私のことはお義姉ちゃんって呼んでって言ったのに
深夜。
時計の短針が天辺近くまで回っている。
街にはまだ明かりが灯っているが、郊外に作られたこの教会の周囲は暗闇が埋めていた。
ただ、当の教会自体は俺達が持ち込んだ照明で内も外も昼間のように明るく照らされていたが。
俺はその教会の正面に立ち、暗闇を ジッ と見つめる。
いつ襲って来てもおかしくない時間だからだ。
常に気を張っていなければ……。
腰裏に装備した相棒の拳銃。
それをいつでも抜けるように体に緊張を漲らせる。
だというのに――
「四十万くん、そんなに気を張ってたら疲れちゃいますよ。こっちに来て一緒にお茶でも飲みません?」
「……写楽さん、いつ敵が来るのかわからないのに気を抜きすぎない方がいい」
後ろからかけられた声に振り返りながら答える。
振り返った先では、本部のイベントテントの中でパイプ椅子に座り、湯気のたつ紙コップから何かをすすっている3人。
「お~このコーヒーうまいっすね!」
「ほんと? 良かった~。ブラジルから取り寄せた豆なのよ」
「……砂糖とミルクぶちこんでるのに味なんてわかってるの? 写楽さん、あまりコレに気を使わなくていいんですよ」
「もぉ~、レイちゃん。私のことはお義姉ちゃんって呼んでって言ったのに」
「無理です。私には兄も姉もいませんから。
そんな呼び方慣れません」
「兄! 兄ちゃんはいるからな! ここにいるから!」
周囲の警官や能力者の緊張などどこ吹く風で騒いでいるのはこの場での最高戦力ども。
数人しかいないSS ランク『神眼』写楽アイ。
彼女はこんな状況にあっても昼間と変わらない微笑みを浮かべている。
違う点はその額に着けていた鉄製の額当てを外しているということと、前髪をカチューシャでもって上げているところか。
額当てや前髪が無くなり。露わになったその額は他の人とは明らかに異なっていた。
そこにあったのは『眼球』。
白い額のその中央、通常ではありえない位置に丸い眼球が存在していた。
瞼も睫毛もなく一目で通常の『目』ではないことがわかるその眼球。
その眼球こそが写楽アイの超能力。
『神眼』と呼ばれる所以。
インドの破壊神シヴァと同じ第三の目。
様々な視界系超能力の中でも最高の威力、効果範囲を持つまさに『神の眼』。
この『眼』で敵の侵入を察知する役目を担っている。
そして世界唯一のSSSランクの師里レイ。
杜宮高校のセーラーブレザーを着て、肩までの髪を頭の後ろ、高い位置でアップに纏めた少女。
『強化支援』という特異性の高い超能力とSSSランクという破格の魔力量を持つ稀有な存在。
相手がどれほどの存在かわからないこの状況で、カギを握っているのは彼女と言える。
最後の1人はBランクなのに得体の知れない強さと能力を持つ師里アキラ。
いつも通りの細身の黒スーツに赤ネクタイという格好で、だらけきった雰囲気を発している。
「……ハァ~」
思わずため息が漏れる。
こんな奴らに頼らねばならないとは。
俺自身に戦う力さえあれば――
「あ、そうだ四十万」
そんなことを考えていたら師里が声をかけてきた。
「なんだバカ」
「随分なご挨拶だなチクショウ。
まぁいいや、ちょっとお前の銃見せてくれね?」
「断る」
なんで俺の相棒をお前なんかに見せてやらなきゃいけないんだ。
「即答!?
いいからちょっと見せてくれって、悪いようにはしないからさ」
「チッ! 下手に弄るなよ」
腰裏のホルスターから相棒のマテバ6ウニカを引き抜いて渡す。
数週間前の戦いでダメージを負った部分はメンテナンスし修理したことで万全に戻っている。
「わかってるっての。……これどうやってシリンダー上げるんだ?」
リボルバータイプのマテバはシリンダー式の弾倉なのだが、特殊なためにわからなかったらしい。
いや、そもそもコイツ銃を扱ったことがあるのか?
「あぁ! もう返せ! 何がしたいんだお前は!?」
師里からマテバを奪い返しながら問いかける。
「いや、ちょっと弾丸見せてほしかっただけだよ」
「弾丸? ……まぁいい、ほれ」
俺は体に染みついた動きでスムーズにシリンダーを上げて弾丸を取り出す。
「お、サンキュー。へぇ、結構長いんだな」
「まぁ、今の一般的なのよりはそうかもな。リボルバーだし。
……で、それがどうしたんだよ」
「ん? いや、形を覚えたかったんだよ」
「形?」
「こうするために、な」
そう言って師里は弾丸を持つのとは反対の手を前に出した。
瞬間、光が掌に溢れる。
いつか見た幾何学模様が走る金色の魔法陣が現れた。
「ちょ! 何する気だお前!」
「大丈夫だっての、すぐ終わるから見てろって」
思わずあげた声だったが、師里はなんてことない風に言葉を返す。
その言葉通りすぐに光が収まる。
光が消えたその掌の中には――
「金色の、弾丸?」
「あぁ特別性だぞ、大事に使えよ」
先ほど渡した弾丸と同じ形状の、しかし黄金の輝きを放つ弾丸が6発あった。
その黄金の弾丸と、先に渡しておいた1発の通常弾を俺へと返してくる師里。
「と、特別性ってなんだ!?」
それらを受け取りながら問いかける。
「あ~、つまりその弾丸は特災にも有効ってことだ」
「……なんだと?」
通常の近代武装では特災は倒せない。
だからこそ能力者に頼るしかないというこの現状。
もしもコイツの言っていることが本当ならこの弾丸は――。
「ほ、本当なのか?」
「当たり前だろ。まぁ、相手に当たればの話だけどな」
「なんで俺にこんなものを――」
「……実際、今回の相手ってのがヤバそうだからさ。その盗んだ奴ってのはともかく、もしも〝アイツ〟が復活でもしたらここにいる全員を守りきる自身とかないんだわ」
「……」
「やれるとこまではやるけど、どうしても無理って状況ってあるだろ? 俺はそうなった場合レイの安全を第一に考える。
でも、知ってる奴に死んで欲しいわけでもないんだよ。それがお前みたいな生意気な後輩でもさ。
だからまぁ、護身用ってこと」
「……そうか」
コイツの言っていることもわかる。
俺も〝何〟が復活しようとしているのかわかっているつもりだ。
もしもの場合はここにいるすべての人間が危ない。
コイツはそんな状況でも俺のことを心配してくれているというわけか。
「ありがたく受け取っておこう」
言葉と共に、その黄金の弾丸を上着のポケットにしまう。
「――しかしすごいな、弾丸まで作り出せるとは。それが『全能』ってわけか」
「ん? ……あぁ、そうそう! 俺の能力な!」
『全能』。
魔力の続く限り思った現象を引き起こせるという異色の超能力。
通常、1つの効果しかない超能力において複数の事象を引き起こせる特殊なもの。
目の前の男とその相棒の少女、世界中で2人しか持っていない能力。
先の事件が解決した後で師里とスズという少女の異常さをおかしく思い調べてみた結果、わかったことだ。
まぁ、知ることが出来たのは特課に入り、閲覧制限のある情報にアクセスできるようになってからだったが。
彼ら2人には通常では閲覧することのできない制限がかかっていたのだ。
確かに、こんな超能力があると知られれば大変なことになる。
隠すのも順当な判断だとは思うが。
「しかし、こんなにホイホイと使っていいのか? 秘密なんじゃないのか?」
「秘密? なんで?」
「いやだってお前――」
コイツ自分の能力の特殊性に気付いていないのか?
そのことを言おうとした時だった。
「来ました!」
写楽さんの鋭い声があたりに響いた。
その声に反応して師里が素早い動きで本部テントに戻る。
そうして写楽さんのそばに立ち、あたりを鋭い目で見まわした。
出遅れてしまった俺もすぐにそちらに向かおうと踏み出す。
ブー ブー
だが、同時に胸元に入れておいた携帯電話が震えた。
「こちら『蒼白月』部隊。どうした?」
足を止めずにそれを取り出し、耳に当てる。
すると――
『こ、こちら『漆黒蝙蝠』! ただいま敵が襲撃を――』
焦ったような男の声と、その背後から断続的な爆発音が響いてきた。
「な、なんだと!?」
思わず足が止まる。
――だが、状況がそれを許してくれなかった。
「四十万! 伏せろ!」
飛んできた師里の声に、考えるより先に体が動いた。
バッ と地面に身を伏せる。
ビュンッ
と頭上を何かが通り過ぎた。
それを伏せたまま視線で追うと――。
「……マジかよ」
思わず声が漏れる。
そこにいたのは真っ黒の人影。
比喩でもなんでもなく、輪郭だけの黒い存在が地面に立っていた。
輪郭だけで判断するならば確かに事前の情報通りに忍者装束だろう。
だが――
「明らかに人間じゃないだろ、こりゃ」
握りしめた携帯電話からは、依然として悲鳴と爆発音が聞こえてくる。
「一体何が起こってるっていうんだッ」
状況が把握できず、俺は呻き声をあげる。
ただ一つハッキリしていることは、攻撃を受けているということだけだった。
なかなか時間が取れず毎日更新できなくてすいません。
別にネトゲばっかりやっているわけではないですよ~。
ただ、そろそろ試験も近く、毎日更新はちょっと厳しそうです、すいません。
しばらくは隔日更新になると思います。




