土曜日とカードホルダー
土曜日になった。
今日は柚月と一緒に、隣の市に映画を観に行って、近くのファストファッションの店を散策した。
今年の夏の流行りについて、ああだこうだ、と話しながら、何点か着てみた中の1着を買ったりして、お昼は、流行っているという洋食屋さんに入ってみたよ。
ハンバーグが、評判なんで、迷わず頼んだんだけど、外はカリッとしてるのに中は、肉汁がジュワっと出てきて、絶品なの。それと、デミグラスソースが、それに負けず劣らず美味しかったんだよねぇ。
柚月は、ハヤシライスを頼んでたけど、やっぱり絶妙な味だって言ってたから、ソースにも秘密アリだよね。
さてと、午後は、チラッと中古パーツ屋さんを覗いて、本屋さんに寄った後、地元へと柚月のGTS-4に乗って向かった。
車になって、こういう時に本当にありがたいと思うよ。
正直、バイクの時って、まずメットが暑いし、髪が結構崩れちゃうし、移動中の会話なんて期待できないし、それに何より、柚月だけが90ccなせいで、引き離されて、更に、柚月だけが交差点で通常右折できちゃうから、結局、現地集合、現地解散みたいなので面白くなかったんだよね。
ある時なんてさ、いきなりスコールみたいに大雨が降ってきてさ、着てた服も、買った服も、両方ずぶ濡れになっちゃってさ、マジ最悪だったよ。
「じゃぁ~、取り敢えずこのまま戻るね~」
柚月は言って、山道に入っていった。
柚月の車の乗り味だけど、前より明らかに変わったよ。
前に乗った時は、ノーマル状態で、今回は兄貴が置いていった足回りの、更に仕様変更したものなんだよね。
ノーマルのは、古いせいもあってか、妙にぐらっと揺れたり、ふわっとしたりするんだけど、そこが適度に引き締まった感じがあるんだよ。
単に硬いだけだと、乗り心地の悪さに繋がるんだけど、引き締まってるから、不快感や、見える景色と、車の動きのバラバラ感が無くて快適なんだよね。
しばらくは、上り坂ばかりが続くんだけど、この車のパワーがあれば、何ら問題ないんだよね。
今後は、車同士で出かけることも多くなってくると思うけど、少なくとも悠梨の車以外には、後れを取ることはなさそうだから、その意味でも安心できそうだね。
今までは、さっきも言ったけど、柚月だけが、さっさと行っちゃって、優子にも引き離されて行っちゃうから、繁華街に行く時は、必然、電車で行ってたもんね。
「優子はさ~、どうするつもりなんだろうね~?」
不意に柚月が訊いてきた。
オイオイ、私にだって、優子の考えなんて読み切れないよ……と思っていたので
「分からないよ。ただ、本人の中で、どうしたら良いのかの結論が出てないんでしょ」
と答えてあげると、柚月は
「勿体ないよね、折角みんなで仕上げたのにさ」
と、感想を述べた。
こればかりは、仕方が無いんだよね。あくまで優子本人の問題だからさ。
技術的な面では、私らでサポートして、というか、ほとんど私と柚月でやったようなもんだけど、車は動くように完成させた。
ソフト面でも、柚月は、ディーラー整備の見積もりで、私は車検取得の現場を見せて、後押しするつもりなんだけど、それを優子がどう捉えて、どう反芻して、結果に繋げない事には、私らの苦労と動きは、全部が無駄だったという事になっちゃうからね。
優子はね、こうやって外堀を固めて、動かざるを得ない状況に追い込まないと、思い切らないんだよね。でもって、優子は、私らの中で1番、4輪免許も、車も欲しがっていたと思うんだけどさ、どうして肝心なところで臆病なんだろうね。
まさか、クルーのエンジン載せ替えなんて、考えてる訳じゃないだろうからさ。
「私らに、出来ることはしたよ。あとは、優子がどうするか次第でしょ」
「そうか……だね~」
私が言うと、柚月も少し考えてから納得した。
◇◆◇◆◇
街に戻ると、柚月のGTS-4は一気に山を登って解体屋さんに入った。
やっぱり、ココかよ! 私は、反射的に柚月にツッコんだが、次の瞬間、まぁ、仕方ないよね、と言えてしまう自分がいた。
この場所もさ、最初の頃って、凄く嫌な場所だと思ったよ。
暑いし、臭いし、危ないしさ、なんか、車の、最後の見たくない姿がゴロゴロしててさ、見てて、居たたまれない気分になってきちゃったしさ。
言い方悪いけどさ、霊安室に入ってきてさ、遺体の腕や内臓をもいで、使ってる……みたいなイメージしか、なかったんだよ。
でも、今はさ、ここって、とても有意義な場所だって、思うんだよ。
役目の終わった車から、まだ、これからを過ごしていく車へと、命を繋いでいくための部品のやり取りの場なんだよね。
この行動って、私らにしてみれば、製造廃止の部品を入手して助かってるけど、見方を変えれば、究極のリサイクルじゃね? って、思う訳よね。
最初の頃は、あんなに嫌で、水野の用事だけを事務所で済ませて、臭いが移らないうちに、そそくさと帰ってたんだけどさ、今は、なんか、奥にお宝が眠ってるんじゃないか? とか、もしかしたら、助けを待つ部品がいるんじゃないか? とか思うと、思わず奥まで行きたくなっちゃうんだよね。
これって、1年くらい前に、みんなで行った、東京の古着屋さんにも、ちょっと一脈通じるものがあるんだよね。
そして、おじさんも良い人だから、ここに、抵抗なく足が向いちゃうんだよね~。年明けくらいまでには、徐々に、2年生に、部を引き継いでいかなきゃならないんだけど、そろそろ、彼女たちも連れて行って、免疫をつけさせないと、ダメかなって、思ってるんだ。
さて、おじさんに挨拶してこなくちゃ。
こんにちは~。先週まではありがとうございました~。
え? いつも元気だって? 部長だから、いつも辛気臭い顔してられないですもん~。
「この間の、S14前期、凄く調子がいいみたいじゃない? おじさんも、回し甲斐があるってもんだよぉ!」
そうなんですよ。この間のシルビア、お陰様で、車検取得に向けて整備してて、週明けには、車検場に持ち込んで、ナンバー取る予定なんですよ~。
それから、GTEの床のサビ取りも、結構進んでて、来週から、ショックや、アームとかタンクも外して、グラインダー掛けしてから、サビ止め塗料を塗っちゃおうかと。
随分、しっかり対策するんだって? えぇ、貴重な部車なんで、なるべく長く使いたいので。
「そんだけサビてるなら、アームも、サビで、やらてるんじゃねえか? だったら、この間、エンジン取った4ドアな、バラしてプレスしたから、そこからアーム持ってっちゃってよ」
えっ!? いいんですかぁ?
「良いってことよぉ! そうだ、見つけたら置いておいてよ。後で、イイ事してから、学校に届けてあげるから」
と言うので、思わず柚月と顔を見合わせて、外されたアームなどの、ガラが入れられている山を目がけて行った。
イイ事の内容に、とても心当たりがあるからだ。優子の車のリアサスのアームに、おじさんが仕込んだ強化ブッシュの自家仕込みに違いないよ。
先週まで作業していたので、形は覚えていた事もあって、山の中から見つけることに成功して、事務所の前に置いて、おじさんに知らせると、手を洗ってから、柚月と
中を見て回ることにした。
R32やR33の入庫も特になく、シルビアの置いてある場所なんかも、ウロつきながら、そうだ、エアバッグ付きのハンドルだったっけ? と思い出して、S14の固まってある辺りを見て回った。
「マイ~、そっちはダメだからね~」
室内を覗く私を見て、柚月が言った。
ダメって、なにが?
「ステアリングでしょ~、中期のステアリングは一緒だから、狙いは後期以降だって~」
え? どれが後期なの? あぁ、この頭でっかちな感じの、顔と身体が一致しないのが後期なんだ。
なに? 部にある中期までのが、売れないからって、整形させて登場したんだけど、結局売れないままで、最後の頃の販売台数なんて、惨憺たるものだったんだって?
覗いてみよう……ホントだぁ、ハンドルの真ん中の部分が、部車のやつは、もっこりとしてるのに対して、こっちは、贅肉が抜けた感じがして、スッキリしてるね。
ちょっと中を見てみよう。……なんか、メーター周りが少し変わったな、ってだけで、あんまり変わらないね。まぁ、マイナーチェンジでそこまで変えたら、お金物凄くかかっちゃうだろうしね。
柚月ー、このハンドル、ダメだよぉ、見えない裏側のところが結構破けちゃってるよぉ……って、あれ?
柚月、ちょっと見て、このエアコンの吹出口の下のハザードスイッチの所さ、引き出し式の小物入れになってるよぉ。ホラ見てみて、ここを押してやると、ビローンって出てきて、これ便利だよね。貰っていこうよ。外し方、検索かけて。
え? はまってるだけだって? よし、そしたら、内装剥がしで、えいっと、おおっ! やったよ、外れたよ。
そうだ、これだけだと、いくらつけて良いか分からない、とか、おじさん困っちゃうだろうから、ついでに、サンバイザーも両側貰っていって、例の加工しちゃお。S14って、なぜか助手席にしか、バニティミラーついてないんだもん。女子ばかりの我が自動車部の部車として、これは由々しき問題だよ?
ホラ、S13の後期と、S15には、ちゃんと運転席に、バニティミラーついてるじゃん。S14だけ不公平なんだよ。
おじさんの所に行って、S14の部品を見せると、部車の分だから、次の部車の部品につけとくと言って、今日のところは部品はタダで貰って来れたよ。
おじさんの次って、忘れてるし、部の部品だって、いつも、その場で切りの良い額で値段決めてるから、つまりは、今日のはタダでって事なんだよ。
そして、おじさんにS14のハンドルの事を相談すると、おじさんは少し考え込んだあとで、ぱぁっと明るくなって
「じゃぁ、今度学校に行った時に、持って行けると思うよ」
と、ニカッとして言った。
こういう時のおじさんの約束は、いつもしっかり守られているので、正直、おじさんの約束の使い分けを不思議に思いながら、柚月に送られて家に戻った。
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次回は
週明けの放課後、部活は今日の活動の反応が確実に出ていました。
お楽しみに。




