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第7話:命の危機?

帝国報知新聞(特別号外)

発行:帝都バースバル新聞社

帝国暦742年 霜月(冬)

【速報】公爵領北端にて不逞の輩が蜂起

ラザル村を中心とした「暴徒」。

――イグナス公爵家、反逆者への「鉄槌」を宣言――

【帝都】

 帝都バースバルの北端に位置する公爵領ラザル村において、一部の過激化した平民及び脱走兵らによる大規模な武力蜂起が発生した。帝国軍部および公爵家の発表によれば、暴徒らは「一揆」を自称し、帝国が定める正当な徴税業務を妨害。さらには守備隊の武器庫を襲撃し、治安維持にあたっていた代官屋敷に放火するという蛮行に及んでいる。

 現在、暴徒らは元帝国軍千人長ヴァレアス・ロドリゲスを指導者に据え、数百人規模の軍勢として公爵領の主要街道を封鎖。帝都への物流を脅かす事態となっている。

■「飢え」を口実にした卑劣なプロパガンダ

 現地からの報告によれば、首謀者のヴァレアスらは「冬の飢え」や「重税」という事実無根の口実を並べ、無知な農民たちを煽動しているという。帝国広報官はこれに対し、「徴税は国家の防衛と繁栄のために不可欠な義務であり、それを拒むことは帝国市民としての権利を自ら放棄するに等しい」と厳しく断罪。村の壊滅については「衛生管理の不徹底による自己責任」との見解を示している。

■最強の「双頭龍」が出陣

 この未曾有の反逆に対し、グラド・イグナス公爵閣下は直ちに精鋭騎士団《双頭龍の鉄爪》の出動を命じた。特筆すべきは、公爵家の次期当主候補であるジルド・イグナス、ザングース・イグナスの両名が直々に指揮を執ることである。公爵家がいかにこの反乱を「徹底的に根絶すべき汚物」として扱っているかが伺える。

■慈悲なき殲滅の予告

ザングース様は出陣に際し、「帝国の規律を乱す不潔な羽虫どもには、死をもってその罪を注がせる」との談話を発表。

帝国は、武器を捨てて投降する者にも等しく「反逆罪」を適用する方針であり、今回の迅速な対応は、周辺諸領地における不穏な動きを抑止する強力な警告となるだろう。




 ――インクの臭いが鼻をつく紙面を放り出し、俺は深く椅子にもたれかかった。兄上たちが、夕飯の席にも顔を出さず慌ただしく出撃していった理由はこれか。それにしても、投降すら許されずに「反逆罪」とは。流石はバースバル帝国。そりゃストーリーでプレイヤー達に滅ぼされますよ。


 ザングース兄様は相変わらず空気読めないし。というよりも、圧倒的にリーダーの器ではない。父親の嫌なところだけを受け継ぎ、なまじ才能に恵まれたから増長する一方。


 イグナス家の跡取りはジルドで決まりだろうな。


 恐らく歴史は史実通りに進んでいる筈だ。ゆっくり系の考察動画で、確かこの一揆の事を取り上げていたような気がする。「イグナス家の崩壊の始まり」と、仰々しくサムネに使われたタイトル。


 今回の一揆軍の動きや戦果次第で、スロンのストーリー通りなのか? それとも、俺の将来への心配は杞憂となるのか? ハッキリとする事だろう。


 バドが本来の仕事である騎士団へと戻り、俺は与えられた補強メニューを自室で淡々とこなしていた。


 だが、その直後だった。「コンコン」と、控えめだが拒絶を許さない独特のリズムでドアが叩かれた。思わず肩が震える。


「ゼン、入るわよ?」


 返事をする間もなかった。扉が開くと同時に、鼻腔をくすぐったのは、むせ返るほど甘い薔薇の香香――姉、マリアの香りだ。


 俺はベッドの上で身を硬くした。マリアは、現実のものとは思えないほど均整の取れた。いや、均衡を逸した美貌の持ち主だ。月光をそのまま紡いだような銀髪が、暴力的なまでに豊かな乳房の曲線に沿って流れ、歩くたびにその重みでしなやかに揺れる。


 タイトな部屋着越しでも分かる、執拗なまでに張り出した臀部の輪郭は、彼女が歩を進めるたびに俺の視界を支配した。


「……マリア姉さん、ノックの意味が」

「あら、姉弟の間で隠し事なんて必要ないでしょう?」


 真紅の瞳が、獲物を捉えた捕食者のように妖しく光る。彼女は迷うことなく俺の隣に腰を下ろした。沈み込むマットレス。密着する太ももの熱。彼女の体温が、まるで侵食するように俺の肌に伝わってくる。


「さあ、ゼン。今日は耳かきをしてあげる。こっちに来なさい」

「いいよ、自分でできるから」

「ダメ。昨日、あなたが自分でやっているのを見たけれど、あんなに雑じゃ奥の汚れが取れないわ。……それとも、姉さんの言うことが聞けないの?」


 声のトーンがわずかに下がった。微笑んでいるはずなのに、その瞳の奥には底なしの沼のような暗い執着が渦巻いている。逆らえばどうなるか、本能が警鐘を鳴らしていた。俺は諦めて、彼女の膝の上に頭を預けた。


 柔らかい。あまりにも非現実的な弾力を持つ彼女の太ももに頭が沈み込む。見上げれば、視界の半分を彼女の巨大な双丘が塞いでいた。


「いい子ね、ゼン。あなたは私だけを見ていればいいの。私だけが、あなたを一番綺麗にしてあげられるんだから」


 竹製の耳かきが外耳道をなぞる。丁寧すぎるほどの愛撫。だが、その指先が時折こめかみを強く押さえるたび、彼女の指先から逃れられないという絶望的な充足感に包まれる。彼女は俺の耳に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。


「ねえ、ゼン……知ってる? あなたが寝ている間、私、ずっとあなたの耳元で囁いているのよ。『私がいなきゃ死んでしまうようになれ』って」


 冗談じゃないって、やば過ぎる。その証拠に、彼女の指はわずかに震え、俺の髪を狂おしげに梳いている。耳かきが終わっても、解放はされなかった。


「汗をかいたわね。一緒にお風呂に入りましょう」

「えっ……待って、流石にもうやめようよ」

「ダメよ。あなたひとりじゃ背中が流せないでしょう?」 


 俺の制止を無視して、彼女は俺の手を引き、浴室へと連行した。逃げようとしても、その細い腕のどこにそんな力があるのか、鉄の枷のようにびくともしない。


 湯気の立ち込める浴室。服を脱ぎ捨てた彼女の裸体は、もはや神話の女神というよりは、人を惑わし破滅させる魔性のそれだった。重力に抗うように円を描く巨大な乳房と、そこから急激に絞られた腰、そして爆発的な量感を持つ臀部。銀髪が濡れて肌に張り付く様は、どろりとした官能を放っている。


「ゼン、こっちに来て」


 マリアは洗い場の椅子に座り、俺を股の間に招き入れた。逃げ場のない角。彼女の白い肌が俺の背中に密着する。

「ああ……ゼン、あなたの匂い。私の石鹸の香りに染まっていく……」

 彼女はスポンジを滑らせる。だが、それは洗浄というよりは、自分の所有物であることを確認する儀式のようだった。首筋に落とされるキス。耳たぶを甘噛みする歯の感触。


「あなたは私のもの。血も、肉も、魂も。……他の女の匂いが少しでもついたら、私、その女を消して、あなたをこのお風呂で溶かして食べてしまうかもしれないわ」


 鏡に映るマリアの顔は、恍惚とした笑みに満ちていた。真紅の瞳が、狂気と愛の境界線を踏み越えて、俺を射抜いている。


 誰か助けて、と。そんな願いは無遠慮な足音によって叶えられた。

「ゼン様! ゼン様、いらっしゃいますか!」

 浴室の扉が乱暴に開かれ、一人の騎士が転がり込むように入ってくる。肩で息をし、その顔は雪よりも白く、屈辱と恐怖に歪んでいた。


「騒々しいわね。……許可なく、私とゼンの入浴を邪魔する理由があるのかしら?」

「申し訳ございません! ですが……至急の報せが! 討伐へ先陣として向かわれたザングース様が、賊軍に……ヴァレアス・ロドリゲスに敗れ、捕虜となりました!」

「……なに?」

「ザングース様は単騎で敵陣に切り込み、雷魔法で蹂躙されましたが、ヴァレアスの仕掛けた魔導阻害の罠に嵌まり……。現在、一揆軍はザングース様を人質に、重税の撤廃と帝都への道を要求しております! ジルド様は、ザングース様の命を案じて攻撃を一時中断しておりますが……!」


 騎士の声は震えている。公爵家の嫡男が賊の手に落ちるなど、イグナスの歴史に刻まれる消えない汚点だと分かっているのだろう。


 ヴァレアス・ロドリゲス。


 この名は、数年前まで帝国の武勲詩には欠かせない象徴であった。彼は平民の出身でありながら、その天賦の才と苛烈な闘争心のみで、帝国軍千人長という異例の地位まで登り詰めた。彼の通った跡には草一本残らないと言わしめたその戦績は、凄絶の一言に尽きる。


 「血塗れの峠」防衛戦: 十倍以上の軍勢を誇る反帝国連合軍に対し、僅か一隊を率いて三日三晩、峠を死守。その際、彼は一振りで三人の重装歩兵を両断したという伝説を残している。

 「北伐の先陣」: 凍土の魔物群を相手に、魔法を一切使わず、手にした軍刀一本で上位種を十数体討伐。帝都の平民たちは彼を「庶民の剣神」と崇めた。


 かつての彼は、帝国の「盾」であり「矛」であった。皇帝より直々に授与された銀翼勲章は、彼の胸元で誰よりも眩く輝いていたはずだった。


 少しメタ的な話をすると、ヴァレアス関連のクエストは帝国のメインストーリーの一部であり、帝都の裏外区で片手を失った元帝国軍の兵士、というNPCとして登場する。


 なんというか、スロンのキャラクター達の描かれない過去が知れるようで思わず笑みを浮かべてしまった。


 しかし、救いようのない馬鹿だな、ザングース兄様。脳筋だとは思っていたが、まさか敵の策に嵌まって人質になるとは。どうせ未来ではもっと悲惨な死に方をするし、生きようが死のうがどうでもいい。


「ゼン様、ジルド様より伝令です。『お前の知恵を借りたい、至急戦線へ向かえ』と!」


 ふざけんな。

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