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ポンコツ海賊令嬢と人魚姫のドタバタ航海記――この恋、沈没寸前です!――  作者: 明石竜


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18/23

Voyage 18 星潮の海溝へ

 夜明けとともに、動いた。

 ミルフィナが海流を確認した。入口の乱れが落ち着いていた。

「入れます」

「では行く」

リヴィアが言った。

 ヴァーミリオン号とシーラビット号が、並んで進んだ。星潮の海溝の入口は、見た目には分からなかった。海の色が少し変わる場所があって、そこを境に、水面の光り方が違う。

 入った瞬間、空が変わった。

 星が出ていた。夜明けなのに、星が出ていた。空と海の境界が薄くなって、夜と昼が混じっている。水面が光っていた。海底から光が来ているのか、水自体が光っているのか、判断がつかない。遠くに、魚が泳いでいた。光る魚だ。星のように泳いでいた。

「綺麗」

ピピが小声で呟く。

「本当に、星と海の境界が薄い場所なのですね」

ミルフィナが言った。

「こういう場所が、世界にあるのね」

リヴィアが言う。

 景色に見とれている場合ではなかった。

「ネリネ、オルカの痕跡は」

「海流の乱れが、前方にあります。人魚が大勢動いた後の痕跡です。オルカはすでに中に入っています」

「どのくらい先?」

「三時間から四時間ほど進んだ場所だと思います」

「追いつける?」

「海溝の中は海流が複雑です。速度が出ません。追いつくのは難しいですが、場所を把握することはできます」

「場所が分かれば、向かえる」

「はい」

 ローザが信号を送ってきた。ヴァーミリオン号から光の点滅だ。

「先行するとのことです」

ネリネが伝えた。

「ローザが?」

「ヴァーミリオン号の方が速い。先に場所を確認して、信号を送る、という意味だと思います」

「了解の信号を返して」

「はい」

 ヴァーミリオン号が速度を上げた。シーラビット号を離れて、前に出た。星と光の中を進んでいく。その後ろ姿を、リヴィアは見ていた。

「ローザは、かっこいいわね」

思わず言った。

「そうですね」

「あなたも、そう思う?」

「思います。でも、リヴィアさんも同じくらいかっこいいです」

「同じくらいは言いすぎよ」

「言いすぎではありません」

「ローザは実力があって、船も大きくて、乗組員も多くて」

「それは、かっこよさの一部です。全部ではありません」

「どこがわたしのかっこいいところなの」

「怖くても行くところです」

「それだけ?」

「それだけでじゅうぶんです。怖くても行ける人は、多くありません」


 たこまるが言った。

「この会話、何度目だ」

「何度目?」

リヴィアが逆に尋ねた。

「ミルフィナがリヴィアを褒めて、リヴィアが否定して、ミルフィナがもう一度言う。このパターンを数えたら、かなりの回数になる」

「数えてたの?」

「観察の一環だ」

「やめて」

「やめない。有益なデータだ」

「何に使うの」

「特に使わない。ただ、おれが知っている」

「意味がない」

「意味はある。おれが把握している、という事実に意味がある」

「……うるさい」

 海溝の中を進んだ。

 景色が変わっていった。最初は星と光の海だったが、奥へ進むほど、空が歪んで見えた。光の屈折が、視界を混乱させる。水平線が曲がって見えた。船の傾きが分からなくなる場面があった。

「この海域、感覚が狂う」

リヴィアが言った。

「海流が逆向きに流れている場所があります。方向感覚を保つのが難しいです。羅針盤を常に確認してください」

ネリネが伝えた。

「たこまる、補助操舵に入って」

「了解だ」

 たこまるが操舵輪の補助に入った。八本の足で、複数の計器を同時に確認しながら動いた。


 一時間ほど進んだところで、シーラビット号が傾いた。

 急に傾いた。

「何?」

リヴィアが叫んだ。

「海流が変わりました! 予測外の流れです。下から上への強い流れが――」

 ネリネが伝える。声は冷静だった。

「帆を絞って!」

「絞っています!」

 船が揺れた。大きく揺れた。ピピが転がった。ベルが柱を掴んで踏ん張った。ミルフィナが舳先の手すりにしがみついた。

「ミルフィナ、この流れを止められる?」

リヴィアが叫んだ。

「試みます!」

 ミルフィナが歌い始めた。でも、海流が強すぎた。歌が通らない。流れが歌を消すように動いていた。

「駄目です、強すぎます!」

「逃げる。どっちへ?」

「東です! 東側の流れが安定しています!」

 ネリネが伝える。

「東へ! たこまる!」

「了解だ!」

 たこまるが操舵輪を回した。リヴィアが同時に力を加えた。二人分の力で、舵を東へ切った。

 シーラビット号が東へ向いた。流れが弱まった。船が安定した。

「落ち着きました」

ネリネが言った。

「全員無事?」

リヴィアが叫んだ。

「大丈夫です!」

ピピが甲板から叫んだ。

「問題ない」

ベルが答えた。

「私も無事です」

ミルフィナが言った。

「ベル、船体確認して」

「今やってる」

「たこまる、ありがとう」

「礼はあとだ。東の流れに乗って、安定ルートを探す」

「ネリネ、オルカの痕跡は途切れてない?」

「途切れていません。流れの乱れが続いています。あの急流も、人為的に作られた可能性があります」

「オルカが仕掛けた?」

「追跡を妨害するための流れだとしたら、辻褄が合います」

「追い払うつもりね」

「そう判断します」

 ベルが戻ってきた。

「船底に、軽い傷。浸水はない」

「このまま動ける?」

「動ける。ただし、あと二度は無理」

「二度は無理、という意味は?」

「あと二回同じ衝撃を受けたら、傷が大きくなる可能性がある」

「分かった。注意する」

 ローザからの信号が来た。

 ネリネが確認する。

「ヴァーミリオン号から。前方に人魚の集団を確認。オルカの私兵と思われる。中心部はさらに先。合流を求めています」

「合流する」

「現在位置から、三十分ほどです」

「急ぎましょう」


 三十分ほどのち、ヴァーミリオン号と合流した。

 ローザが甲板から叫んだ。

「状況を伝えるわ。前方に、オルカの私兵が円陣を組んでいる。中心に、強い魔法の反応がある。宝珠を使って、何かをしている」

「儀式が始まってる?」

「始まりかけている。完全に始まると、止めることができなくなる可能性がある」

「時間は?」

「分からない。でも、早い方がいい」

「突破できる?」

「私兵の数が減っている。昨日の戦闘で半分以下になった。突破できないことはないが、ミルフィナの力が必要になる」

「分かった。作戦を伝える。ヴァーミリオン号が私兵の陣形を崩す。その隙に、シーラビット号が中心に向かう。ミルフィナが冠に働きかける」

「シーラビット号が中心へ行く? 小さい方が、通りやすいと判断したの?」

「そう。大きい船は動きが遅い。中心への突入は、速い方がいい」

「同意するわ。ただし、私兵を崩す前に、私兵の一部がシーラビット号に向かう可能性がある。対応できる?」

「たこまるの墨と、ピピの大砲で対応する」

「ピピの命中率は?」

「……高くない。でも、奇跡が一発あればじゅうぶん」

「その奇跡に賭けるの?」

「賭ける。それがうちの船よ」

 ローザが少し笑った。

「分かった。やりましょう」

 動いた。

 ヴァーミリオン号が前に出た。私兵の陣形に向かっていった。大きな船が速度を上げると、圧力がある。私兵の陣形が乱れ始めた。

 シーラビット号が、その隙間を通った。

 私兵が二人、シーラビット号に向かってきた。

「来た」

たこまるが伝えた。

「墨を頼む」

「了解だ」

 たこまるが墨を吐いた。二人の私兵の視界を塞いだ。その間に、シーラビット号が通り抜けた。

「ピピ、後ろから来る奴を頼む」

「了解です!」

ピピが大砲を向けた。

 撃った。

 当たった。

「当たった!」

ピピが叫んだ。

「狙ってた?」

リヴィアが叫んだ。

「今日は完全に狙ってました!」

「本当に?!」

「本当です! 証人が欲しいですが、たこまるさんが見ていました!」

「見ていた。今日は狙っていた」

「珍しいわね!」

「成長です!」

 中心に近づいた。

 光が見えた。強い光だ。宝珠の光だった。オルカがいた。その周囲に、少数の護衛がいた。

 オルカが振り向いた。

 リヴィアと目が合った。

「止まれ。これ以上近づくと、儀式が暴走する。おまえたちも、周囲の海も、ただでは済まない」

「儀式を止めてください」

リヴィアが言った。

「止めない。これは、王国のためだ。人間と人魚が交わることで、王国は弱くなってきた。星潮の冠を壊して、二つの世界を完全に分断する。それが、王国を守る唯一の方法だ」

「冠を壊せば、取り返しがつかない」

「そのために壊す。取り返しがつかなくするために」

「ミルフィナ」

「はい」

「行ける?」

「行けます」

「冠に近づける?」

「やってみます」

 ミルフィナが歌い始めた。

 今度の歌は、今まで聞いた中で一番深い音だった。低くて、広くて、海全体に広がるような音だった。

 光が反応した。宝珠の光が、揺れた。

「何をする!」

オルカが叫んだ。

「止めるな!」

リヴィアが叫んだ。

 シーラビット号がさらに前に出た。護衛が来た。ベルが甲板に出て、来た護衛を一人、力で押し返した。もう一人をたこまるが墨で封じた。

「ミルフィナ、もっと近づく必要がある?」

「もう少し、だけです」

「行く」

 舵を切った。前へ進んだ。

 そのとき、海流が急変した。

 オルカが海流を操った。シーラビット号に向かって、強い流れを押し付けた。船が止まった。前に進めなくなった。

「止まっています!」

ネリネが叫んだ。

「たこまる!」

「おれでは対抗できない。海流の操作は人魚の方が圧倒的に上だ」

「ミルフィナ!」

「私が対抗します!」

 歌が変わった。オルカの海流を押し返す流れを作ろうとしていた。でも、オルカも人魚だ。力の拮抗が続いた。

 船が止まったまま、二つの力が押し合った。

「ミルフィナ!」

「もう少し、もう少しです!」

「無理をするな!」

たこまるが叫んだ。

「もう少しです!」

 宝珠の光が、変わった。

 揺れていた光が、安定してきた。オルカの儀式が、段階を上がりつつある。

「時間がない!」

リヴィアが言った。

「船長」

「何」

「おれが海に入る」

「え?」

「守護獣の末裔として、鍵として。海に入って、冠に届かせる。おれが水の中に入れば、第二の鍵が直接冠に近づく」

「危険よ」

「危険だが、おれは水に入れる。タコだから」

「でも――」

「時間がない。行く」

「たこまる!」

「船長」

「何」

「この旅で、よかった」

「……何よ、急に」

「礼だ。言える時に言っておく」

「帰ってきてから言いなさい!」

「帰ってから言うと恥ずかしいだろう。今言っておく」

「帰ってくるんでしょ!」

「帰る。ただ、念のためだ」

 たこまるが海に飛び込んだ。

 小さな水音がして、消えた。

 ミルフィナの歌が変わった。たこまるが海中に入ったことで、何かが変わった。海流の拮抗が、崩れ始めた。オルカが押していた流れが、弱まった。

「前に進めます!」

ネリネが叫んだ。

「行く!」

 舵を切った。シーラビット号が前に進んだ。

 オルカが叫んだ。

「止まれ! 儀式を――」

「止まらない!」

 宝珠の光が揺れた。

 ミルフィナの歌が届いた。

 光が変わった。

 揺れていた光が、安定したかと思った瞬間、宝珠が割れた。

 音がなかった。ただ、光だけが広がった。白い光が、星潮の海溝全体に広がった。光の中に、何かが現れた。

 冠だった。

 壊れかけの宝珠の中から、星潮の冠が現れた。実物は想像より小さかった。両手に乗るくらいの大きさで、光を帯びていた。でも、その光は宝珠の光とは違った。柔らかくて、穏やかで、深い光だった。

「冠が、出てきた」

リヴィアが言った。

「はい」

「どうする?」

「鍵が揃えば、冠が応答すると言いました。たこまるさんが海中に入った。私がいる。リヴィアさんがいる」

「本当にわたしが第三の鍵なの?」

「試してみます。冠に向かって、舵を切ってください」

「分かった」

 舵を切った。シーラビット号が冠に向かった。

 冠が光った。

 近づくにつれて、光が強くなった。拒絶ではなく、応答だった。

「反応しています」

「わたしが鍵?」

「鍵です。三つ揃っています」

 オルカが動いた。

「渡さない!」

オルカが叫ぶと、護衛が動いた。シーラビット号に向かってきた。

 ヴァーミリオン号から信号が来た。ローザが私兵を抑えながら、こちらへの支援を送ろうとしていた。でも、間に合わないかもしれない。

「ミルフィナ!」

「歌います!」

 ミルフィナが歌った。

 今まで聞いたことのない歌だった。言葉のない歌で、音域が広くて、海全体に広がるような音だった。

 海流が変わった。

 護衛が止まった。流れに押されて、動けなくなった。

 シーラビット号だけが、流れの中心を進んだ。

 冠に、手が届く距離になった。

 リヴィアは舵を離した。前に歩いた。手を伸ばした。

 冠が、手のひらの上に乗った。

 光が、シーラビット号全体に広がった。

 その瞬間、海溝の空が変わった。

 昼と夜が混じっていた空が、一瞬だけ、どちらでもなくなった。境界が消えた。海と空が、同じ色になった。

 そして、元に戻った。

 でも、何かが変わっていた。海の光り方が違う。波の音が違う。空気が違う。

 静かになった。

 オルカが動かなくなっていた。護衛も動かなかった。流れが止まった海溝の中で、全員が止まっていた。

「……終わった?」

リヴィアが尋ねた。

「終わっていません。でも、儀式は止まりました。冠が、壊すことを拒否しました」

「冠が?」

「分断を望む者には使えない。記録に書いてありました。壊すことも、同じです。冠自体が、拒否しました」

「じゃあ、オルカは?」

「冠を壊せなかった。儀式が失敗しました。これ以上、オルカが冠を使うことはできません」

 オルカが、初めて動揺した顔をした。

「なぜ。なぜ止まる。分断が、王国を守る唯一の方法だ。なぜ――」

「唯一ではありません」

 オルカが振り向いた。ミルフィナを見た。

「王女」

「私は守護者の家系です。冠について、知っています。冠は、分断のためではなく、繋ぐために作られました。壊すことで分断しようとしても、冠はそれを拒否します」

「王国が、人間と交わることで弱くなる。それは事実だ」

「事実ではありません。弱くなると、誰が決めましたか」

「歴史が――」

「私が見てきた歴史は、人魚と人間が共に海を渡っていた時代を示していました。その時代に、王国は弱くありませんでした。分断してから、孤立しました」

「孤立が守ることだ」

「孤立は守ることではありません。孤立は、閉じることです。閉じることと守ることは、違います」

 オルカが黙った。

 長い沈黙が続いた。

 ローザの声がした。

「確保したわ。私兵を全員」

 ヴァーミリオン号がそばに来ていた。ローザが甲板から見ていた。

「オルカは?」

リヴィアが尋ねた。

「珊瑚宮で処遇を決める。セレナへの信号は送った。評議会が動く」

「じゃあ、一旦――」

「待ってください」

「何?」

「たこまるさんが、まだ戻っていません」

 リヴィアが海を見た。確かに、たこまるがいない。

「たこまる!」と叫んだ。

 返事がなかった。

「たこまる!!」

 海面が光った。小さな光が上がってきた。

 たこまるが水面に出てきた。

「……ここにいるぞ」

「どこにいたの!」

「深い場所まで行っていた。鍵として、届かせるのに時間がかかった」

「無事なの?」

「無事だ。ただ、少し深く行きすぎた」

「深く行きすぎた、というのは?」

「……少し疲れた。ただ、それだけだ」

「上がれる?」

「上がれる」

 ロープを降ろした。たこまるがロープを掴んで上がってきた。甲板に乗った瞬間、リヴィアがたこまるを手のひらに乗せた。

「怪我は?」

「ない」

「疲れた以外は?」

「疲れた以外はない」

「よかった」

「……そう言うな。くすぐったい」

「言う」

「言わなくていい」

「言うわよ」

「……好きにしろ」

 ミルフィナが近づいてきた。

「たこまるさん」

「なんだ」

「ありがとうございました」

「礼は要らない。おれが判断した」

「それでも、言います」

「……勝手にしろ」

「はい。それと」

「まだあるか」

「おかえりなさい」

 たこまるが少し止まって、「……ただいま」と小さな声で言った。

 海溝の光が、静かになっていた。

 星と昼と夜が混じっていた空が、少しずつ普通の朝の色になっていった。

 リヴィアは手のひらの上のたこまるを見た。それから、冠を見た。冠はまだ光っていた。穏やかな光で、消える様子がなかった。

「冠は、どうする?」

「それは、次で決まります」

「次?」

「ここで決めることではありません。珊瑚宮に戻って、女王と、評議会と、そして人間の側とも話し合って決めることです」

「時間がかかる?」

「かかります。でも、急いで決めることではありません」

「そうね」

 ローザが甲板に来た。

「お疲れ様。とりあえず、今日のところは終わったわね」

「終わった」

「冠は?」

「預かる。決め方は、あとで話し合う」

「そうね。それが正しい」

「ローザ、今日の支援に感謝する」

「どういたしまして。腐れ縁のよしみで」

「腐れ縁にも、お礼は言う」

「成長したわね、あなた」

「うるさいわよ」

「ふふ」

ローザが笑った。

 シーラビット号が、星潮の海溝の出口に向かって動き始めた。

 空が、完全に朝の色になった。星が消えた。海の光も落ち着いた。普通の海になった。でも、前より少し違う海に見えた。同じ海なのに、違う海に見えた。

「変わったかしら、海が」

「変わっていないかもしれません。でも、見る目が変わったかもしれません」

「どっちでもいいわね」

「そうですね。どちらでも、綺麗です」

「そうね。綺麗よ」

 たこまるが肩に乗ってきた。

「帰るぞ」

「帰る」

「珊瑚宮に?」

「珊瑚宮に。それから、いろいろ話し合う。時間がかかる」

「かかるな。覚悟はあるか」

「ある。でも、今日は疲れた」

「そうだな。おれも疲れた」

「珍しいわね、たこまるが疲れたと言うのは」

「深海は、体力を使う」

「じゃあ、今日は休んでいい」

「そのつもりだ」

「ありがとう、今日は」

「礼は要らない」

「言う」

「言うな」

「言う」

「……ならば、礼を受け取る」

「ありがとう」

「……どういたしまして」

 シーラビット号が、朝の海を進んだ。後ろに、星潮の海溝が遠ざかっていった。

 ピピが叫んだ。

「帰ります! どこへ帰りますか!」

「珊瑚宮よ!」

リヴィアが叫んだ。

「珊瑚宮のあとは!」

「そのあとは、そのあとで決める!」

「分かりました! 行きましょう!」

「行くわよ!」

 帆が風を受けた。シーラビット号が加速した。

 朝の光の中を、進んでいった。


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