君は知らなくていい
「へーえ。ネクロマンサーってこんな魔法もあるんだ!」
シンシアは貰った教本を熟読している。
「どんな魔法があるの?教えてよ。」
そう俺は質問する。
「えへへ~、ナイショ!」
「内緒か……危険な魔法じゃないよね?」
「危険じゃないし、覚えたら絶対使うからね。」
「そんなに重要な魔法なんだ?」
「表紙を見たときはちょっと不安だったけど、ちゃんとした本。」
本の表紙には、相変わらず「アンデッドとともだちになろう」と読めない文字で書かれている。まあ、タイトルからすると危険な魔法はなさそうだけども、実用性についてはかなり疑問だった。
「役に立ちそうで良かった。」
「ホントよ!」
ガタガタと馬車が揺れる。俺たちは冒険者の集う街まで向かっているところだ。建物が多くなってきたところで馬車が止まる。
「サービスエリアに到着しました、各々自由時間をお過ごしください。出発は2時間後です。」
と御者は告げた後、客室に入ってきて仮眠を取り始めた。そこで寝るのかよ……あと、サービスエリアなんてあるのか……看板を見ると「ジャミルルSA」とこれまた読めない文字で書かれていた。ああ、もう読めるからこの表現しなくていいか。
とにかく、今俺たちは「ジャミルルサービスエリア」にいるらしい。
「ご当地グルメ!ご当地グルメを食べるわよ!」
シンシアは興奮気味だ。
「シンシア、お金の使い過ぎには気を付けるんだよ……」
「わーかってますって!」
おそらく飲食店であろうお店がいくつか並んでいる。俺の知ってるサービスエリアとはかなり違うが、確かにここがサービスエリアだということはわかる。言うならば「異世界サービスエリア」だ。
「ニンニクマシマシステーキだって!食べたい!」
シンシアが看板を指さす。
「はい。ここの特産品はニンニクです。最高の気温と湿度と健康的な肥料で育ったニンニク。普通のニンニクより風味が上品でコクが深く、辛さもマイルド。そんなニンニクをふんだんに使ったステーキこそがここのご当地グルメだと言えるでしょう。」
「お兄さんだれ?」
「いやお前誰だよ。」
さっきまで馬車に一緒に乗ってた人だということは記憶しているが……俺とシンシアの楽しい冒険に、踏み込んで来るんじゃあない!
でも初見だから説明助かったわ、ありがとう。三人(?)で店に入ることにした……が。
「お店、開いてない……」
店の入り口には"CLOSED"の看板が掛けられていた。
「おかしいですね……平日とは言え、このランチタイムど真ん中の時間に休業とは。考えられる原因としては、流通の停止がまず挙げられます。いわゆる品切れです。食材が切れたのでしょう。いや、しかし交通の要所であるサービスエリアで流通が止まるなんて、どう考えてもおかしい。何か不測の事態があったのかもしれません。」
いやお前が違和感を説明するのかよ……
「確かめてみましょう。」
そういうとシンシアは店の裏手に回り、ボロボロの小さな階段を上っていく。
「ちょ、シンシア!?」
そのまま二階の……おそらく居住スペースであろう扉をどんどんと叩く。
「すみませーん、店員さん!いるんでしょ!?」
ちょっとシンシアさん破天荒すぎない?それともこの世界じゃ当たり前なのか?閉店中の店員の居住区を尋ねるって普通やるか?
「気持ちは痛いほどわかりますが……彼女の取った行動は悪手と言わざるを得ません。ランチタイムと言えども店が閉まっていると分かったなら、客としては退散するしかない。それを居住区まで追いかけるとは。例えば体調不良で休んでいる可能性だって考えられる。無礼極まりない。」
この世界基準でもシンシアの取った行動はあんまりよくないことだと解った。説明本当にありがとう……お前は用済みだ。
「いやお前もういいから。説明しなくていいから。」
「ではおいとま致します。」
謎の説明キャラは別の飲食店内に入っていった。
そしてそれとほぼ同時に、部屋の扉が開いた。
「何の用ですか?」
ああよかった。怒ってる雰囲気じゃない。安心して俺も階段をゆっくりと上る。
「ニンニクマシマシステーキ!食べたい!」
そうシンシアが目をきらきらさせていると、店員と思しき人物が申し訳なさそうな顔をする。
「お嬢ちゃん、ごめんね。肉が品切れなんだ……ごめんね。」
「何かあったんですか?」
「不測の事態でも?」
「そうなんだ……実は牛を乗せた馬車が、山賊に襲われて……」
俺は嫌な予感がした。おいおい、山賊かよ……サービスエリアとかニンニクマシマシステーキの言葉の印象が強くて、ここが基本ファンタジー世界だということを完全に忘れていた。
……そして、今俺とシンシアはお約束のように山賊のアジトを覗いていた。経緯は必要ないから省いた。
「おら!牛乳を出せ!」
「牛乳も出ねえのかこの牛は!役に立たねえな!」
山賊たちが捕まえた牛を殴ったり蹴ったりしている。シンシアは目を覆う。
「……自由を奪った状態で殴るなんて……ひどい……」
確かに、あまり見ていて気持ちのいい光景ではない。
「……シンシア、作戦はあるのか……?」
「……ない。でもノクタなら楽勝よ……」
山賊は大柄な男性4人だ。果たして大丈夫なのか……?
「……けちょんけちょんにしてやりなさい……」
OKわかった!
「お前ら!いい加減にしろ!」
『!?』
俺は大見得を切った。
「どう見てもその牛は乳牛じゃない!肉牛なんだよ!」
「なんだあてめえわ!」
「てめえにウシの違いがわかるっていうのかあ!?」
「白と黒が乳牛で、茶色いのが肉牛だ……それ以前に。」
「なんだあてめえわウシ博士にでもなったつもりかあ!?」
いや、常識だろ。
「それ以前に、その牛は……オスだ。牛乳が出るわけないだろ!」
「てめえ!牛に男と女の区別があるって言いてえのか!」
俺は困惑した。この教養の無さ……これはこいつらが特別おかしいのか?それともこの世界はみんなこうなのか?わからない……
「馬鹿が、よく見ろ!この牛にはチクビがついてんだろ!」
「いや、それはお前らもついてるだろ……オスでも。」
俺の今の顔、どうなっているんだ?呆れなのか憐れみなのか、どんな顔をしているんだ俺は……
「わけわかんねえこと抜かしやがって!てめえらやっちまえ!」
『ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
山賊たちが襲ってきた!
……
………………
俺は倒れていた。いや、なんとかなると思ってたんだけどな?
無理だったわ。4人相手は無理だったわ。けちょんけちょんにされたわ。
「シンシア……逃げろ……」
視界がぼやける。意識が………………
「ここは?」
気がついたら知らない場所にいた。どこだここは?
目の前には木の棒が地面に刺さっていて、棒の先には鳥が止まっていた。
「ノクタァ!ノクタァ!よく来たなァ!」
「うわ!喋った!」
喋る鳥と言ったらオウムか?インコか?……どっちでもないな。……鳩?いや似てるが違うな……なんだこの鳥……?
「アタマァ!撫でろォ!撫でろォ!」
え、これ触っていい系の鳥か?恐る恐る人さし指の腹でその鳥の頭を撫でる。
「どうだァ!思い出したかァ!」
「いや、全然……」
「ははァ!まあゆっくりだなァ!どうだァ?可愛い女の子と一緒に楽しい冒険ってやつは満喫しているのかァ?」
「いやなんか、また死んだっぽい。」
「……いや、死んだわけじゃないよ。」
空間の奥から中性的な声がして、それはゆっくりと近づいてくる。
「あんまり仕事をするのは好きじゃない……ダルいし。」
低血圧そうな人が現れた!




