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今回だけの特別だよ

「はー、ダルい。まあでも、質問があるなら答えるよ。」


 目の前のダルそうな人物はそう言った。男?女?そもそも、誰?


 少なくともこれだけはわかる。この人物、かなり立場が「上」の存在感をかもし出している。そんな気がするので失礼がないようにしないと……


「あなたの名前は?」


 そう俺が聞くと、目の前の人物は目を見開き……


「アーッハッハッハ!それが君の願いかい!?違うだろ!?」


 大声で笑った。嘲笑(ちょうしょう)するつもりはなかったのか知らないが、不思議と不快感はなかった。


「初手で名前、名前って君。面白い。ちょっとやる気出た。」


「会話する時に困るんで、俺が勝手にあなたの名前を付けるのはありですか?」


「あー、それはアリ。アリよりのアリ。呼び名、ないと困るよね。」


「じゃあなんか黒いからブラックさんで。」


「………………」


 あれ、ダメだったか?不採用か?ちょっとこの沈黙、耐えられないんだけど。


「いいね君、センスあるよ。採用。」


 おお、自分の提案したことが採用されると嬉しいものだな。


「ブラックさんは、何者なんですか?」


 ブラックは一呼吸置いて、


「カ・ミ・サ・マ。」


 と答えた。神様、マジか……


「いや正確に言えば悪魔なんだけどね。」


「だいぶ違くないですか!?」


「もっと正確に言えば神、もっともっと正確に言えば悪魔。」


「な、なんだか哲学的ですね……」


「神と悪魔が交互に出てくるマトリョーシカだよ、あの国の光と闇だ。これで伝わる?」


「はあ……大体。」


 目的が不明な超常的な力を扱える存在って理解しておこう。


「そして、ここは狭間(はざま)だ。生と死の狭間。君は山賊にやられて、一定以上のダメージを受けた。だからここに来れた。」


 山賊にやられた、という事を思い出したと同時にゾッとする。


「シンシアは!?シンシアは無事なのか!?」


「見るかい?」


 空間に巨大なスクリーンがブオンと登場した。シンシアの姿が映し出されている。……倒れている4人の山賊を順番にロープのようなもので拘束している……


「ああ、これは今の状態だね。ちょっと巻き戻すよ。」


「あ、無事ってわかったんでいいです。」


「いや見てよ。」


 シンシアは器用(きよう)に杖を使い山賊を転倒させて……なるほど、地面や家具に頭を強くぶつけさせて気絶させる流れを4回繰り返していた。


「強すぎるだろ!?」


 思わず素でツッコんでしまった。ここまで強いなら俺いらなくない?俺いらない子じゃない?


「……いや、本来のノクタは彼女より強かったよ。」


 まじか、だからシンシアは「ノクタなら楽勝」とか「けちょんけちょん」とか言ってたのか。


「……君、戦闘経験はあるのかい?」


「えっと、かなり長い期間、病院のベッドで過ごしてました。ケンカもしたことないです。」


「……知ってた。」


 ブラックはスクリーンから俺に視線を移す。


「では、君にチカラの使い方を授けよう……」


 こういうのってチカラを授けよう……じゃないんだ。


「チカラ自体はあるんですね。」


「ノクタの肉体に眠る戦闘データを君の魂にインストールするよ。……この説明で通じるかい?」


「いやそれが出来るならもっと早く登場してくださいよ!」


「1話目でしっかり登場してるから。あれが限界だったから。」


 なるほど、よく覚えていないが登場してたのか。


「じゃあえーっと、ここをこうして。はい終了。」


「いや雑すぎないですか!?」


「簡単なんだよ、この作業。Ctrl+CとCtrl+Vを押すだけさ。」


「な、なるほど……ありがとうございます。」


「……礼はいらない。そして、そろそろ時間だ。」


 空間が天井の方から崩壊していく……


「ああそうだ、次ここに来るときは……アレを持ってきてくれ。僕の大好物なんだ。」


「え?アレってなんですか?アレじゃわからないですよ?」


「とにかく、アレを持ってきてくれ。」


「だから、アレってなんなんですか!?」


 空間が完全に崩壊し、何かの流れの中に巻き込まれる。


「アレってなんだああああ!!!!」




「"肉体(にくたい)修復(しゅうふく)"」


 シンシアの声がする。確か俺は山賊に一方的にボコされて……


「シンシア!?無事だったのか!?」


 4人の山賊が仲良く縄で縛られている。どうやら無事だったらしい。


「まったく、ノクタって人使い荒いんだから。確かに私だけでもなんとかなるんだけど。」


 え、シンシアさん一人でなんとかしたの?


「いや本当になすすべがなくて……」


「冗談はやめてよ。わざと気絶するのってかなり危険なんだから。」


「気絶してたの?」


「うん。」


「何か変な夢?見てたんだけど、そっか気絶してたんだ。」


「内容は覚えてるの?」


「覚えてない。夢ってそんなもんだと思うけど。」


「ちょっとしっかりしてよ~ぐっすり眠ってたわけ~?」


「め、面目(めんぼく)ない……」


 とにもかくにも。


「牛!無事に保護しました☆」


 そう、俺たちは牛を取り返しにこんなところまで来てたわけだ。


「牛さん牛さん。美味しいお肉に、な~れ☆」


 牛は「モー♪」と嬉しそうだ。いや、お前これから死ぬんだぞ……なんで嬉しそうなんだ……?


「ありがとう!ありがとう!これで店を再開できるよ!」


 ブロック肉を渡すと店員は泣いて喜んだ。


「ニンニクマシマシステーキ!二人分!じゃなくて三人分!」


合点(がってん)承知(しょうち)(すけ)!二人には特別にニンニクマシマシマシマシだあ!」


「やったー!」


「バーニング!燃えろ!肉よ!燃えろお!」


 この店員は厨房に立つとキャラが変わるタイプだった。


「ニンニクマシマシステーキ、三人前お待ち!いや四人前だあ!」


「おいしそー!ねえノクタ!」


 シンシアは大喜びで俺も嬉しくなってくる。やっぱり可愛い女の子には笑顔が合うな……しかし、俺には不安があった。この空気を壊したくない。壊したくないが、これだけは言わなくてはいけない。


「シンシア……ごめん。食欲が、ないんだ……」


 そう、俺には食欲がない。数日前から何も口にしていないのに、食欲がないんだ……おいしそうな肉を目の前にすれば、食欲もでてくるって期待していたんだが……


「あ、やっぱり。本に書いてあった通り。」


「本?」


「アンデッドって、食事を必要としないんだって。」


 なるほど合点(がてん)がいった。同時に不安が襲う。


「じゃあ……この四人前のステーキ……全部シンシアが……食べなきゃいけないのか……」


「私小食だから、一人前でギリかな。」


「え、どうするの?」


「ふっふーん、ここでシンシアさまの魔法の出番ってワケ!」


 この状況を打破できる魔法があるんですか!?


「"空腹(くうふく)促進(そくしん)"!」


 そう言われた瞬間、突然の飢餓(きが)感が襲ってきた。


 肉だ!肉だ!肉肉肉肉!!喰わせろ!喰わせろお!!!


 ……気がついたら、一皿分のステーキを平らげていた。


「ノクタ、やっぱり腹ペコさんだった。」


 二皿目はシンシアと一緒に味わいながらゆっくり食べよう。


『いただきます。』


 二人で手を合わせ、ナイフで分けたステーキを頬張る。


「おいしー!」


「うまい!」


 いやコレ……本当に美味しいな?


『ごちそうさま。』


 楽しい食事が終わったが、まだ一皿残っている。


「いいよいいよ!ボクが食べるから!」


「えっと、おいくらですか?」


「君たちには本当に感謝してるから、2割引きで銅貨12枚だよ!」


 いやそこは……タダにしろよ……


「あれ?そういえば時間大丈夫?」


 確か、馬車の待機時間……2時間!?今どれくらい経った!?


 駐車場に戻ったが、馬車の姿はもうなかった。


「ああもう!ここからは歩きなんだから!」


 これはこれで、いいか。まあ、一言だけいわせてくれ。


「とほほ~☆」

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