第10話 僕も一緒に闘う!先生達はロクデナシだ!
ことりは唖然とした。時刻は、きっかり九時。
こんな時間に突然、おさげ髪の女子が男子部屋に入り込み、平然とドアを閉めたのだ。
「脱走、失敗したんだって?バカじゃん?」
ウサギ柄のパジャを着て、さくらんぼ柄の枕まで持参している。
「男子寮と女子寮は、分れてるよね?」
ことりは戸惑いを隠せなかった。それを見て、おさげ髪の女子が笑った。
「あははは、硬派?」
ことりはカチンときたが、女子に怒るわけにもいかない、ぐっとこらえて、なるだけ優しく話し掛けた。
「僕たち寝ようと思うんだ。君も帰った方がいいよ。見つからないように気を付けてね」
「大丈夫。枕、持って来てるから」
「ここで寝るつもり!?君、女の子だろ?海外じゃないんだ!年頃の子が、はしたないよ」
「別に、いいじゃない。木の葉と奏は、家族みたいなものだし。あんた、頭が固いのね。お年寄りみたい。お爺さんよ」
ことりは顔を真っ赤にして、ドアを指差した。
「部屋から出てってよ!就寝前に来て非常識きわまりない!迷惑だよ!」
いっそのこと放り出してやろうか、という気持ちにもなっていた。
しかし、瀬奈 は、丸顔に笑みをたたえてポケットから三枚の紙を引っ張り出した。
「あんた、融通もきかないのね。そんなことより、あんた達、ミステリー・スイーツ園芸部に入らない?勧誘に来たの。これ、入部届。ここに名前を書いて。締切は、伸ばして貰えたから平気」
勧誘者の乱入で、三人は、すっかり毒気を抜かれた。
喧嘩意欲は削がれたが、ことりは憤慨し続けた。
「明日から夏休みなのに、新入部員が集まらなくて、困ってるの。あたしと、ともちゃんと、ゆいちゃんの三人しかいないから、先生が少ないって文句を言うの。ひどい話よね。新しい先生に変わったから、仕方のない話だけど。今度は、おじいちゃん先生なの。だから、あんた達も入部して。ほら、早く書いて」
「俺は断る!」
木の葉は再びベッドに倒れ込むと、幼馴染に背を向けた。
「僕も嫌だな。勧誘じゃなくて、強制じゃないか。そもそも、僕は土いじりが大嫌いなんだ。知ってるだろ?土の感触が気持ち悪くてたまらない。考えただけで、ぞっとする!」
奏も顔をしかめて、窓の外に目を向けた。
ことりは何も言わなかった。
口を聞きたくなかったので、そっぽを向いて態度で示したが、瀬奈は、ことりの両手を握り締めたのだ。
「ありがとう!明日から、よろしくね」
「えッ?」
「沈黙は肯定でしょ。まさしく救世主。星川ことり君よね?本当に、ありがとう!ことちゃんの手、骨張ってるのに柔らかいね」
「違う!人の話を聞いてよ!」
ことりは初めて女子に怒鳴った。ほぼ金切り声だった。
「僕に触らないで!勝手に、あだ名を付けないでよ!」
木の葉が仕方なく立ち上がった。
「瀬奈やめろ。こいつを巻き込むな」
「どの口が言う?手引をしくじったのは、あんたでしょ!」
瀬奈の反論は最もだったが、奏は瀬奈の左頬を思い切りつねって、ことりから引きはがした。
「いたたっ!暴力反対!」
瀬奈が顔をゆがめたが、奏は平然としていた。
「星川くんが困ってるだろ?転校初日から再三、迷惑な話だよ」
奏が申し訳なさそうに謝った。
「星川くん、ごめん。瀬奈は、いつも強引なんだ。口は悪いし、顔つきも高慢で、おまけに態度は横柄だ」
「見れば分かるよ」
「ちょっと!あんた達、二人どうして入部してくれないの。ひどいじゃない!」
これを聞いて、ことりが叫んだ。
「僕も断ってるよ!」
「そんな……冷たいこと言わないで……」
さっきまでの威勢はどこへ消えたのか、瀬奈が突然しょぼんと項垂れた。
そして両手で顔を覆うと、その場にしゃがんだ。
「え、あ、ごめん」
ことりは困惑して謝ったが、幼馴染二人は、うんざりして溜息を吐いた。
「またか」
「まただね」
瀬奈のいつもの常套句、常套手段なのだ。
木の葉は、憐みに満ちた目で新しいルームメイトを見つめた。
「九十九人目の被害者か。何だろ、この罪悪感。俺、悪くねえのに」
「面倒見の良い男子が犠牲になるよね。幼馴染みとしての罪悪感だよ。それに、木の葉は、いとこだから」
奏も、気の毒そうな眼差しを、ことりに注いだ。
「僕、君を傷付けるつもりはなかったんだ。入部しないけど、話は聞くから。ね、泣かないで」
ことりが近付いて宥めすかすと、瀬奈は瞬時に顔を上げて微笑んだ。
両目は輝き、喜びで溢れていた。
「赤目守りって知ってる?あたし、友達なの」
「え?」
ことりは目を丸くした。
「森を潰す計画は知ってる?」
「さっき聞いたよ」
「あたし、森を潰すのには猛反対なの。あの子は良い妖怪よ。迷子になったら助けてくれるし、森の小鳥も動物も、あの子が護ってる。あたし、友達を護りたい!今こそ、ミステリー・スイーツ・フラワーズの出番なの。皆これまで散々、赤目ちゃんに助けて貰ったのに、あんまりよ!」
意気込む瀬奈を前にして、ことりは右手を差し出した。
「入部するよ、君に協力する!僕も、赤目守りと友達になったんだ!あの子の住処を壊すだなんて酷過ぎる!森の動物たちだって追い出されるんだろ。情の一つも無いのかな、最低な学校だ!妖怪と人間の仲を取り持つのが、奉公屋の仕事なのに!良い妖怪を追い出そうとするだなんて、奉公屋の恥だよ。僕も一緒に闘う!先生達はロクデナシだ!」
ことりが苦情を打ちまけると、瀬奈も、頼もしく頷いた。
「その通りよ!ことちゃんのような心優しい仲間を探してたの!建設妨害の作戦は既に練ってあるから、後は実行するだけよ」
「すごいよ、君、素晴らしい行動力だね!」
ことりは感嘆した。先程までの怒りはすっかり消え失せた。
「決行は、明後日なの」
「えっ?明後日?早いね」
ことりだけでなく木の葉と奏も驚いて、すっとんきょうな声を出した。
「へっ?えっ、へっ?」
「ええっ?な、えっ、何で明後日?日付が変わったら、ほぼ明日じゃないか!」
「アホ面してるわよ」
幼馴染二人を鼻で笑うと瀬奈が話した。
「工事は来週よ?先生たちに邪魔されたら困るの。一刻も早く勝利を収める!それに、満月は明後日…だから絶対に明後日なの!目にもの見せてやる!」
「うん!見せてやろう!」
ことりが言い切ると、瀬奈も心を込めて言った。
「ことちゃん、ありがとう!あたしたち、今日から同士ね!」
あだ名で呼ばれても、ことりは笑顔だった。
入部届に記名すると、瀬奈と一緒に、右手を上げて復唱した。
「心を一つに立ち向かおう!エイエイオー!」




