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第11話 赤目守りを助けたいのは同じだ




木の葉と奏は、弱り切った顔で見かわした。


  「どーすんだ」


  「どうするって、木の葉あっち側じゃん。さっきまで僕に説教たれてたよね?行けば?」


  「すねんな。おまえも入れ!」


  「僕は、お菓子作りに興味がない」


  「俺もねーよ、菓子は食べる派だ。けど、赤目守りを助けたいのは同じだ。ただ…何で部活と関係があるんだ?」


  「さあね、本人に聞いたら?」


  奏は素っ気なかった。木の葉は聞かなかったことにして、話題を変えた。


  「あいつら、先生を相手に、とか…実戦経験が豊富な熟練の奉公屋を怒らせようとしてんだぜ。喧嘩相手が学校だぞ。ベテラン連中を敵に回すんだぜ」


 「それだけで済まない。奉公屋の育成小学校に手を出すってことは…奉公屋全員に喧嘩を売るってことだよ。星川くんが心配だ……」


 瀬奈は、新しい仲間と意気投合して談笑していた。


 そんな二人に声を掛けるのは、木の葉も奏も躊躇われたが、奏が意を決して瀬奈に近付いた。


  「何で部活と森が関係あるのか、聞きたいんだけど」


   奏が、おそるおそる、といった感じで聞くと、瀬奈は溌溂と答えた。


  「この作戦に、花とスイーツが関係あるからよ。ミステリー・スイーツ園芸部なんて、表向きの名前よ」


  奏と、木の葉の心臓は早鐘を打った。


      ――また陰でヤバイことしてたのか――心の声が重なった。


  「必要なのは、人間界の土と花壇、森の土壌。森の土を使えば、色んな草花を咲かせられる。学校の花壇を使えば、タダも同然。あたしたち優等生だから、部活という名目さえあれば、いつでも使わせてくれる。薬草の栽培、花の改良……あたしたちが本当は何を植えて何を育てているのか、先生たちは誰も何も知らない。裏工作は、ともちゃんの仕事だもの。部活報告に抜かりなし。家庭科室も自由に使いたかったの。毎回、許可を取るのは面倒でしょ。それで、この部を作ったのよ。部費を使って、上手に遣り繰りしてるわ」


   瀬奈の自慢顔を見て、木の葉と奏は心底苛立ったが、ことりは目を輝かせ


  「君って詐欺師の才能があるんだね!僕、スイーツは作るのも食べるのも大好きなんだ。何だか凄く面白そうな部活だね。どんな花を植えて、どんなお菓子を作ってるの?」


  ことりは、胸を躍らせながら答えを待った。


  「花の種類は多いから追々説明するけど、どっちも普通じゃないの。普通の人間が食べるお菓子じゃない。あたし達は、奉公屋の卵でしょう?見た目も種類も疑われないように、何回も試食して試作品を作るの。味つけは、それなりに普通の味がしないとね。スイーツは、ほとんどの人間が好きでしょう?目に付けば、不思議と手が伸びる。口に入る確率が一番高くて、確実な方法。薬草も花も、スイーツに欠かせない、咲かせて混ぜる、これが成功の秘訣!」


  木の葉は、恐ろしい真相を知って、こんなイトコは欲しくなかったと思わずにはいられなかった。

  奏も凹んだ。大変な事件に、ことりを巻き込んでしまったのだ。

  こんな部活だったとは思いも寄らなかった。


   「それは、そうと、あんた達、入部してくれる気になった?」


  木の葉と奏は悲しそうな顔をして互いに頷くと、床に落ちた紙を拾って、いやいや名前を記入した。

  その後、ことりの机に入部届を置いてベッドに入った。


 「ちょっと!作戦は聞かないの?」


 不満げな声が二人の背を追い掛けたが、木の葉と奏は耳を塞いだ。


 「もう十分、聞いた。さっさと帰れ」


 「僕ら、寝るよ。今夜は、くたびれたから」


 瀬奈は口を尖らせたが、


 「二人には明日でいいや」


 そう言って、ことりに向き直った。瀬奈が妨害計画を話し終えた時、


コンコンコンコンッ


 誰かが、ドアを連打した。


 「やべっ。今度こそ寮母かも!」


  木の葉は大急ぎで、瀬奈に目で合図した。


「おい、隠れろ!」


 予期せぬ来客は、またも返事を待たずにドアを開けた。

 しかし、中に入ろうとはしなかった。木の葉と奏は、胸を撫で下ろした。


「どこに隠れても無駄よ!」


訪れたのは、奏のいとこだった。ことりは、文句なしの美人だと思った。


 背は百六十五センチそこら。

 顔立ちは奏に似て、髪も長くてサラサラ、手足も細く色白で、すらりとしていたが、吊り目で、見るからに性格がきつそうだった。


「瀬奈、出て来なさい!帰るわよ!何時だと思ってるの!」


 声まで、きつかった。


 瀬奈は、ことりの背後に隠れていたが、木の葉に引っ張り出されて、ドアまで連行された。


「助かった、持って帰ってくれ」


「迷惑かけたわね」


 きつい美人は、木の葉に微笑むと、ことりにもペコリと頭を下げた。


「次からは、もっと早く迎えに来てよ。九十九人目の被害者を救う為に、僕らも入部する羽目になったんだから」


奏は、三枚の入部届を、いとこに手渡した。

それを受け取ると、知世は、再度ことりを見て、深く頭を下げた。


瀬奈が、ことりに手を振った。


「ことちゃん、おやすみ。また明日ね!」


「うん、おやすみ」


 ことりは微笑んで見送ったが、知世がドアを閉めて出ていくと、三人とも息をついた。


「嵐が去ったな」


「ほんと、ようやく静かになった……」


「いい子だけど、男子部屋で寝るのは感心しない。迎えに来てくれたのは誰?」


「 僕のいとこだよ」


「だから似てたのか!」


「ほんと、助かったな。これで眠れる……」


 木の葉は再度ベッドに入ろうとしたが、はっとして奏に向き直った。


「瀬奈のせいで、嫌なことを思い出したぜ。なあ、あれ、一年前だったよな?三年の男子が三人、校長は悪い妖怪だって大騒ぎしたの覚えてるか?」


 部屋の中に、切迫した空気が漂い始めた。


「停学になったね。二組の子たちだったよ。担任は、坂口先生だった。自宅で療養させるとか言ってたけど戻って来なかった……」


 木の葉の顔が、瞬く間に恐怖で曇った。


「あいつらの妖怪話が、真実だった可能性はあるか?」


 木の葉が怯えた声で聞くと、奏も青ざめてうめいた。


「ううう、最悪だ、僕も思い出した…………十分あるよ。赤目守りのように良い妖怪ばかりじゃない。奉公屋は正義のヒーローでもない。妖怪の味方だ。ほとんどの奉公屋は、依頼内容によっては、平気で人を殺せるし、仲間だって裏切る」


木の葉は声を落として、奏に問い掛けた。


「先生達は、心汚れた奉公屋だったのか?…タエの母ちゃん、冬子先生も?」


奏が目を落として、ぼそぼそと話した。


「裏切りは世の常だよ、裏に大物がいるとしか思えない。正しい奉公屋は、ほんの一握りだ。その一握りを育てる為に建てられた小学校なのに、酷すぎる」


 ことりは、二人の顔を、かわるがわる見ていたが、話が進むにつれて少しずつ顔色が青ざめていった。

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