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で、なんでお前がいるんだよ?

「で、なんでお前がいるんだよ?」


「あれ、言ってなかったかしら? 彼が今回の依頼者なんですよ」


「え~、マジっすか」


 翌日の昼過ぎ。

 約束したとおりに訪れた写楽しゃらくさんは1人の男を伴っていた。

 そいつは俺も見知った人物。

 数週間前に同じ事件を追った、学生時代の後輩。

 刑事の四十万しじまジンだった。

 前とは違い動きやすいスマートなスーツを着ており、テレビで見るような若い刑事そのものだ。


 とりあえず2人を応接用のソファーに座らせて問いかけると、写楽さんが答える。

 その言葉に続けて彼女の隣に座った四十万が


「『紅十字架クリムゾンクロス』の様な危険性の高い封印物が盗まれたんだ。当然俺達〝特課〟の管轄になる」


 仏頂面で俺にそう告げる。


 この〝特課〟とは最近、試験的に作られた〝特殊災害事件対策課〟のことである。

 この部署は警察でも能力者ウェイカーと協力し特殊災害の起こした事件を解決することを目的として作られた。

 以前より構想はあったらしいのだが、警察内部でも賛成派と反対派が拮抗しておりどっちつかずな状況だったみたいだ。

 それがこの前の『人喰鬼オーガ事件』をキッカケに一気に賛成に傾いた。

 『人喰鬼オーガ事件』で初期捜査が不十分だったために事態の悪化を招いてしまったということが大きかったらしい。

 警察内部には柔軟に能力者ウェイカーと協力し合おうという風潮が広まり、〝特課〟は試験的運用という形で作られた。

 これでうまくいけば後々、全国に設置されることになるとのことだ。


 ちなみに、ゲンのおっちゃんが『人喰鬼オーガ事件』の解決を『警察官と能力者ウェイカーの協力』って形で解決させたのはこの状況を作るためだったと思う。

 警察内部に〝能力者ウェイカーと協力する〟という考えが比較的容易に広まる状況を、だ。

 『人喰鬼オーガ事件』を利用して自分の思ったような状況を作り出す。

 勿論その為に捜査をサボったりなんてしていないだろうが、状況を上手く利用したのは流石の(したた)かさである。

 これだからあのおっちゃんは食えない。


 しかも俺達への報酬を4割もカットしたのは許せん!

 今回のことで昇進したらしいので今度スズと一緒に何か集り(・・・)(たかり)に行ってやろう。




 ……話がズレたな。


 とにかく〝特課〟というのは特殊災害が起こした犯罪を能力者ウェイカーとともに捜査する部署であり、何の因果かその〝特課〟には四十万がいて今回の事件を捜査するみたいだ。


「ハァ、まさか『サードアイ』が言っていた戦闘担当がお前達とはな……」


「……いや、まだ俺達受けるとは言ってないんだけど」


「ふふ、でも断らないでしょう?」


「……それ『神眼』の未来視っすか?」


「違いますよ、師里くんの目を見ればわかるだけです」


 柔らかく笑う写楽さん。

 ホント、なんだか見透かされている感じがして苦手だこの人。


「それじゃあ受けるんだな? 師里」


「あぁ、受けさせてもらうよ」


「そうか。今回は俺達が依頼した『サードアイ』からの依頼という形だから直接の依頼主は警察ではないが、指示には従ってもらうぞ」


「へいへい、わかってますよ」


 なんでコイツこんなに偉そうなんだよ。

 いやまぁ、実際に依頼主だから偉いんだろうけどさ。


「で、今回参加するのは誰なんだ? 見たことない顔もいるみたいだが」


 チラッと部屋の隅に視線を走らせる四十万。

 その先にいたのはこの場で唯一、四十万と面識のないアヤ。

 その視線を受けたアヤはニヤリと薄く笑い


「ん、なんだオレのことか?」


 と返した。


「あぁ、君のことだ。君はまだ高校生だろ、学校はどうした?」


「オレが高校生? なんでだ?」


「何を言っているんだ、それは杜宮高校の制服だろう」


「制服? あぁ、この服のことか」


 そう言ってアヤは着ていた制服のスカートをつまんでみた。


 コイツが今着ているのはレイやヒトミちゃんの通う杜宮高校の制服だ。

 セーラー服とブレザーが合体したような、セーラーブレザーというタイプのそれは一見してブレザーの様であるけれど襟がセーラー服のように広く作られ三本のラインが走っていた。

 色は群青色をベースにしているが、袖や襟などに入ったラインは明るい黄色になっている。

 そして、その首元をリボンが飾る。

 スカートは赤と黄色のチェック柄だ。


 どこのアニメの制服だ。


 と言いたいような華美で可愛らしい制服である。



 で、どうしてそんな制服をアヤが着ているかというと――


 ☆★☆


「その服かわいいな、どこで売ってるんだそれ?」


「え……この制服ですか? これは街の制服屋さんですけど」


「よし、んじゃ今からそこ行ってくるわ」


「ちょ、待て待て!」


「グェッ!」


 駈け出そうとするアヤのマフラーを掴んで止める。


「ゲッホゴッホ! 何すんだよアキラ!」


「今から行ったってすぐに作ってなんてもらえないぞ」


「え、そうなのか? ……んじゃアキラ作ってくれよ」


「……え~、メンドクせーな」


「(いや、所長。ここは作ってやった方がええんじゃないかの?)」


「(んどういう意味だ?)」


 アヤの要求を断ろうとしたら、ヒソヒソとスズが話しかけてきた。


「(アヤが忍者装束以外の格好に興味を持つなど珍しいことじゃ、この機会に着替えさせてしまおう)」


「(……なるほど、忍者装束の奴が犯人で捜されてるっていうのにわざわざ同じ恰好させる必要もないな)」


「何ヒソヒソ話してるんだよ?」


「いや、何でもない。――お前の要望通り作ってやるよ」


「お、気前いいな。ありがとよ!」


 ☆★☆


 ということが昨日あったので、俺が魔法陣で作り出した制服をアヤは着ているのだ。

 勿論、アヤは高校生などではない。


「いやいやいや、実はコイツコスプレが趣味なんだよ。うちの従業員だ、従業員。高校生じゃないから安心してくれ」


 あながちウソでもない言い訳を四十万にする。


「……本当か? 身分証を見せてみろ」


 しかし、そんな言い訳を聞き流し疑り深い目をアヤに向ける四十万。

 なんて捻くれた奴だ!


 アヤは免許とか身分証とか苦手で能力者ウェイカー登録すらしてないんだ。

 出せって言われたって困る。

 あぁ、こんなことなら無理やりにでも取らせておけば良かった。

 だが――


「四十万さん、今はそんな細かいことにこだわってる余裕ないと思いますよ」


「……確かにそうだ。だが後で確認するからな」


「わかったわかった」


 写楽さんが口を挟んでくれたおかげで追及を免れることが出来た。

 四十万に適当に返事をしつつ、写楽さんに目を向けると パチッ とウィンクをしてきた。


 ……なんか高い借りを作った気がする。


 ☆★☆


「で、余裕がないってどういうことだよ?」


 先ほど写楽さんが放った言葉に疑問を覚えた。


「……師里、お前は何が盗まれたのか既に聞いているんだったな?」


「あぁ『紅十字架クリムゾンクロス』だろ」


「だったら犯人の目的もわかっているな?」


「当然〝アレ〟の復活だろうな……おい待て。もしかして――」


 四十万の遠回しな言い方にある可能性が思い浮かぶ。


「そうだ、お前の思っている通りに他の部分(・・・)も昨夜盗まれた」


「なッ! 昨日の今日だぞ!? 警備体制はどうなっていたんだよ!」


「勿論、私達『サードアイ』の精鋭も配置していましたし『ヘカトンケイル』の戦闘系Aランク能力者ウェイカーも一晩だけ雇いました。ですが――」


「殺されたのか!?」


 業界内でもトップに位置する2つの会社。

 そこの精鋭とAランクがいて盗まれたとなると、最悪全滅の可能性がある。


「いえ、死んではいませんし怪我一つ負っていません」


「なんじゃと?」


 その異様な状況説明に、今までオレの隣に座り黙って写楽さんを睨み付けていたスズが声を上げる。


「ウチの精鋭ですら感知できなかったということです。気づいたときには盗まれていました」


「……なるほど」


 相手は本物の暗殺者アサシンの技量と知識を持っているんだ。

 並の奴らじゃ相手にならんだろう。


「で、何が盗まれたんだ?」


「『白銀杭シルバーパイル』です」


「これで残るのは2つ、ということになる」


「『漆黒蝙蝠ナイトバット』と『蒼白月ペイルムーン』か……」


 残りの封印物を頭に思い浮かべる。


「そうだが、よく知っていたな」


「ほら、俺って勤勉家だから」


「……そうか」


 四十万が俺の軽口を聞き流す。


「とにかく、2日連続で盗まれたんだ。今日もあると見るべきだろう」


「そういうことか」


 腕時計でさっと確認する。

 深夜まで約10時間。


「だが残り2つだぞ、どっちを守るんだ?」


「それなんだが、二手に分けようかと思っている」


「二手?」


「あぁ、お前らがどれほど役に立つかはわからないがレイちゃんはSSSランクなんだろう?

 レイちゃんと写楽さんにあとお前ら戦闘班から1人を加えたグループを本命にして、残りの2人でもう1か所に回ってもらう」


 2か所のどちらに来るかわからないのでどちらにも配置する。

 順当な作戦だな。


 だがそんなことより――


「なぁ、前から気になってたんだけどレイのことちゃん付けで呼ぶのやめろ」


「……今の話聞いてて一番最初に出るのが妹の呼び方かよ。

昔から呼んでる呼び方だろうが、じゃあ何て呼べばいいんだ?」


「『師里さん』」


「それだとお前にも敬称使ってるみたいだから嫌だ」


「……ホントお前ムカつくな~」


「とりあえず呼び方を変えればいいんだろ、考えておく。

 作戦の内容は問題ないか?」


「あぁ、問題ない――いや、1つあったな」


「なんだ?」




「レイが明日学校を公欠出来るように、何とか手をまわしておいてくれ」




「……ホントお前シスコンだな」


 その言葉に呆れたように四十万が声を漏らした。

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