黙れ痴れ者!
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「久しぶりだな、モモよ~。ジジイ達は元気かぁ~!?」
「……あぁ、今も元気に『鬼殺し』に浸かってる頃だろうさ!」
「そいつぁ残念だ! もっと深く斬っておくべきだったな!」
「ッ! キッサマァー!」
夕闇に包まれた公園に甲高い金属音が響く。
閉じた扇子と刀がぶつかり合って宙に火花が散った。
モモと、セキトと呼ばれた男が戦っている証拠だ。
「育ててもらった恩も忘れてよくもそのようなことが言えるな!」
「育ててもらったことは感謝してるぜぇ! あの時野垂れ死ぬしかなかった俺を助けて、ここまでデカくしてくれたんだからよぉ!」
「ならばなぜ!?」
「だからだよ!」
声と共にセキトの振るった刀が唸りをあげてモモの腹へと吸い込まれた。
その事でモモの小さな体が大きく吹き飛ばされる。
「モモッ!」
思わず声をかけてしまう。
「大丈夫です!」
私の声にそう答え、モモは宙で体勢を整えて両足で危なげなく着地する。
寸でのところで扇子で受け止めていたのか、その腹部に怪我はない。
しかし、体力は消耗しているのか肩を上下させ荒い息をつく。
「だからだよモモッ! あんな山奥じゃねぇ、俺はジジイ達を外に連れ出してやりてーのさ!」
そんなモモにセキトが先程の問いの答えを返してくる。
「ハァハァ、じっさま達がそれをいつ望んだ!」
「心の奥じゃ望んでるだろうさ! ジジイ達だって数百年前に同じことやろうとしてたじゃねぇか!」
「時代が変わっていることになぜ気づかない!」
再びセキトに向かって駆け出すモモ。
独楽のように回転し、勢いを乗せた扇子の連打がセキトを襲う。
しかし対するセキトはつまらない様子で、その連打を悉く手に持った刀で受け止める。
「ヤァッー!」
数合続いた攻撃の応酬。
それを経て一番勢いの乗った一撃を、モモは声を上げて縦一文字に振り降ろす。
「しゃらくせぇ!」
その一撃をセキトは腰だめに構えた刀を振るい、迎え撃つ。
目にもとまらぬ速さでモモが振るう扇子とセキトの刀が一際大きくぶつかり合い、その衝撃で小さな公園に突風が吹き荒れる。
「キャッ」
それは呆然と立っていた私を襲い、体勢を崩させ声が出てしまう。
「レイさん!」
その私の声にモモが振り返り、心配の声をかけてくる。
「大丈夫! それより前!」
しかし、私はすぐに答え、逆にモモへと注意を放つ。
戦っている最中に視線を外すということがどれ程危険か、さすがに私にもわかる。
その私の意図が伝わったのか、モモはすぐさまセキトへと視線を戻した。
「……おいおい、なんの冗談だよモモォ~」
しかし、そのセキトは明らかに隙だらけだったモモに攻撃せず、その場で肩を刀の峰でポンポンと叩きながら口を開く。
その目は驚愕と、そして憎悪が入り雑じって危ない光を放っていた
「……なにがだ?」
「何で人間なんかと仲良くしてんだって言ってんだよ!」
その怒声と共にセキトの目の回りに黒い隈取り(くまどり)が現れる。
「人間は敵だろうが!」
「違う! こちらから危害を加えなければ、人間だって危害を加えてこないはずだ!」
セキトの振り下ろした刀をモモの扇子が受け止める。
鍔ぜり合ったまま、至近距離で言葉をぶつけ合う。
「甘いんだよモモ。やられる前にやるしかねぇだろうが!」
「たった一人で何が出来る!?」
「出来るさ、俺と迷家なら人間を皆殺しにすることだってな!」
「バカな事を!」
「……んじゃ、やって見せてやるよ」
クンッ
と唐突にセキトが後ろに下がる。
その事で鍔ぜりあいの均衡が崩れ、モモが前のめりにバランスを崩した。
その隙にセキトは動いている。
まっすぐ私へと向かって。
「ウソッ!」
「死ね人間!」
一瞬で距離を詰めたセキトが、袈裟懸けにその刀を振り降ろす。
夕暮れの中、ギラリと凶悪な光を放つ刃が私へと迫る――
「させるかぁぁぁ!」
しかし、その刃よりも早く横から飛び込んできたものが私を撥ね飛ばす。
あまりの衝撃に息が詰まる。
そのまま私を撥ね飛ばしたものと一緒に、数メートルほど地面を転がっていく。
「お怪我はありませんか、レイさん?」
砂ぼこりにまみれなながらも危機を脱すると、すぐ近くからモモの声が聞こえてきた。
「うん、ありがとうモモ」
助けてくれたモモにお礼を言う。
数メートルも転がったことで無傷と言うわけにはいかないが、軽い擦り傷程度だ。
「当然の事をしたまで……クッ!」
「え? ちょ、ちょっと怪我してるじゃない!」
その言葉通り、モモの左肩から二の腕にかけてパックリと深い傷が走っていた。
かなり深く斬られたようでドンドンと血が溢れ出し、白い小袖を赤く染める。
「大した怪我ではありません。ただやはり、あの刀の傷は少し痛みますね……」
そう自嘲ぎみに笑う。
「おいおい、邪魔すんなよモモ」
「黙れ痴れ者!」
セキトから掛けられた挑発ぎみた声に、左手をダランと力なく下げたまま立ち上がり、鋭い声を返すモモ。
「私の友人を傷つけようとした報いを受けて貰うぞ!」
そう言うと、今まで閉じていた扇子を バッ と広げる。
「鬼仙・『風弾』!」
叫ぶと同時、モモは掬い上げるように扇子を下から上へと振り上げる。
瞬間、目に見えない何かが公園の中を奔った。
次いで公園の中を先程感じた風とは比較にならない程の突風が吹き荒れる。
砂塵が舞い上がり、置いてある遊具はガチャガチャと喧しい音を立てる。
私も片手で髪を抑え、砂塵から守るために目を細めた。
その狭い視界の中、セキトがその見えない何かに吹き飛ばされ宙を舞う。
「ようやく本気ってわけかモモ! いや、鬼巫女よぉ!」
しかし、ダメージなど何もないかのように着地したセキトは愉快そうに口の端を釣り上げた。
そこに再び見えない何かが殺到する。
だが――
「弱すぎんぞぉ!」
それらは刀の一振りで打ち消されてしまう。
「なっ!」
そのことには流石にモモも驚いたのか声を上げてしまった。
「風を操る鬼巫女の技『風弾』。昔はスゲェと思ってたが、今じゃなんとも思わねぇな。モモ、お前弱くなったか? それとも……俺が強くなり過ぎたのかよ?」
そう問いかけながら、ズンズンと距離を詰めてくるセキト。
「くっ!」
それに対し、苦悶の表情を浮かべながらも扇子を振って『風弾』を撃ち続けるモモ。
だが、いくら撃ち込んだ所で全てセキトに当たる前に切り払われてしまう。
公園内を吹き抜ける荒々しい数が空しい。
そして――
「もう終わりか?」
「ハァ、ハァ、ハァ」
私達までほんの数メートルまで迫ったセキトが、荒い息をつくモモに問いかける。
扇子を振り上げる力も残っていないのか両手を下に下げたモモは、それでも私を庇うように無言で前に立ちセキトを睨みつけた。
「モモ! もういいよ、逃げよう! 殺されちゃうよ!」
そんなモモに後ろから声を掛ける。
モモの左手の先からはさっきからずっと、ポタリポタリと傷口から流れ出た血が滴り落ち、それが地面に血の水たまりを作っていた。
明らかに危険なほどの出血量なのは明白。
そんな状態で刀を持ったオーガ、しかもモモの攻撃がまるで通じない相手に勝てるわけがない。
「……レイさん、貴女だけでも逃げてください。私はここでセキトを足止めします」
「そんな……そんなことできるわけないじゃない!」
「もともと貴女はこの件には関係ありません。どうか逃げてください、これは鬼同士の問題です」
「か、関係ある! 友達の事見捨てられるか!」
私はとっさにモモの腰に手を回す。
そしてそのまま後ろへと引きずっていく。
私よりも頭一つ分小さいその見かけどおり、体重は軽く楽に動かせた。
「ちょ、ちょっとレイさん! なにやってるんですか!」
「一緒に逃げるのよ! 大丈夫、知り合いにちょっとは強いのがいるからそいつに助けてもらえば何とかなるはず!」
「で、ですが……」
「いいから!」
モモの言葉を大きな声で打ち消す。
「私のために死のうとなんてしないで!」
上からモモの顔を覗き込み告げる。
モモはその言葉に呆気にとられたような表情を浮かべつつも
「は、はい」
と了承の言葉を返す。
パチパチパチ
その時、小馬鹿にしたような拍手の音が鳴る。
「うわ~、マジ感動したわぁ、ケケケ。馬鹿らしい」
そんな私達に馬鹿にしたような拍手と言葉を向けてくるセキト。
「笑うなぁ!」
激昂したモモから魔力が立ち上り、手に持った扇子を振るい『風弾』を飛ばす。
にやけた顔のままセキトはそれに刀を合わせ――
「なに!? これはっ!」
先程の様に切り払うことが出来ず、手元で破裂した。
至近距離で風の塊が破裂したことにより、セキトを風の刃が襲う。
スゥッ
そのほとんどが鬼の頑強な体に阻まれたが、1つだけセキトの頬に切り傷を刻むことに成功した。
モモの傷と違いごくごく浅いもので、血がわずかに滲む程度の小さな傷であったが。
「へぇ~」
セキトはその傷を指でなぞる。
指をそのまま眼前に持ってきてじっと見た後、指先についた血をペロリと舐めとった。
「火事場の馬鹿力って奴か? 今までとはまるで別もんだったからビックリしたぜ」
セキトがそう言うが、驚いてるのはモモ自身も同じ様で「あんな威力、初めてだ……」と呟いているのが聞こえた。
しかし私達はそこで呆然としている場合ではなかった。
この隙に逃げるべきだった。
「いいぜ、傷を付けてくれたお礼だ。全力で殺してやるよ『迷家』!」
その声と共に、セキトの体が霧に包まれた。
密度の濃い霧は真っ白にセキトを覆い隠す。
そして――
「さて」
「この中の」
「誰が」
「本物」
「か」
「わかるか」
「お前」
「達に?」
「見破れ」
「るものなら」
「見破って」
「みせろ」
「そんな」
「暇が」
「あれば」
「だがな」
霧の中から十数人ものセキトが現れ、次々に口を開く。
それらは全員同じ姿、同じ声をし、同じ武器を構えていた。
ご丁寧に先程つけた傷までしっかりと全員の頬についている。
「……これは卑怯でしょ」
そう口に出すが、状況は変わらない。
現れたセキト達は私達を円形に取り囲む。
それらすべてが私達に刃を向けてきた。
何とかならないかとモモを見るが、もう半分ほど目が閉じ意識が朦朧としていた。
血を流しすぎたんだ。
「死ねモモ。大好きな人間と一緒にな!」
他の手を探る暇を与えてくれるはずもなく、セキト達が襲いかかってくる。
モモの腰に回した腕にギュッと力を込め、どうにかモモを守ろうとその小さな体を胸に抱え込んだ。
「『朧剣山』!」
技名を叫びながら一斉に刀を突きだしてくるセキト達。
私は体を強張らせ、来たる痛みに備える。
「『ブレイバー(勇者)メテオ(流星)ナックル(拳)』!」
しかしやってきたのは痛みではなく声と光。
頭上からカッコつけたような声と共に黄金色の拳が降り注いできた。
その拳はセキトを残らず捉え、私達の目の前で叩き潰していく。
叩き潰されたセキトは、1人を除きすべて霧の様に姿を変えて消えてしまった。
残った1人も突然の攻撃に対処できなかったのか、痛みに顔を歪めながら私達から跳び退き、距離を取る。
そして、頭上から1人の男がスタッと私達とセキトの間に降り立つ。
黒いスーツに赤いネクタイを締めたソイツは
「れ、れ、レイ! 放課後に公園で男子中学生と抱き合うのは良くないと思うな、俺は!」
焦った様子で、そんな馬鹿なことを口走った。




