神様じゃなくてネクロマンサーです
「あ~あ、誰かさんのせいで足疲れた、揉んで。」
「誰かさんって誰だよ。俺じゃないだろうな。」
「あ~あ~、誰かさんのせいで歩く羽目になっちゃったー。」
「俺だけのせいじゃないよな?」
「あ~あ~あ~、足揉んで。特にふくらはぎ揉んで。」
「誰が揉むかよ。」
いや誤解のないように言っておきたい。可愛い女の子のふくらはぎを揉む機会があるならぜひ揉みたい。だが、今はダメだ。ケンカの真っ最中だからな!
「ノクタが!モタモタしたから!馬車に乗り遅れたんですー!」
「シンシアが!あんな面倒な事!首突っ込んだからだろ!」
気づけば二人で服の引っ張り合いを始めていた、そんな中。
ビリィ!
何かが破ける音がした。……シンシアが着てる服の、肩のつなぎ目が破れた音だった。
「あー!ひどーい!」
「あ、ごめ……」
「今この時をもって、私は可愛い女の子じゃなくて、見ずぼらしくて可愛い女の子にランクダウンしましたー!責任とってくださーい!」
可愛いは外さないのか……
「と、とりあえず替えの服を買おう。街も近いし。」
「ノクタがお金を出すことー!」
「それはお安い御用。……ごめん。」
「まあそういう事もある!ドンマイ!」
あれ?確かケンカしてて、ケンカが発展して、その結果良くないことが起きたのに。なんでシンシアは今ルンルンと嬉しそうなんだろうか……
~ジャミルルへようこそ!~
そんなやり取りをしていたら、最寄りの街までたどり着いた。ここが、ジャミルル市街地か……大きめの街だが、冒険者の街じゃない。本来なら馬車に乗ったまま通過する予定の街だった。
「お土産屋だって!ねえノクタ、お土産屋!」
「まず服だろ……服屋に行こうよ。」
「アニスシード二つくださいなー!」
「聞いちゃねえな。」
せっかくだし楽しむか。アニスシードをひとつ渡されたので二人でぼりぼりと噛む。口の中で香りが破裂して……あ、これ口臭ケアだわ。さっきニンニク料理食べたんだったわ。
「あのお菓子屋からいい匂い~!」
シンシアと店の中に入っていく。確かにいい匂いだ。焼けた小麦粉の匂いとバターの香り!
「アップルパイ!ホールでひとつください!」
最後のアップルパイを丸ごと買った。ホールって。デカすぎるだろ……
「ありがとうございましたー。」
「後で食べようね!」
そう言ったシンシアと外に出て……わずかな段差にシンシアがつまづき……
べチョン。
アップルパイがひっくり返り、地面に落ちた。同時、たまたま通りがかった馬車に踏まれる。
「あー!アップルパイが!」
「ああああ…………」
せっかくいい雰囲気だったのに……
「お金、半分出して☆」
「はいはい……」
そんな感じで、買い物は一旦やめにして街の中をぶらぶら散策することにした。
「噴水広場!」
「カラフルなベンチ!ちょっと休憩する?」
「ここが役所かな?」
「ここで演劇が見れるんだって!」
「そしてここが……」
路地裏だ。昼間でも、こんなに暗い……ひんやりとした風が奥からただよってくる……
「シンシア、戻ろう。」
ここは危険な場所かもしれない、そう直感が告げる。
「待って……なんか変。」
シンシアはずいずいと奥へ進む。いやここは、危ない気がする!
「戻ろう!シンシア!おい……!」
路地裏の一番奥に……骸が転がっていた。
「見るな!シンシア!」
「ノクタ!見ちゃダメ!」
シンシアの視界を塞いだと同時に、俺の視界も塞がれる。
「……過保護かよ。」
「……これは過保護ね……」
オオオオオオン…………
オオオオオオン…………
なんだ、この音は……声?
「ノクタも聞こえる?」
「聞こえる。」
「多分、嘆きの声。死霊の声よ。この人の。」
足元には骸が転がっている。二人でしゃがみこむ。
「いきさつを聞きましょう。」
「え、そんなこと、どうやって。」
「……"言語付与"」
シンシアは魔法を使った。そんなこともできるのか……
「死にたくない……死にたくないよ……」
ぼやけた音だが、確かに声になっている。
「死にたくない……死にたくないよ……」
ずっとこれがループする。……こんなところで死んでしまっては、当然の主張だろう。
「その望み、うけたまわり……」
シンシアは手のひらから黒いゴボゴボが漏れる。俺が毎日シンシアから受けている"魔力譲渡"だ。それを目の前の骸に移す。
「そして、"肉体修復"」
みるみると骸が、生きている人間の姿になっていく。肉体修復は俺も受けたことがあるが……このレベルまで修復できるのか!
「だからーシンシアちゃんにはー、これが一番なんだって。」
「胸元が派手すぎない!?」
「いいのいいの!男はこういうのが好きなの!」
俺たちはライラさんと一緒に服屋に来ていた。ライラさんっていうのはさっきまで骸だった人な。女だてらの剣士で、腕はそこそこ立つらしい。
「はい完成。さあお披露目よ!」
「絶対イヤです!」
「まあまあそう言わずに。」
試着室のカーテンがシャーっと開いた。目に飛び込んできたのは……
黒いレースのゴシックドレス、頭に黒い薔薇があしらわれたヴェール付きヘッドドレス。そして首にはネクロマンサーを象徴するようなドクロがついたチョーカー。
「綺麗だ……」
思わずそうつぶやいてしまった。いや、これはかわいいというか……きれいだ。
「じゃあこれ買う。」
「ほーら、言ったでしょー?ライラさんのお墨付きよ。」
その服は目が飛び出るほど高価だったが、ライラさんが全額出してくれた。本人いわく「こんなもんじゃ足りない」だそうだ。
「もう服を引っ張りあうケンカ、できないね。」
「シンシア、値札がまだ付いてる。」
三人で服屋を出たら……空がオレンジ色に染まっていた。もう夕方か、食事をとろう。
「じゃあ範囲にかけるイメージで……"空腹促進"」
途端にライラさんがとんでもない速度で鶏の丸焼きをむさぼる。
「はっ!?肉が消えた!?」
「いや、ライラさんが食べたんです。俺も経験あります。」
「完全に想定通り。じゃあ今から食べるものを選びましょ。」
「まずは飲み物!店員さーん!エールをジョッキでお願い!」
「私はカモミール。ノクタはいつも通りショーンでいいわね?」
(※ショーンとは麦茶のようなイメージの飲み物です。)
シンシア、グッジョブ!本来のノクタ君の好みはわからないからな!……あとは三人で飲めや歌えやの食事会を楽しんだ。
『ごちそうさま。』
さて、宿を取らないとな。
「たらふくメシ食ったら、次は男だ!ナンパしてくる!」
そう言ってライラさんは他のテーブルの男性客たちに声をかけ……店を出て行った。
「なんていうか、豪快な人よね。」
「見ていて清々しいよ。」
今日は、もう寝ようか。ちょっとだけ、疲れたんだ。宿を二部屋とって階段を上り……
「アンデッドも、睡眠は自力でできるみたいだな。」
「言われてみれば、そうね。ねえノクタ。」
「なに?」
「ライラさんを復活させた時のこと覚えてる?」
「誰だって神様だって思っちゃうよな。おやすみ。」
「おやすみ。」
別々のドアを開ける。今日は、泥のように眠れるだろう。
明日……何をしようか。明日……明日……




