逆転
プロ野球のリーグ戦もいよいよ終盤だ。今日にも優勝チームが決まるかもしれない。
そんな中、試合は九回裏まで進む。
選手たちはベンチでそわそわしていた。
今のところ一点差で負けている。
ここで代打の切り札が登場だ。この選手は最近、絶好調を維持している。
ツーアウトだが満塁だ。三塁にいる選手と二塁にいる選手は、どちらも足が速い。ヒット一本で二人とも、ホームベースまで帰ってくることができるだろう。
逆転の準備は整った。それを信じるファンの声が、野球場を包み込んでいる。
もしも逆転なら、そこで試合は終了だ。それと同時に、自分たちのリーグ優勝が決まる。
そういうわけで、選手たちはそわそわしていた。
頭の中でシミュレーションを始める。優勝が決まった瞬間、すぐにベンチを飛び出すのだ。これは優勝時にはお決まりの光景。そのあとにグラウンドの真ん中で、監督を胴上げするのだ。
ここで相手投手が失投した。打ちごろのボールが、ストライクゾーンのど真ん中に飛んでくる。
代打のバットから快音が響いた。ボールがバックスクリーンへと飛んでいく。
勝利を確信して、選手たちはベンチから飛び出した。少し気が早いかもしれないが、あれはホームランだろう。逆転だ。ということは、自分たちの優勝だ♪
ところが、急にボールが失速した。
落ちてきたボールを、相手チームの選手がキャッチする。ホームランではなく、センターフライだ。スリーアウトでゲームセット。
つまり、この試合は負けてしまった。優勝決定は明日以降に「おあずけ」だ。
けれども、すでに選手たちはベンチを飛び出している。歓喜の表情で、両腕を「Vの字」に突き上げていた。
期待していたのとは逆の展開になってしまい、慌てて足を止める選手たち。
そのあと、客席のファンと目が合ってしまう選手もちらほら。
どうにも、気まずい空気が流れる。
次の瞬間だった。
コーチがベンチから叫ぶ。
「回れー右ー!」
選手たちはハッとして、その声に従う。ベンチの方へと、一斉に向きを変えた。
「前にー進め!」
コーチの指示で全力ダッシュだ。みんなでベンチに戻ってくる。
この展開に、客席からは笑いが起こった。
試合後にコーチは真面目な顔で、記者たちに語る。
「あれは優勝時の予行練習だ。練習に本気で取り組まない者は、本番で失敗すると考えている。今日は良い予行練習ができた」
そして、次の言葉でしめくくる。
「本番をお楽しみに」
次回、警官たちの特別作戦。




