第1話「転生したら、小魚だった」
内容がなんか珍しいけど読んでいってください。
死んだ。
たぶん。
いや、絶対に死んだ。
阿部透は、そう結論づけた。
なぜなら――
「……息、できる?」
できる。
水の中なのに。
というか。
水の中でしか息ができない。
「…………」
透は周囲を見渡した。
青い。
どこまでも青い。
太陽の光が水面から細い筋となって差し込んでいる。
小さな魚の群れが、透の目の前を横切っていった。
「……魚?」
妙に近い。
いや。
近いどころではない。
水面に反射した自分の姿が見える。
銀色の鱗。
小さなヒレ。
細長い身体。
「…………」
透は沈黙した。
もう一度、自分の身体を見る。
「…………魚やん」
声が出なかった。
正確には、声を出そうとしたら、
「ギョ」
としか出なかった。
「ギョ……?」
終わった。
学生としても。
人間としても。
人生としても。
全部終わった。
なぜなら俺は今――
魚だからだ。
そのときだった。
視界の端に、奇妙な文字が浮かんだ。
【種族:ミナミコイワシ】
【レベル:1】
【HP:3】
【攻撃力:1】
【防御力:1】
【魔力:0】
【スキル:なし】
「…………」
透は思った。
異世界転生だ。
間違いない。
そして同時に、もう一つ。
「弱っ……!」
次の瞬間。
背後から巨大な影が迫った。
透は振り返る。
そこには、自分の十倍――いや、二十倍はありそうな魚がいた。
巨大な口。
鋭い牙。
こちらへ一直線に迫ってくる。
「ギョオオオオオオオオ!?」
逃げた。
全力で逃げた。
だが、小魚の速度などたかが知れている。
巨大魚の口が開く。
視界が真っ暗になる。
「嫌だ!」
その瞬間。
透は、生前最後の記憶を思い出した。
夜の海。
足を滑らせたこと。
冷たい水。
沈んでいく身体。
そして――
誰かの声。
『生きたい?』
あれは誰だったのか。
考えている暇はなかった。
「俺は――!」
透は必死に身体をひねった。
巨大魚の牙を紙一重でかわす。
そのまま海底へ突っ込んだ。
砂が舞う。
巨大魚は方向転換しきれず、岩へ激突した。
「……た、助かった……?」
違う。
まだ終わっていない。
巨大魚はこちらを睨んでいる。
透は震えながら周囲を見渡した。
そのとき。
目の前に、一匹の小さなエビがいた。
「…………」
エビを見る。
巨大魚を見る。
もう一度、エビを見る。
「……ごめん」
透はエビを食べた。
【捕食しました】
【経験値を獲得しました】
【スキル《硬殻》を獲得しました】
「…………え?」
透は目を見開いた。
身体の表面が、わずかに硬くなる。
そして――
【レベルが上昇しました】
【Lv.1 → Lv.2】
巨大魚が、再び襲いかかってきた。
透は逃げなかった。
いや。
逃げられなかった。
身体が震えている。
怖い。
死にたくない。
でも。
視界の端に表示された文字を見て、透は初めて笑った。
「……食えば、強くなるのか」
魚になった。
異世界に来た。
最弱だった。
でも。
「だったら――」
巨大魚を見据える。
「食いまくってやる」
こうして。
一匹の小魚による、異世界海洋成り上がり伝説が始まった。
面白かったら、ぜひ次回も読んでみてください!




