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呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、じゃ

昨日の更新を休んでしまってすいません。

「ふむ、これは中々じゃな」


 眼前の鬼を見上げながらスズが感嘆の声を上げる。

 その口元が愉快そうに吊り上っていた。


 確かにコイツは中々だ。

 持っていた刀は既に体に同化してしまったが、その魔力を喰ったことで異常なほどの力の増幅を見せている。


「所長、コイツは儂が貰うぞ!」


 そのスズが鬼へと向けて飛び出す。

 ロケットのように一瞬で加速し、その腕に魔方陣を纏わせて振るった。

 だが――


「なっ! 消えた!?」


 忽然と鬼は姿を消し、スズの拳は空を切った。


「ッ! スズ上だ!」


 目標が消え慌てて着地したスズの頭上に、消えた鬼の姿を見た俺は声を出す。

 その声にスズが反応するよりも早く


 ドンッ


 と空中に現れた鬼の大きな拳が振るわれる。

 その拳は小柄なスズを捉え、その勢いを衰えさせることなく本殿の床にスズを叩きつける。

 そのまま バキバキバキッ と床をぶち抜いてスズの姿は床下へと消え去ってしまった。


「スズッ!」


「人の心配してる場合か?」


 スズへと声を掛けるが、答えたのは背後に現れた鬼。

 何時の間に距離を詰められていたのかわからなかったが、その攻撃に反射的に反応する。


 ズンッ


 と体の前で組んだ両腕を巨大な拳が打ち抜く。

 体全体に凄まじい衝撃が走り、受け止めた腕がビリビリと痺れた。

 しかし受け止めても威力全てを殺すことが出来ず、足元の玉砂利を弾きながら俺の体は数メートル後退させられる。


「くぅっ!」


 痛みを堪えながらも視線を前へと戻すが、既にそこに鬼の姿はない。


 俺の背中を冷たい感覚が通り、その場を跳び退く。

 別に何かを具体的に感じたわけではない。

 ただの勘。

 だがそれは的中することになる。


 俺が一瞬前まで立っていた場所を、ハンマーの様に組まれた両腕が穿った。


 そのままあそこに立っていれば潰されていたかもしれない。


「へぇ~、よく避けたな」


「……お前の攻撃なんて簡単に予測できるっての」


 強がりながらも相手の動きを注視する。

 コイツのこの巨体が一瞬で消えるなんてありえない。

 高速移動したとしてもその余波などは一切感じられなかった。


 まるで一瞬で消えて現れたかのような――

 消えた?


「なるほど、そう言うことか」


 痺れた手を振りながら鬼へと向けて声を放つ。


「お前は『迷家マヨイガ』を喰ってその能力を手に入れた、そうして次元を自由に移動しあたかも瞬間移動の様にしたわけだな」


「流石だな、この短時間で見破るとは……やはりお前を先に殺さなきゃならねぇみたいだ」


 言葉と共に消え失せる鬼。

 辺りを見回すも見つけられない。


「ここだバカがぁ!」


 右手の空間から巨大な腕が突然現れ、その爪で俺を引き裂こうとして来る。

 俺はそれを寸でのところで避ける。

 しかし、避けきれなかったスーツのジャケットが爪に裂かれて大きな爪痕を残された。


「ハッ! 避けるしかできねぇのかよ!」


 そう言って再び別次元へと消える鬼。

 どこにいるか皆目見当もつかない。

 だが俺は――


「……そこだな」


 眼球の前に『索敵』の魔方陣を生み出し、輝く拳で空間を貫く。

 空間がガラスの様に割れ、俺の腕が別次元へと潜る。


 タネさえわかれば俺にとっては次元潜行による瞬間移動など脅威にならない。

 次元移動しているならば、索敵範囲を別次元まで広げればいいだけだからだ。


 潜ったその先で拳が何かに当たる手ごたえを感じた。

 そのままそれを掴みとり、力づくで引きずり出す。


「ウォォォォォォ!」


 引きずり出した鬼は、叫びながら俺の開けた小さな次元の穴を押し広げて出現する。


 安全だと思っていた別次元において不意打ちの一発。

 そして無理矢理己の体を使って次元の穴の拡張をされたことで、鬼は少なくないダメージを受けていた。


 その鬼を地面へと転がしながら、右手を光らせ振りかぶる。


「待ってください!」


 しかしその拳が当たる前にアルトボイスが響いた。

 声の聞こえたほうに目をやると、レイに肩を借り胸を押さえたままこちらへと歩んでくるモモの姿があった。


 ☆★☆


 私はお兄さんとおぞましい姿へと変貌したセキトの元へ、レイさんの肩を借りて歩む。


「どしたモモ?」


 私の声で攻撃を中断したお兄さんが私へと問いかけてくる。


「お兄さん、少し攻撃を待ってください。今のセキトは『迷家マヨイガ』と同化しているのですよね、ではこのまま攻撃をしたら『迷家マヨイガ』もただでは済まないのでは? それは困ります」


「だが大分深くつながっているみたいだぞ、分離できるのか?」


「……『迷家マヨイガ』は私達の村で祀られてきた神刀です。私の舞によって呼び出すことができるかもしれません」


「んなこと言っても、お前の体はボロボロだろ。出来んのかそんなこと?」


「それはっ! ……そうですけど」


 確かに、お兄さんの言葉通り私の体はボロボロだ。

 大量に血を失っているためにフラフラしており、レイさんの肩を借りねば歩くこともできない。

 こんな状態で『鬼神楽おにかぐら』を舞うことができるか……。


 だが、やらねばならない。


 やらなければ私達の村の未来はないのだから。


「死んでもやります、絶対に『迷家マヨイガ』を取り戻すんです!」


 強い瞳でお兄さんを見つめる。

 お兄さんの視線と私のそれが噛みあう。

 彼の眼は深く澄んでおり、それでいて何を考えているかわからない。

 けれども――


「ハァ~」


 一息ついてセキトに向けていた構えを解く。

 その隙を見逃さずセキトは瞬間移動をし、大きく距離を取った。


「スズ!」


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、じゃ!」


 構えを解いたお兄さんが呼ぶと、本殿の床下から瓦礫を弾き飛ばしてスズさんが現れる。

 彼女はそのままの勢いで、一跳びで私達の近くまで跳んできた。


「怪我はないか?」


「なに、浮かれて油断しておっただけじゃ問題ない」


「その割には出てくるのが遅かったが?」


「暗い所で頭を冷やしておっただけじゃ。……で、儂を呼んで何をさせる気じゃ?」


「あぁ、モモが舞を踊っている間、セキトを足止めしておいてくれ」


「? 所長はどうするのじゃ」


「俺は、こう(・・・)するよ」


 そう言ってお兄さんは体の前で両掌を向かい合わせにした。

 向かい合った手と手の間に、お兄さんの体全体から発せられていた眩い光がどんどんと集まっていく。

 全身から光が消える頃には、手の間に一抱えほどの大きな光球が生まれる。


「これはまぁ、いわゆる生命エネルギーの塊だ。大量に失血したモモでも全快にすることができるはずだ」


「生命エネルギー……でも、そんなのを私に渡したらお兄さんは――!?」


「――モモ」


 しかし、私の言葉を遮るようにしてお兄さんが私を呼ぶ。


「俺の事なんか気にするな、村を守りたいんだろ? 一番大切なもんを見失うな。なに、しばらく戦えなくなるくらいだ問題ない」


 私の不安を消すように、お兄さんは爽やかに笑いかけてくる。


「……わかりました。お力、お借りします」


「よし、頑張れよ」


「では儂も行くぞ。モモ、こちらは気にせずやりたいようにやれ」


 ドンッと飛び出すスズさんを見送る。


「それじゃ行くぞ」


「はい!」


 答えると同時にお兄さんが光球を私に向けて放つ。

 お兄さんの手から離れた光球が私の胸へと吸い込まれる。

 瞬間、じんわりとした温かさが全身を巡った。


 貧血でクラクラした頭も、違和感が残っていた胸も全てがいつも通りに――いや、いつも以上の力を感じる。


 肩を貸してくれていたレイさんから離れて、1人で地面に立つ。

 足元はもうぐらつかない。


「よし、大丈夫みたいだな――いってこい!」


 全身の力が抜けたかのように地面へと座り込んだお兄さんが、そんな私の様子を見て声をかけてくる。

 その言葉にコクリと頷き、私はお兄さんとレイさんから離れる。


 開けた場所に立ち、扇子を打ち広げる。


「悪しき我らが鬼魂(おにだま)

 静め鎮めたる かの宝


 人の世とはかけ離れ

 その身を隠すは山の奥


 迷い人のみそこに到れり

 我らはこの世の迷い人


 我らを篤と隠したまえ

 我らを篤と隔したまえ


 世は既に人のもの」


 朗々と詠唱するのは『迷家マヨイガ』の祝詞。

 村のお婆から教わった祭りの際の祝詞だ。


 もしもセキトの体から『迷家マヨイガ』を引き抜くにはこれしかないと思った。


 祝詞を唱えながらも舞を舞う。

 先程の戦う為の舞ではない。

迷家マヨイガ』に語り掛け、奉納するためのものだ。


 ヒュウンと扇子が風を切る音だけが響く。

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