第6話
チャックのあるヒロインはいかがですか?
◇◇◇
「じゅ、準備中です」
異世界での記念すべき第一声は、マニュアル通りの対応だった。
バイト根性、染みついてます。
―――水を打ったような静けさの中。
最初に、私の神秘のヴェールを剥がそうと動いたのは宰相だった。
「………」
彼は無言で私から着ぐるみを引っぺがす。
やめてー、私の皮を剥がないでー。
「脱皮?」
相変わらずトンチンカンなことしか言いませんね、王子。
「殿下、何を言っているんです!
女神様がご降臨されたに決まっています!!」
相変わらず電波なことしか言いませんね、神官長。
「あなた達はバカですか?まったく、どこをどう見たらそうなるんです。
これが魔物以外の何に見えるんですか?」
相変わらず冷静ですね、宰相サマ。
あなたこそ、私のどこをどう見たら魔物に見えるんですか?
三者三様の反応を見せているが、全員的を外している。
今更だが、この世界には着ぐるみという発想はないのだろうか。
「この眩いばかりの美しさ。
あなたこそ(私の)女神です!!」
気のせいだろうか、変な副音声が聞こえる。
神官長は熱に浮かされたような様子で私ににじり寄り、跪いてくる。
あまりの気持ち悪さに蹴りたくなった。
「これはハリボテか何かですか」
さすが宰相サマ。王子や神官長ほどアレではありませんね。
そう、あなたが見ている着ぐるみは言わばハリボテです。
ポーカーフェイスと言うより、1ミリたりとも表情は動きません。
「―――ま、まさか私はコレにポーカーフェイスなどと……」
宰相は気付いたようだ。……自分の発言のマヌケさに。
それは、プライドの高い彼には耐え難いことだったらしく、逃げるように立ち去った。
◇◇◇
そう言えば、団長はどうしたのでしょう?
私が不思議に思い、彼のほうに目を向けると―――、穴が開くのではないかと恐怖を抱くほど強い眼差しでこちらをガン見していました。
団長は、私の足元に跪いている神官長と、未だによく状況の分かっていない王子の首根っこを引っつかみ、部屋の外へと歩いていく。
…2人共、力を入れられすぎて首が絞まっているように見えるんだが。
『ポイッ』
まるでゴミを捨てるかのような鮮やかな投げっぷりだった。
投げ捨てられた2人は大声で抗議するが、団長はそれを完全に黙殺している。
「有り難い神獣様の皮はくれてやる」
そう言って着ぐるみも放り投げると扉を閉めた。
しかし、私は見てしまった。
扉が閉まる前に、華麗に着ぐるみをキャッチした神官長の姿を。
「し、神獣様の香り…っ!」
『バタンッ』
◇◇◇
コツコツと団長の足音が室内に響く。
「あんなふざけたハリボテの中身が、まさかこんな美人だったとはな」
ふざけたハリボテって…、神官長が聞いたら怒り狂いますよ。
「女だろうとは思っていたが、これは嬉しい誤算だな」
あっ、やっぱり気付いていたんですね。
「どうした?ようやく話ができるんだ。かわいい声を聞かせてみろ」
………。
「か、顔が近いのですが」
着ぐるみは別の意味でも、私のことを守ってくれていたようです。
次はエピローグです。
恋愛(微)のタグがウソになっていないことを祈ります。