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第9話 僕らみたいな寮生に、牡丹餅は高すぎるんだよ!




二人と赤目守りが、無事森の入口まで辿り着くと、寮母さんが仁王立ちして待ち構えていた。


 そして、木之本 かなでが、その後ろからすっと出てきた。


ことりは初め、女の子かと思った。

綺麗な顔立ちで、髪も長くて手足が細い上に、すらりとしていたからだ。

しかし、声を聞いた途端、がっかりした。


(なんだ、男子か……)  


 奏が、赤い小包を、赤目守りに差し出して一礼した。


「あなた様のおかげで森は安泰です。どうぞ、お納め下さい」


 寮母さんも頭を下げた。


「大変な非礼を心よりお詫び申し上げます。これも全て、私の不徳の致すところです」


 木の葉と、ことりも頭を下げた。それから、ことりは、ぱっと顔を上げた。


「僕、君と喋れて楽しかった。また遊ぼう!」


 寮母さんは、ぎょっとした。奏と木の葉も驚いた。

 しかし、赤目守りは赤い目を細めて頷いた。


「あんた、優しい子だね。楽しみに待ってるよ」


 赤目守りの口元に柔らかい微笑が浮かんだ。


「あんたとは初めて会った気がしなくてね。あたしの友人に顔立ちが似てるんだ。とびきりの美人だよ」


そう言うと、赤目守りは森へ帰って行った。

森に入る寸前で、赤目守りは、ふと思い出して振り返った。


「……別に鳥じゃなくても空は飛べるね。龍の子なら……」


小豆色の背を見送ると、寮母さんは二人に拳骨をくらわした。


「呆れてものも言えないね!入寮初日に脱走かい?その上、赤目守り様に、あんな事を言って!木の葉、あんたも、あんただよ!脱走の手助けをしたのも十分、悪い!だけどね、逆に足を引っ張って、どうすんだい?あんたは、アホの子かい?牡丹餅の代金は忘れず奏くんに返すんだよ!いいね?」


 赤目守りが住む森から小守寮までは、直線でニキロもないが、帰り着く間ずーうっと、木の葉と、ことりは説教された。


 その合間に上空で、二羽のオオヨシキリが順番に騒がしくさえずった。


「ギョギョシ・ギョギョシ」


「ギョギョシ・ギョギョシ」


 彼らの鳴き声を聞いて、ことりは空を見上げた、言葉が完全に分かったのだ。


(やっぱり、ね……)


 ことりは、自身の妖能力の開花に驚きながら、呟くように礼を言った。


「ありがとう」 


 小守寮から、そう遠くない場所に、赤い屋根の小学校が建っていた。  


 夕陽がシンボル《西野小学校》、奉公屋の子供たちが通う人には見えない小学校だ。


 どの先生も《熟練奉公屋》で、子供たちを立派な《奉公屋》に育てる為、日々奮闘している。


 小学校は全寮制で、児童は皆、小守寮に住んでいた。 


 「明日から夏休みだね。ちょうどいい、あんたたちに決めたよ。朝から晩まで、罰掃除をさせるからね!」


  寮の入口で、寮母さんが締め括った。


  ことりは、部屋替えを明日願い出ることに決めた。

  今夜はもう、寮母さんの不快なきいきい声を聞きたくなかった。


  部屋に戻ると、ことりと木の葉は急いでTシャツを脱いだ。

  しかし脱ぎにくい。

 逃走中も、終了後も、汗で肌に張り付いて、あっという間に冷たくなってい


「あーあ、しくじったぜ」


  木の葉は短パンも脱いで服を着ないでベッドにダイブすると、掛布団を引っ掴んで、くるまった。


  ことりは、青と白の縞模様のパジャマに着替えながら非難を浴びせた。


「森は俺の庭だ!脱走のプロだって豪語したよね!」


 木の葉は無言だった。

 代わりに奏が、幼なじみの脱ぎ散らかした服を拾いながら話し始めた。


「安心していいよ、今後、迷うことはないから。来週には、あの森は潰される。新しい校舎を建てるんだ。牡丹餅は、いらなくなる」


「はあああっ!?何だよ、それ!」


 木の葉が、大声を出して飛び起きた。

ことりも目を見開いた。


「えっ?本当なの?」 


「何で、さっき黙ってた!」


 木の葉が奏に飛び掛かった。


「寮母は知ってるのか?」


胸倉を引っ掴んで問い質すと、奏が、木の葉を突き飛ばして声を荒げた。


「全寮生、知ってるよ!木の葉は赤目守りの味方で、反乱因子だから困るんだ!牡丹餅もタダじゃないんだ!木の葉も言ってたじゃないか。僕らみたいな寮生に、牡丹餅は高すぎるんだよ!毎週売りに来るおばさんは、意地汚くて高値で買わそうとするだろ。僕ら寮生全員で、値引きして欲しいってどんなに頼んでも、三円しか負けてくれない。金の亡者だよ!手作りするにも材料費がかかるんだ!家庭科室を借りるにも許可がいる」


「牡丹餅は、いくらなの?」


 興味が湧いて、ことりは聞いた。


「一箱、千五百円だ」


 木の葉が、むっとした顔で答えた。


「あのばーさん、箱買いしかさせねーんだ。中身は牡丹餅が三つだけで、千五百円もする!ケチぃばーさんだぜ!」


「一つ五百円なの?」


 ことりは思わず叫んだ。今日一番の驚きだった。


「小学生から毎週、千五百円も取るの!」


「ほうらね、高いでしょ」


 奏が勝ち誇った表情で続けた。


「君たち、五百円ずつ返してよね。消費税は負けてあげるよ、今回だけ」


 ことりは申し訳ない気持ちで頷いたが、木の葉はチッと舌打ちして顔を背けた。


「そのお婆さん、和菓子職人なの?」


 ことりが聞くと、奏は首を横に振った。


「違う、鯉売りだよ。先生から聞いたことがある」


「何で鯉だよ」


 木の葉が聞くと、奏は、「さあ?」と首を傾げた後、続けて言った。


「どっちだっていいさ。とにかく、牡丹餅は高いんだ。新校舎だって、僕らには嬉しい話だろ?町へも行き易くなる。森一つ潰れたところで、困るやつなんか一人もいないよ!」


「おい、本気で言ってんのか?あいつの居場所は、どうなる?赤目守りを追い出す気か?おまえ、平気なのか?」


 木の葉が握り拳を振り上げた瞬間、ことりも奏に食ってかかった。


「森の野鳥や動物、樹々はどうなるの?ペットの霊だって来られなくなるのに!赤目守りは知ってるの?木之本くんも寮母さんも、あんなにヘコヘコしてたのに、腹の中では笑ってたわけ?人として恥ずかしくない?全員グル?」


 途端に、奏が険しい目つきで新しいルームメイトと幼なじみを見た。


「平気も何も、先生たちが決めたことでしょ。なんで二人とも僕を悪者にするの?」


 奏の表情は、今や苦虫を噛みつぶしたようで…一人だけ責められる状況に腹を立てて、目は異様にギラギラ光っていた。


三対一の取っ組み合いが始まろうとした、その時だった。


コンコン


誰かが部屋をノックしたのだ。


「やべっ。寮母かも!」


 木の葉は、大急ぎで赤いパジャマを箪笥から引っ張り出しだが、着終わる前に、ガチャリとドアが開いた。


 立っていたのは、木の葉と奏の幼なじみだった。

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