サプライズ
「すみません。遅くなりました」
一人の選手がグラウンドに駆け込んでくる。
集合時間を大幅に過ぎているが、監督もコーチも文句を言わなかった。この選手が遅れてくることは、その理由も含めて、球団スタッフから聞いている。
遅れてきた選手が全体練習に参加しようとすると、
「ちょっといいでしょうか」
球団スタッフがにこにこしながら近づいてくる。
「突然ですが、今日の試合前に『ホームラン競争』をすることになりました」
いつもの試合前に、こんなことはやっていない。が、サプライズのファンサービスだという。
両チームから一人ずつ選手を出して、「何本ホームランを打つのか」を競うのだとか。
「で、監督やコーチと話し合った結果、あなたに出てもらうことが決まりました」
球団スタッフの言葉に、選手は戸惑う。
自分がプロになって打ったホームランの数は十本少々。このチームには、もっとたくさん打っている選手が何人もいるのに、どうして・・・・・・。
ひょっとして、遅刻した罰だろうか?
とにかく、決まってしまったものは仕方がない。恥をかかなくて済むように、大急ぎで素振りを繰り返した。
(せめて一本はホームランを打とう)
バットを力強く振り抜いていく。
そうやっている内に、試合直前になった。
「いきなりですが、これより『ホームラン競争』を行います」
場内アナウンスが告げると、客席からは歓声が上がった。いつもはやっていない、サプライズのファンサービスだ。
選手が味方ベンチを出ようとすると、球団スタッフが声をかけてくる。
「こっちが先攻です。ホームランを頼みますよ」
勝負は十球だ。打ちやすいところに味方の投手が投げてくれるので、目指せホームラン!
選手は集中した。
恥をかきたくない。そして、今日はそれ以外にも、「どうしても打ちたい理由」があった。
その結果、どうにか二本のホームランを打つことができた。
しかし、次は相手の番だ。所属しているチームこそ違うものの、同じ高校出身の先輩で、プロでも指折りのホームランバッターである。
こっちは二本なので、さすがに勝つのは厳しいかも・・・・・・。
ところが、先輩は力みすぎたのか、ホームランを一本しか打てなかった。
見事勝利した選手のもとに、野球のボールが一個届く。
二本のホームランの内、最初に打った方のボールだという。外野席でキャッチしたお客さんから、スタッフが譲ってもらったのだとか。
選手がボールを受け取ると、場内アナウンスが流れた。
「第一子のご誕生おめでとうございます」
選手は驚いた。こんなアナウンスをするとは聞いていない。
客席から拍手が起こる。
選手は照れくさくなって、周囲に向かってお辞儀をしまくった。
遅刻した理由は、病院に寄っていたからだ。妻の出産に立ち会っていたのである。
(ひょっとして、今日のホームラン競争って・・・・・・)
選手は手の中のホームランボールを見ながら考える。これはサプライズに使えそうだ。明日も病院に寄るので、妻と子どもに良いプレゼントができたかも。
そして、翌日になる。
選手は病院で妻に、昨日のことを話していた。
「これが、そのホームランボールだよ。『ホームラン競争』で打ったやつ」
さらにボールをもう一個取り出すと、選手は誇らしげに言う。
「で、こっちは昨日の試合で打ったやつ。サヨナラホームランのボールだよ♪」
次回は『守備シャッフル』というお話です。




