第25話 嘘付きは地獄へ落ちるって?いーや、違う!わしの腹の中へ落ちるのさ!
龍絵のおなかが、ぐぐっぎゅるるっと鳴った。
「あいつら、どこから来たんだ?樊籠小の子じゃねえよな」
秋人は、トイに確認した。
トイは、子供たちの様子を静かに観察していたが、赤毛の少女に目を止めた。
「あの子、どうして呪文が、かからないのかな。何度も唱えてるのに」
鯉は悠々と泳ぐばかりで、女の子は、心底困っていた。
「下手クソなんだろ。龍絵も絶対出来ねえぜ」
秋人が馬鹿にすると、龍絵は、顔を真っ赤にして怒った。
「何よ、出来るわよ!」
しかし、トイが龍絵を止めた。
「生垣まで走るんだ」
池から三メートル離れたところに、樹高が三メートルを超す赤いサツキが、十本ほど並んで生垣を造っていた。
花は、あらかた散っていた。
トイが指差したので、秋人は、龍絵を引っ張った。
「食べたかったのに~」
龍絵が不平を言うと、すかさずトイが言った。
「逆に食べられちゃうから」
三人は、青葉の茂みに逃げ込んで、様子を窺った。
「スーシー・シースー・スーパッパ、なれなれエビ!」
赤毛の子は、相変わらず苦戦している。
朱色の鯉に狙いを定めて、何回も何回も言っている。
けれど、鯉は知らんぷりを決め込んで、失敗は、これで十回目だった。
「あいつ大丈夫か?」
さすがに、秋人も心配し始めた。龍絵も、はらはらして見守った。
「ねえ、アキくん、あの子たち、もしかして誘拐されてきたんじゃ………」
他にも四人、魔法を使えない子供がいた。うちに帰れた子供は、五人だけ。
トイが、強張った表情で言った。
「そうだね。子供は十人いた。あの池に、鯉は十一匹しかいなかった。魔女ばあさんが、先に一匹食べた。そして五人が食べた。残りの五人が食べたら、鯉はゼロになる。おすしのネタは、どこから誰が、調達してくるんだろう。魔女ばあさんしかいないのに」
龍絵の髪に引っ掛かっていた赤い花びらが、はらりと地面に落ちた。
秋人は屈んで拾った。
その時、魔女ばあさんが、にたあ~と笑った。
「おうちに帰れるのは、五人までさ。ひっひっひ。あの子らは、良い行いをしたから、スーシーランドへ来られた。でも、おまえたちは違うよ。おまえたちは、鯉になるんだ。消えた鯉の代わりにね。いっひっひっひひ」
トイの推理は、当っていた。すしネタは、やはり子供たちだった。
「きゃー」と悲鳴があがった。「いやだよー、おうちにかえりたいよー」
騒ぎ出した子供たちを、魔女ばあさんは睨みつ付けた。
「おまえたちは、お母さんに嘘をついたね?これはバチさ!」
魔女ばあさんは、不気味なしゃがれ声で喋った。
「嘘つきは地獄におちる。嘘をつくのは一番悪いことだ。鯉にされて当然さ!わしに食われる日まで、池の中で泳ぎ続けるがいい!」
可哀想に、子供たちは、めそめそ泣き出した。
龍絵は同情して、一生懸命考えた。
(何とかして助けてあげられないかな。どうすればいいの?)
トイも、秋人も、必死に頭を悩ませた。
しかし、思惑はそれぞれ違った。
秋人は、脱出する方法を真剣に考えていたが、トイは、魔女ばあさんを倒す作戦を練っていた。
「一度嘘をつくと、その嘘を隠す為に、また嘘をつく。そうやって、嘘は増え続けるのさ。そうすると、嘘ばかりつく子になって、嘘をつくのが平気になる。どんどん善し悪しが分からなくなって、人を騙すのが当たり前になる。悪いことをするのが苦でなくなって、自分を見失う。心は闇に呑まれて、罪を犯す。ひっひっひ、死後に逝く先は地獄さ!」
魔女のおばあさんの目付きは、実に刺々しかったが、一つ一つの言葉が子供たちの胸に応えた。
「だが、安心おし。おまえたちは鯉になって、わしの胃の中で消化される。嬉しいだろう?わしは、地獄のエンマの遣い。哀れな子らよ、地獄では、毎日体を燃やされる。槍で突かれて、針の山に落とされる。その繰り返しだ。永遠に死ねぬ場所よりも、腹で溶けるがよかろうよ。いーひっひっひ、エンマさまの優しさだ。感謝おし。嘘付きは地獄へ落ちるって?いーや、違う!わしの腹の中へ落ちるのさ!いーっひっひっ」
誰も口を聞けなかった。しかし、龍絵が信じられない行動に出た。
「ばか!行くな!見つかれば、俺たちも食われるぞ!」
秋人が叫んだ時には遅かった。
「タエちゃん!戻るんだ!」
トイも声を張り上げたが、龍絵はクラス一足が速いのだ。
龍絵は、眉を吊り上げて、震える子供たちの前に進み出た。
そして、魔女ばあさんに声を掛けた。
「もう絶対に嘘をつかないって、約束すれば帰してくれますか?」
魔女ばあさんが、ぎろりと龍絵を見た。
「何だい、おまえは、どこの子だ?さては、おまえも嘘をついたんだね。嘘つきは、スーシーランドに迷い込むのさ。帰してなんかやらないよ。わしは、一人残らず鯉にして刺身で食ってやるんだからね!」
魔女ばあさんは、意地悪く言った。龍絵は、声が震えないように、両手を握り締めた。
「じゃあ、この池を埋めてやる!」
龍絵の言葉に、秋人とトイだけでなく、子供たちも仰天した。




