第41話 お盆の森と赤目守り 第一幕 完結
第二幕は、浮雲九十九番地の子供たちが加わってのバトル編です。
先に、浮雲九十九番地を仕上げなければ進まないのですが………一応、
一幕が、作戦。二幕が、実戦。 三幕で集結の、三幕構成です。
カティは、跳ねて飛んで戻ると、炎の飴玉を、ことりに手渡した。
「ありがとう……僕には爝火の血が流れてる。父さんと同じ炎を操るなんてまだ無理だ。でも、血筋が僕を守ってくれる。爝火の炎は、火の神さまの上を行く。太陽でさえ、爝火の能力を認めていた。僕が炎に呑まれることはない。この飴玉を飲み込めば、炎の鳥にはなれないけど、炎の小鳥には変化できる!」
「小さすぎるだろ?」
木の葉が訝しがると、ことりが頼もしく請け負った。
「大丈夫、瀬奈の能力がある。炎の小鳥、僕を量産できるでしょ」
その言葉で、皆が意図を読み取った。
「数を増やせば、本物の炎に近付ける!瀬奈の能力は、物体を焼くことで成せる力、その物体が炎だったら、既に燃えてるでしょ?」
その場にいた者たち、炎の神さまも含めて皆が感心した。
「でも、バラバラに飛ばないかな?」
奏が心配して言うと、皆も頷いた。思うところは同じである。
「星川くんの作戦は、炎の小鳥を増やすこと、つまり火力を強めること……そこまで能力を上げるのは、厳しいんじゃないかな?君の体に、相当な負荷がかかるよ。いくら爝火の子だといっても」
最後まで言うのを遮って、ことりが続けた。
「僕の母さんは、輝龍だよ。母さんの能力の一つ。桜の花びらを、桜色の龍に変える力を、僕は引き継いでる。僕は、龍を操れる。幸運にも、お盆の森は気紛れだ。さっき、山桜が満開だったよ。花びらは、一枚あればいいんだ。瀬奈が、量産してくれるから」
ことりは、結花に向き直った。
「楠さんは、花と花を結ぶ力があるよね。桜の花びらを繋ぎ合わせてくれる?」
「ええ、それは出来るけど……」
いまだ、ことりの作戦内容を汲み取れずにいた。
「結び合わせた花びらを、本物の龍に変えるなんて、高等なこと出来ないわ。それに、星川くんのレベルでも難しいわよ。そんな大それたことを出来る奉公屋がいるとしたら、輝龍さんと同じ、龍の名を持つ者でなければ」
言い掛けて、はっとした。
皆もはっとして、龍絵に振り向いた。秋人の隣で、龍絵は畏縮していた。
「えっ?わたし?」
戸惑う龍絵を見て、結花たちは、やっと理解した。
木の葉が大声を上げて奏を見た。
「名から得られる妖力――そうか!奏の能力を使えば、名前を具現化できる!」
奏の能力は、その名の通りだ。
木の枝を琴に変え、その琴を掻き鳴して、具現化したい名前を具体的にイメージする。
そして名曲を奏れば――普通の人間の名は無理な話だが――奉公屋の名前と、妖怪の名前であれば、それが可能だ。
――龍の絵――この名前を、本物の龍に変えられる。
幸いなことに、龍絵は奉公屋の娘である。
龍の名を持つ龍絵本人の潜在能力が、高ければ高いほど良い。
龍絵自身の才力が上がって、本物の龍もレベルアップする。
龍の本体の大きさも増すのだ。
「後は、ともちゃんの能力ね」
瀬奈が、嬉しそうに知世を見た。
察するに、ことりは、龍の体内に入ろうとしている。
爝火の能力を有した炎の小鳥を、多量に取り込んで吸収した龍が、炎の神さまの力が宿った炎を吹き出せば、かなりの威力になるだろう。
「ともちゃんの能力は《知恵を絞り出した本人の世界を創造する力》これを使えば、龍の中に、炎の小鳥を入れて、炎と龍の力を合体できる!」
瀬奈だけでなく、ランも、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「やったね!これで倒せるよ!」
他の皆も喜んだが、知世は厳しい表情で言った。
「この森には、光がない。カラスたちが、味方してくれるとは思えない。巨大な懐中電灯で、スポットライトを当てて貰うしか、方法がないもの。星川くん、私たちは奉公屋の子供たち、星川くんと違って、太陽の光が届かない場所で能力は使えない。暴走してしまうわ」
しーんとしたが、じきに問題は解決した。
「僕らが、光を取り込むよ」
ランとカティが力強く言った。
「僕は、天に手が届く。僕が望んだら、天が光を与えてくれる。森に光が射すよ」
「わたしも出来るよ!天代は《天に代わって太陽の光を地上に与える一族》わたしは、その一族の後継者だから、絶対に天は味方してくれる!」
知世の顔が綻んで、ことりを見た。そして、見定めるように確認した。
「ここまでが作戦?」
ことりは、ゆっくり首を横に振った。
「最後の詰めが残ってる」
「それは何?」
「俺だろ?」
答えたのは木の葉だった。
「任せろ、今度は失敗しねえ」
皆、不安そうに、疑わしいという目付きで木の葉を見遣ったが、ことりは、ふっと笑った。
「頼んだよ。奉公屋の力に関しては、君を信用してるから」
木の葉は俯いて苦笑した――こいつ、ほんと、辛辣だよな――
「そら、どーも」
顔を上げると、肩を震わせて無言で笑っている瀬奈が目に入った。
「どいつもこいつも失礼だな」
ぼそっと呟いた。知世は、「まあ、いいわ」と言ってから、ことりに向き直った。
「満点ではないけど、合格点。私の術は、私が心から認めた奉公屋、或いは妖怪にしか使えない」
ことりが、知恵を振り絞って考えた作戦の結果、寮で手渡される小豆色の小冊子は、桜色に変わる。しかし、この時はまだ、誰も知らない話。
その一ページ目は、こう変わった―――
『青い目をした森の奉公屋。お団子頭で、ニコニコ顔。
目は、くりくりと愛らしいが、我儘だ。
もしも森で出会ったら、頭を下げて申し上げなさい。
「あなた様のおかげで森は安泰です。どうぞお納め下さい」
とびきり美味しい御団子を差し出しなさい。
そうしなければ……森の奉公屋は、どこまでも、どこまでも追って来る。
その遅いこと遅いこと。
あっという間に逃げ切れて、一生森から怨まれる』
第一幕 完




