株主総会 そのいち
四月。
それは、ローエンター商会の株主総会の月だ。
私達もその席につらなる。
といっても、受付係とかドリンク係とかだ。基本的に会場に入ったら壁際に立つ。
海外からのお客様もちらほら来る。
私も、つたない英語で何とか対応する。
いくら入社試験の外国語の成績が低かったといっても、トイレの案内くらいは出来る。
ちなみに、なぜ四月が株主総会になったのかというと、昔は船旅だったからだ。
そして、株主には本物のセレブが来る。彼らは、一ヶ月くらいかけて日本の観光を楽しんだりする。
昭和の頃は女子従業員は自前の振り袖か留め袖でお出迎えしたそうだ。
いまだ貧乏暮らしの私には、今の時代に生れたことはありがたい。
あれ?
ダイヤモンド(おそらくは本物)をちりばめた、凄いドレスを着ている人がいる。ちっさ可愛い!
……アリサさんだった。
背が小さいので、ドレスに着られている感が半端ない。どう見てもお子様……
「店長!」
「じゃないでしょ。今日は、お茶子ギルド日本支部の総代なんだから」
「し、失礼しました!」
金文字の招待状を開いて端末でスキャンする。
「お茶子ギルド、六十万八千株…… え? あわわ」
ローエンター商会の株式は非公開だ。だから、時価換算が難しい。
それでも、大体の株主は多くて数百株、お茶子ギルド総代、けたはずれの発言力だ。そりゃ、キラキラのドレスも着たくなるだろう。
「あ、これ、世界中のギルドメンバーの総株数だから」
……ですよねー。
「基本的にシャンシャン総会だから安心して。ただし」
こっそりと耳打ちする。
「ギルド制廃止とか提案するバカ株主が出てきたら、これで即座につぶすから」
「ははは」
ギルド制、怖い!
株主総会は、定刻通りに始まった。
まずは、ルクセンブルクにあるなんか凄そうな統括本部長からのビデオメッセージを拝見。
ロシア語かドイツ語かわからない不思議な言葉による開会宣言だ。
これで日本におけるローエンタール商会のCEOに議長の権限が委任される。
そして、日本の社長が登壇する。有名商社の出身らしいが、社内の噂ではいまいち成績がふるわないらしい。
前年度の世界情勢の総括に始まり、各事業部の動向について、経営方針について、などなど。CEOは総合商社化を狙っているらしい。資源開発や電源確保やらなんやかや、難しい話が続く。いちいち同時通訳がはさまるので、けっこう時間がかかる。弊社の株主総会は世界中の株主向けに生配信されているのだ。
私は、眠くなるのを耐えつつ、休憩のチャイムを壁際で待ち続ける。
アリサさんは…… 座席でうつらうつらしながら話を聞いている。まるで興味がなさそうだ。ただ数あわせのためだけに出席したのだろう。
各事業部からの報告が続く。
高級化粧品用と精密機械の研磨用の砂の輸入とか、コショウやカカオの価格動向とか、日本産のマンゴーやリンゴの輸出とか、そういう話が続く。へーえ、地酒蔵への出資とかもしてるのか……
お酒の話になったら、とたんにアリサさんがシャキッとした。メモまで取っている。わかりやすい人だ。
そして、最後に熊さんが登壇した。
「続いては、調査探検事業部からの報告です。事業部長の伊藤から報告いたします」とSEO。
世界的な食文化の方向性について、それにともなう料理器具の変化について、新しい食材の可能性について。とくにカカオ果肉の利用法について。
しかし、調査探検事業部としての成果はあまり芳しくなさそうだった。実際に現地調査をして新しいトレンドを発掘し、新たなライフスタイルとして日本なり外国なりの市場に提案しつづける――それが調査探検事業部の仕事なのだ。発掘された新規分野は有望そうだと他の事業部にゆだねられ、調査探検事業部は、また新たなトレンドを求めて現地へと赴く。
独創性とバイタリティーがないとやっていけない仕事だと思う。
そして、質疑応答の時間になった。
そこで、反乱がおきた。