Ep.44 不法入国者だ!殺せ!
◇???
「ここは……」
視界が開ける。見えるのはいたって普通の平原、山々……そして青空。
特に違和感のある場所はない、普通の場所……しかしそれが最大の違和感だ。
このゲームにおいて、そういった場所はジマリハ平原か【中央国セントリア】の近辺くらいしか存在しない。そして、これはセントリア付近の光景ではなく……ジマリハ平原は現在こんな平和な見た目ではない。
となれば、ここは未知の領域。
地上から見えはするけど高度が上がるにつれて魔法が使いづらくなっていくから結局誰も到達できてない空島……というわけでもなさそうだ。
空気はそこまで変わらないし、雲も空高い位置に見える。じゃあどこだここ。
「ふふ……この景色、わたし見たことあるよ……?」
「じゃあ聞くけどさ、ここどこ?」
「それはね……っと。その前にお客様だよ?」
彼女が後ろを指さした。そこには金の長髪を風に靡かせる———おそらくプレイヤーであろう人物がいた。
「やぁ、こんにちは! あなたたち魔法陣から出てきたけど……もしかしてどこかから逃げてきた王族だったりする?」
どうやらあちらは私たちをNPCだと思っているらしい。まぁ大層な見た目ではあるからね、特に私とラピスは。
さて……ちょっと話を戻すが、私はこの場所がどこか見当がついた。
これは私が彼女をプレイヤーと断定した理由にもなってくるが……
一言で言えば、彼女のキャラデザが“洋ゲー風”だったからだ。なんというか、私たち……日本勢と比べて少し濃いデザインをしている。
そもそもこのゲームのNPCがわりと日本風な……まぁそもそも日本製ゲームだからそりゃそうなんだけど、だからこそこういうデザインがいると1発でプレイヤーだと分かる。
あちらからすると、私たちはいかにも“オリウォのNPC風”なデザインってことだね。
ここまで話して分かったとは思うが……おそらくここは海外サーバーだ。
サーバー間移動もいつか出来るようになるだろう、とは言われていたが……まさかもう既に出来るとはね。こりゃあ本気で探したらもしかして見つかってたかな? まぁどうでもいいか。
「うーん……とりあえずその質問には“答えられない”と返しておこうかな、渡り人さん」
「へぇ……?」
私は気持ち洋画っぽい言い回しでそう答えた。
詮索するなら死体がひとつ増えることになるぜ……?
……これは別に洋画っぽくないか?
まぁいいや。
「ねぇあなたたち、私に何か手伝えることはあるかい? 私でよければなんでも力を貸すよ!」
ハキハキとした笑顔、人当たりのいい態度。なるほど、いい人みたいだ……とか私は騙されないぞ。
これは完全にこっちを重要NPCと断定してクエスト引き出そうとしてるやつだ。私には分かる。だって私も同じ状況ならそうするから。
だがまぁ、こんな茶番を無駄に長引かせる意味もないし……殺しちゃおうか。
「【サイレントキル】」
「ぁ……」
【サイレントキル】は【Obsession Chronicle】で作り出した魔法だ。
効果は単純、格下の無条件殺害……しかも触れる必要すらない。
まぁこのあたりは【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】の魔法式から色々と解析できてるからね、そういう解析済みの内容を含む固執魔術なら必要Bloodも下がる……これ仕様に書いとけ案件すぎるだろ。
「れぇ……んー、あんまり美味しくない」
私は彼女から噴き出し、飛び散った血をぺろりと舐めた。狂夜との味の差はなんなんだ、どういう理屈で味が決まっているんだ。
これは至急研究しなければならない。私は美味しい血が飲みたいのだ!
……だがその前にここら一帯の探索だ。一旦モノリスを見つけてワープ地点を登録しておきたい。
そして一度ワープして、ジマリハ平原に置いてきてしまったオリジンストーンも回収しておきたい。あれを拾われたら本当にマズいからね……わりとマジで私に手が届きかねない。
「私の予想が合ってれば、ここはアメリカサーバーの最初のエリア……【Liberty Plains】だと思うんだけど」
「そうだと思うよ、ユキちゃん。わたしもここの景色はアウスタで見たことあるからね……」
「アメリカもアメリカで変なことになってるらしいな。アタシなんかのネットニュースで見たぞ」
サイトのリンクが共有され、その見出しには『アメリカサーバーは世紀末世界!?』と表示されている。何があったんだ……さすがに日本サーバーほど酷くはないと思うけどさぁ。
「機械の魔物が大量発生してるらしいね」
それは……結構気になるね。後でその辺り調べてみよう。
◇Liberty Plains———Echoes of Steel
モノリスに触れ、一度オリジンストーン———なぜか灰色になっていた———を回収。その後再びこちらに戻り、そして探索を再開。
しばらく周囲を飛び回り……そして見つけたのがここ、【Echoes of Steel】という名前の小エリア。
どうやらここでは、私たちのとは違うアノマリーイベントが起きたらしい。内容は先ほども触れた機械の魔物との戦争。
そして……イベント終了後より今に至るまでここには機械の魔物が棲みつき、縄張りとしている。
「といってもそんなに強くないけど」
『ピギ……ガゴゴ……』
私に飛びかかってきた機械犬を手ではたき落とす。確認してみると、どうやらレベルは50程度だった。
まぁ序盤のエリアにあるってことを考えるとかなり強い。そもそもレベル50まで上げてるプレイヤーも現時点じゃそこまでいないだろうしね。
しかし私たちにはそんな強さでは通用しない。レベル5000くらいのモンスターでも持ってくるんだな……いややっぱいいわ。倒せるかどうか次は怪しいし。
なんか連携攻撃もナーフ入ったって聞いたからね……これ公式サイトに載ってなくて有志の検証で発見したってマジですか???
『ギギ、ギ……』
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『アノマリー・エンカウント!』
『ユニークモンスター【Traces of War, MechaDog MARK.II】Lv.95』
『戦闘開始!』
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「邪魔。【天終】」
『ギュガッ!?』
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『討伐完了』
『ユニークモンスター【Traces of War, MechaDog MARK.II】Lv.95』
《報酬》
・4,400,000 ゴル
・ユニークスキル【Doggo Razer】
・称号【Traces of War】
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……いや、ちょっと待て。
いくら私が強くなったとはいえ……私の感覚が正しければ、今回の攻撃はこれを1発で倒せるほどの火力を持ち合わせていないはずだ。ギリギリ2割くらいは残る……と思う、多分。
あのイベントの時はイベント限定のバフ……敵を倒せば倒すほどに強化されるやつがあったからあんなことになってただけで、いくらなんでも1発なんてことは……
「……やっぱりオリウォ特有のテキストに書いていない何かが悪さしてそうかな」
だっていつの間にか触手出せるようになってたしね。これ私の特性一覧に書いてないのおかしいだろ……私は触手をうねうねさせながらそう考えた。
「ん?」
「どうしたんだい? 急に立ち止まってさ」
「いや、ちょっと他の人に頼んでた件の報告が来てさ……」
ま、これは別に狂夜に見せても問題ないだろう。
私はグループチャットの内容を彼女に共有した。
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