Ep.46 アウロンファミリーの掟その1:アステリアは絶対に殺す
別視点。本当は別視点はあまり入れたくないんだけどね……
◇アメリカサーバー———【Auron’s Family】クランハウス
「なるほど、そんなことが……」
長い金髪を揺らしながら、クラン【Auron’s Family】のリーダーである“Auron”がファミリーの報告を受け取る。
彼女はDREAMAKER社の前作である“NEXUS”のプレイヤーでもあり、アステリアとは途中まで仲良くやっていた友人でもある。
そんな彼女が受けた報告は、【Liberty Plains】で謎のNPC集団が現れたという話であり……報告者は先ほどアステリアに殺害されたプレイヤーである。
「マシーナリー・ウォーの黒幕……と考えてよさそうだ。機械の触手なんて使うんなら確定だろう」
「奴ら……というか、白髪のリーダーらしきNPCは明らかに私たちプレイヤーのみを狙って殺してきました。多分プレイヤーに関する対処法やら強みやらをしっかりと理解しています」
「だろうね。領主とかもそういう感じだったし……厄介だな、本当に」
アウロンは頭を悩ませる。彼女は本来、こういったリーダー的な立場は慣れていない……しかし、何を思ったのかクランを設立してしまい、そんでもってそれがかなり大きくなってしまった。
無駄にデカくなったせいでガチ勢のメンバーが多く集まり、自然とノルマのようなものが課され、弱いプレイヤーはいなくなり、そしてアウロン自身もクランの管理に力を入れざるを得なくなってしまった。
幸いと言うべきか、彼女はかつてスクールカーストのトップに居たタイプの人間だったためになんとかメンバーを落ち着かせることはできた。
なぜクランを設立したのか、それは彼女自身も分からない。
『私に影響されたんじゃない?』とアステリアなら言うだろう。実際、アステリアはリーダーこそラピスに譲っていたが、実質的な創設者は彼であった。そして、設立の瞬間にアウロンは立ち会っている。
「遠くだったから見えなかったですけど、多分残りのNPCはそれぞれ茶髪、赤髪、ピンク髪で全員長身の女性でした」
「なるほど……なんか開発者の癖出てない?」
開発者ではないが、アステリアの性癖は出ていると……ラピスだったなら言うだろう。
「対策と言っても、情報が無さすぎて立てようがない。なにか些細な情報でもいいから何かないか?」
「うーん……機械の触手を使う前は普通の触手を操ってましたね。私たちが近づくと機械のキューブみたいなのを取り出して、それが触手……というか彼女の全身に広がりました。アメコミのヒーローみたいな感じで」
「なるほど、分かりやすい例えをありがとう。本体性能も高そう……か?」
中身のない会話が数分間続き、まぁ話すこともないしとりあえずこれで会議はやめよう……そうアウロンが提案しようとしたその時、会議室の扉が大きく音を立てて開く。
「よぉ、機械戦争の親玉を発見したんだって?」
「入るならもっと静かに入れ、リアリティ」
リアリティ。
それはオリジナルズのメンバーの1人であり、こんな字面だが……あくまで人名である。
アウロンはオリジンクエストを受注し、極限ダンジョン【異界隔離戦闘機構研究所のオリジンホール】をクランメンバー全員で攻略……はできなかったが、最終的に拘束されたオリジナルズ……リアリティを発見し、そして救出した。
もっと攻略を進めていればオリジンモンスターも出現したのだろうが、クエストの時間制限が来てしまったので仕方ない。
ペナルティもそこまで重くなかったため、基本的にはクランメンバーのレベルが上がり、重要NPCとのコネクションもできた……実りある冒険となった。
その後はなんやかんやあって彼とクランの交友が続き、そして今ではたまに彼が自分からクランに訪れることもある。そして、それが今だ。
「分かった、反省してる。で、どうなんだ……その親玉ってのは?」
「白髪の女らしい」
「あ……? 白髪の女……? そんなはずはない、この戦争を始めたのは“戦闘”がここを離れて“機構”が目覚めたからだ。それにオリジンモンスターに従う奴なんて渡り人くらいでもないといねぇよ」
「なに……?」
リアリティの発言に、思わずアウロンは立ち上がってしまうが……なんだか恥ずかしくなってすぐにまた座った。彼女はチグハグな性格である。
「だが、白髪の女ってのは心当たりがある。少し前にアストラからメッセージが送られてきたからな。そこに白髪の女のことは書いていた、多分同じ相手だろう」
「知っているのか、リアリティ。ならこちらにもそれを共有してくれ、頼む」
「当たり前だろ? まぁアストラはこのメッセージを送ったっきり通信が途絶えたんだが、そのメッセージ曰く……関わってはいけない、非常に危険で残虐な……渡り人らしい」
「プレイヤー……? クソが、なんでこのゲームはこんな仕様なんだ。頭の上にプレイヤーネームくらい浮かべろよ……!」
アウロンは怒りを露わにしたが、別にNEXUSもこんな感じだったしもっと治安悪かったなと考え……そして勝手に怒りは鎮火した。
「名前や戦い方は分かるか?」
「戦い方は分からん、そこまで詳しく書いてなかったからな。だが……名前は分かる」
「教えてくれ」
「“アステリア”と……本人はそう言っていたらしい。まぁ本名かは知らねぇけどよ」
「アステリア……だと……?」
アウロンは再び立ち上がった。今度は恥ずかしくなって着席などもしなかった。
「それならおそらく、そいつらはNPCでなくプレイヤーだ。予定を変更する。リアリティ、お前……アレは出せるか?」
「アレか? まぁ整備は終わったからな。アストラは拘束から抜けたはずなのに音信不通、他メンバーはリーダー以外行方不明で今は俺しか操縦できないが……オリジンモンスター相手でもなきゃ問題はない」
「そうか、なら良い。作戦を立てるぞ、アステリアをぶち殺すためのな。作戦名は……コリジョン計画とでもしよう」
「なぁ、話が急に飛んでねぇか? それに、わざわざそいつ殺す必要あるのか? ただの渡り人なんて放っときゃいいだろ……俺が出るまでもねぇって。場所も分からんしな」
アウロンはそれに対し、全力で首を横に振りながら口を開く。
「アイツは私のことを裏切って爆笑してやがったクソネカマ野郎だ……あの恨みは永遠に消えることはない。メイノドーラ戦で背後から刺された私の気持ちが分かるか!? それに私のことを“興味ない”って言ったんだぞ! 許せない……!」
「痴情のもつれか?」
「いいや、断じて違う。アイツは悪だ。だからファミリーの掟に従ってブチ殺すしかない! そうだろ? みんな!」
アウロンは周囲で黙っていたクランメンバーにそう問いかける。彼ら彼女はファミリーの一員、そしてアウロンはそのボスである。
故に反対意見など出る訳もなく。
「「「「「「「「YES! YES! YES!」」」」」」」」
「ほらな? それにお前もアイツをあんまりナメない方がいい。この世界じゃ精神構造が大きく戦闘力に関わる……アイツみたいな変な思考回路してるヤツは強い、それはお前も分かるだろ?」
「……アンタみたいにぃ?」
「黙れ」
「……はいはい、黙りゃいいんだろ?」
アステリアはアストラとあんな関係になってしまったが、順調に交流していったオリジナルズのメンバーとは、やがてこのように友好関係を築くことができる。
そして、それはつまりオリジナルズ……その戦力を利用できるということだ。
それも、最初に彼女たちが出会ったときのような瀕死の状態ではなく……万全な状態のもの。
アステリアも知らないオリジナルズの本領が今、発揮されようとしている。
「……? なんか嫌な予感するな……」
1人……リアリティはそう、小さな声で呟いた。もしかしたら本領なんて発揮されないのかもしれない。
【Auron】
所持オリジンスキル数:1
しょうもない理由でアステリアに捨てられた可哀想な人。本当に可哀想。
【リアリティ】
名前がややこしい。帰れ!
【メイノドーラ】
NEXUS第一部のラスボス。
よかったら下の方から評価してくれると嬉しいな!!!!!




