となっては同じところに置いておく方が危険か」
「もう3度もやられていますしね、現状のままでは無理なのかもしれません」
そう考えたのは俺だけじゃなかったようで、賛同の声が上がる。
「確かに違う場所ならばより安全かもしれない……でもどこにそんなところがあるんだ?」
けれども、四十万から現実的な疑問が持ち上がる。
コイツの言う通りそんな都合のいい場所が――
「いや、あったぞ。取っておきの場所が」
その問いに、俺はニヤリと笑いながら答えた。
☆★☆
「で、朝っぱらから来たっていうのかい?」
「頼むよ、友達だろ」
「まったく、都合のいい友達だ――ふぁ~」
大きな欠伸をしながら答える男。
清潔な白衣に不潔な体を包んだそいつは、能力者研究の第一人者である喜多川寺ヤスヒロだった。
朝早くから自室を訪ねられたからか、まだ眠そうで目が半開きである。
俺達がやって来たのは杜宮市から電車で1時間ほどの距離にある『特殊能力及び特殊能力保有者保護管理研究所』。
略して『特究』だった。
因みに来たのは4人。
レイと写楽さんは限界そうだったので置いてきた。
また夜に起きていなきゃいけないんだから、休んで体力回復をしてもらわないと。
始発に乗ってここまでやってきた俺達は、裏口から入り真っ直ぐこのヤスヒロの研究室までやってきた。
コイツはここに住んでいるようなものだからいると思ったのだ。
その予想は当たり、ソファーに寝ていたヤスヒロを叩き起こして話を聞かせたわけ。
ここの所長でもあるコイツを説得できれば他の問題なんてなくなるからな。
「……まぁいいよ。他でもない『B』の頼みだし」
一通り話を聞いたヤスヒロは気だるげにそう答えた。
「さすがヤスヒロ、話が分かる。んじゃどこら辺が良さそうだ?」
座っていたソファーから身を乗り出して問いかける。
ちなみに両隣にはスズとアヤ。
四十万はいつものように腕を組んで壁にもたれ掛っている。
なんでコイツはこういう時に座らないんだろう? まぁどうでもいいか。
「そうだな、南側がいいんじゃないかな。
あそこは一般エリアだから然程重要なものもないから、多少は散らかっても問題ない」
「わかった、いつから準備に取りかかっていい?」
「うーん……とりあえず『蒼白月』取ってくれば?
その間に南側の準備は終わらせるよ」
「あぁ、それは大丈夫だ。もう持ってきてる」
ポケットから蒼白く光る水晶玉のようなものを取りだし、ヤスヒロへと見せる。
「……持ってきてるってことは断らせる気無かったよね?
それよかそんな魔力の塊、ポケットにそのまま入れるだなんて……まぁ、君が肌身離さず持っていた方が安全か」
呆れたようにそう言って、ヤスヒロは机の上にあった内線電話をとった。
「サンキュー」
「礼なんか要らないよ……あ、もしもし、喜多川寺だけど。今日は全部受付拒否して。うん、そう全部。鑑定依頼も全部。今日はこの建物、貸しきりにするから――」
どこかと電話し始めたヤスヒロ。
まぁ、コイツに任せておけば問題ないだろ。
「そんなわけで少しくらいは時間ができたから、休んでくれ」
今まで話に入ってこず、静かにしていた他の奴らに声をかける。
「あぁ……でもなんでお前、喜多川寺博士とそんなに仲いいんだよ」
すると、四十万からそんな質問をぶつけられてしまった。
やばい。本当のことを言うわけにもいかないし――
「ッ! そ、そんなこと大した問題じゃないだろ! なぁスズ!」
誤魔化そうと、隣のスズへと話題を振る。
「……そうじゃな、所長と喜多川寺は秘密を共有しあう、のっぴきならない関係というだけじゃ」
「秘密? のっぴきならない?」
いや、唐突に話題を振ったのは悪いが何を言っているんだ?
四十万も訳が分からない顔をしているぞ。
そう思っていたらスズは言葉を続ける。
「そうじゃぞ。人には言えない濃密な経験を共にした正に運命共同体。
喜多川寺は所長の体を隅々まで知り尽くしておる程、2人は深い関係なのじゃ。
……あまり詮索してやるでない」
「バッ! 何言ってんだお前!?
……おい! 露骨に俺から距離をとるな四十万!」
意味深な、誤解を招く発言をするスズ。
それを真に受けたのか、不可解なものを見るかのような目で俺とヤスヒロを交互に見ながら、距離をとる四十万。
そんな様子を見ながら顔を背けてプルプルと肩を震わせるスズ。
コイツ笑ってやがる!
「おいアヤからも何か言って――」
当てにならない相棒を無視して、アヤへと声をかける。
チクショウ、ダメだ。
部屋に置いてあった菓子に夢中でこっちを見てすらいない。
「待て、誤解だ」
仕方ないので自分で誤解を解こうと、立ち上がり一歩足を踏み出すと――
ガチャ
「それ以上一歩でもこっちに来たら……撃つ」
「オーケー、了解した」
即座に腰から銃を抜き放ち、青ざめた顔で銃口を向けてくる四十万。
それに対してホールドアップで答える。
「クカカカカッ!」
それを見てスズは遂に腹を抱えて笑い出してしまった。
笑ってないで助けろバカ!
誤魔化すにもほかの方法があっただろ!
「よーし、指示は出したから朝飯でも食べに食堂に――何してんだ君達は?」
四十万の銃口は、ヤスヒロがそう声をかけてくるまで外れることはなかった。
あと、あまり四十万が俺の近くに寄ろうとしなくなった。
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