幼馴染の扱い方とビッグキャリパー対応4穴ホイール
日曜日が来た。
今日は、燃料タンクの取り付けと、燃料系の接続をして、エンジン、ミッション、デフのオイルを交換したら、遂に終了だね。
最初はエンジンを積み替えるなんて言うからさ、2~3ヶ月は、余裕でかかるんじゃないかって、覚悟はしてたけどさ、設備が揃ってるのと、人数がいたおかげもあって、2週間で終われそうだね。
優子に迎えに来て貰って、クルーに乗って解体所に到着したよ。
室内で、昨日の質問をもう1度してみた。
「優子、タイヤどうするの?」
「……」
やっぱり、考えてないのか。
色々と揃える部品が多くて、予算オーバーなのは分かるけどさ、よりにもよってタイヤが無いと、動かせないじゃん。
それはさすがに、場所や機材を快く貸してくれた、おじさんにも申し訳が立たない訳よ。
すると、柚月が言った。
「優子、どうするのか言うつもりが無かったら、私ら降りるよ。あと、もう少しなんだから、1人でやればいいじゃん!」
「いや……」
優子が言うと、柚月は更に強い口調で言った。
「悠梨を除く私らさ、優子にお願いされてやってるのに、優子がそんな隠し事して進めるんじゃ、やりたくないもん!」
私も同感だ。そして、柚月は決定的なところをついている。優子は、知識だけがついているが、作業は、からきしできない、頭でっかちなのだ。
ここまでの作業においても、作業量で言えば、柚月と私が3割5分ずつ、遅れて参加の悠梨が2割、優子は1割くらいの按分でしかやってないのだ。
その作業も、ほとんどがベルト張りだとか、ブレーキのエア抜きだとかの軽作業がメインで、重作業には全く手を出してこない。
恐らく、ここで私ら3人が抜けたら、優子1人では、燃料タンクの取り付けや、ミッションオイルの交換が出来なくて、頓挫することが目に見えている。
これが、私や、柚月の車の作業の手伝いなら、それも仕方のないところだが、これは、優子から手伝いを頼まれた、優子の車なのだ。
それは悠梨も感じていて、昨日、作業の合間に
「なんか、優子さ、自分の車なのに、一番動きなくね?」
と、こぼしていたほどなのだ。
そして、優子が、結衣や悠梨に秘密にしている理由も知っている。
失敗した時に、それを知られるのが、嫌だったからだ。
優子は、この車の最初の状態を見て、成功する可能性は50%だと踏んでいたのだろう。更に、私と柚月が難色を示して、ノーマルへの載せ替えを条件にした頃には、エンジンの換装を含めると、限りなく可能性は低く、そして、時間がかかる事もだ。
恐らく、優子の中では、一番最後の自分が、フルチューンのNAエンジンを積んだスペシャルなGTSに乗って現れることによって、一目置かれる事を狙っただろうし、結衣には勝ちたい、という願望もあったのだろうけど、どんどん低くなるハードルに、それが揺らいでいるのが、個人的にプライドを傷つけられているのだ。
だから、完成に近づくにつれて、戸惑いが大きくなっているのだろうね。ノーマルエンジンのGTSだと、5人の中で、一番スペックの低い仕様になっちゃうっていう事実にね。
柚月は、優子に頭が上がらないが、決して優子の言いなりという訳ではない、それは、私もそうなんだけど、私ら3人は、幼馴染だからさ、よーく知ってるのよね。
優子が、こういう風に暴走してる時は、誰かにガツンとやられたい時だって事をさ。私でも柚月でもどっちでも良かったんだけどさ、今、話の流れ的に、柚月が適任ってのと、今回さ、最初に、話のきっかけを私に振った借りを返したかったってのがあって、珍しく、柚月が引き受けたんだね。
柚月は一気に畳みかけるように言った。
「今回だってさ、エンジン見つけたのも私ら、作業も私ら、場所借りたのも私ら、車運んだのはおじさん、わざわざ今日バイト休んでくれたのはマイ、結衣たちに拷問されたのは私、優子は、ほとんど、なーんにもしてないじゃん!」
柚月に言われて、優子は
「ゴメン……」
と、一言言うのがやっとだったが、そこに柚月が続けた。
「ゴメンじゃなくて、どうするかを訊いてるの! 今日で完成するんだから、おじさんに、いつまでかかるって、きちんと言っておかないと迷惑でしょ!」
悠梨が、あまりのピリピリした空気に、何か言おうとしたが、私が制した。
これはね、私らじゃないと、分からないんだよ、という表情でウインクすると、悠梨は黙って頷いた。
ガレージ前に到着し、車を止めた優子が、泣きそうな顔で
「みんな、ゴメンなさい。みんなに頼ってるのに、勝手な真似して、タイヤは注文して、今週中には着くようにするから、今日も手伝って……ください」
と言うと、いつもの表情に戻った柚月が、優子の背中をバン、と叩いて
「最初からそういう風にしないと、誰も手伝おうって気、しなくなるじゃん! なんで優子はいつもそうなんだよ~」
と言ったけど、それは柚月も一緒だろ、自分の車で悩んでいる時、誰にも相談しないで、勝手に不機嫌になってたじゃん。
まぁ、これで、なんとかなったね。
優子の問題が片付いてくれて、ようやく作業に集中できるね。もし、これ引きずっちゃうとさ、優子は車ができても、乗らないとか言い出しかねないからね。
よし、じゃぁ、始めようか……って、悠梨、どうしたの?
え? タイヤなんて、ここになんかあるんじゃないのかって? あぁ、それなんだけどさ、優子の場合、タイヤ単品で手に入らないと難しいんだよ。
なんでかって? 昨日、作業してて分かったと思うけど、優子のGTSって、タイプMキャリパーに変更されてるんだよ。
「だったら、タイプMに履いてるホイールごと、貰えば良いんじゃね?」
でもね、悠梨、昨日をよく思い出して欲しいんだけど、ローターの辺りってどうなってた?
分かったって顔してるね。そうなんだよ、4穴のハブで、タイプMキャリパーにしてあるんだよ。
だから、履けるホイールに結構制限がかかっちゃうんだよね。
「そういうことか~」
そう、そういう事。どうも、この方法って、昔、シルビアに流用するのでメジャーになった方法らしいよ。
え? 部車のシルビアは、5穴の対向キャリパーだったじゃん、だって? S14は、純正であの仕様なんだよ。この改造が流行ったのは、その1つ前のS13系と、姉妹車の180SXが現役時代の頃の話だって。
でも、ローターはどうしてるのかって? なんか、悠梨さ、妙に車に詳しくない? みんなにバカにされるのが悔しいし、R33に乗ってるんだから、色々調べてみてるんだって? なんか、ウチらのグループが、毒されてる気がするんだよなぁ……。
まぁ、いいや、方法は2つあって、タイプMのローターの、ハブボルトの穴位置がズレてるところに、穴をあける方法と、R33のGTS25用のローターを使う方法があるみたいだよ。
それにしても、4穴のホイールだと、結構大型キャリパーに対応した、逃げのあるホイールって少ないんだよね。だから、優子のやつも、ゆくゆくは5穴ハブに入れ替えちゃった方が良いかもね。
「おはようございます!」
どしたの悠梨? 突然……って、おじさんだ。
おはようございます、今日もよろしくお願いします。
「見た感じだと、今日で、ある程度完成しそうだね」
ええ、そうなんですよ。お陰様で結構、順調に進んだので、今日で、ある程度の目途がつきそうです。ありがとうございました。
「あとは、タイヤがはまれば、完成かな?」
そうなんですけど、これから手配するみたいなんで、ちょっと、来週までかかっちゃいそうなんですよ。
「そうそう、この間、引っ張ってくる時、タイヤがバーストして、ホイールに傷つけちゃったからさ、お詫びにコレ、持ってってよ。タイヤは8分山だから」
ええっ! そんなの悪いですよぉ、場所借りてるだけなのに、こんなにして貰って。
「何言ってんだよ、今回はスカGのエンジンと、燃料タンク買ってるじゃないか、自動車部はお得意様だって、前から言ってるだろ、このくらいサービスさせてよ」
ありがとうございます! 助かります。
「いいよいいよ、学生さんは、部品代よりガソリン代だよ、タイヤが無くなったら、取り敢えず、ウチに顔出してみなって、何かしら、あるからよ」
助かったよ、おじさんから、タイヤとホイールの差し入れ貰っちゃったよ。
これで今日中にリフトから降ろせるよ。
お読み頂きありがとうございます。
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次回は
作業は終盤、遂に燃料タンクの交換作業に入ります。
お楽しみに。




