倍速字幕
動画を倍速で視聴する人が増えている。
といっても、すべての人がそうではない。
また、倍速視聴する人がすべての動画を、倍速視聴しているわけでもない。倍速視聴する動画もあれば、そうでない動画もある。ゆっくりまったり見たい動画もあるのだ。
しかしながら、今や倍速視聴は無視できない。
そんな中、ある動画サイトの運営会社は考えた。
倍速視聴のサービスを強化した方がいいかも。
たとえば、『倍速専用の字幕』とか。倍速視聴の時にだけ、画面の上の方に「今どうなっているのか」「この先どうなるのか」を簡潔に表示するのはどうだろう。
恋愛映画だったら、「離れ離れの二人がようやく再会」「このあとホテルで告白」「余命三〇秒」「彼氏死亡エンド」「何やかんやで悪役令嬢に転生」とか。
なろう系アニメだったら、「このあと追放」「復讐したけど返り討ち」「スローライフを始める五秒前」「第三次モテ期到来」「最後はハーレム十億人」とか。
色々とサンプルをつくってみる。
・・・・・・。
どうやら、ミステリーとは相性が悪いみたいだ。ネタバレの連続になりかねない。
じゃあ、スポーツなら・・・・・・。
しばらくして、その動画サイトでは『倍速専用字幕』のサービスを開始した。
世間から賛否両論の声があったものの、他の動画サイトでもマネするところが出てくる。『倍速専用字幕』を求める人は少なくないらしい。
それから数年後。
今や『倍速専用字幕』が当たり前になった。多くの動画サイトが標準装備している。
そんなサイトの一つで、一人の男性が野球を見ようとしていた。
すでに試合は終わっていて、これは録画だ。なので、『倍速専用字幕』がついている。
さっそく画面上部に表示されたのは、
――四回で雨天コールド。試合は中止。
男性は少し考えてから、画面下にあるシークバーを横に移動させる。
審判が雨天コールドを宣言する場面だけを見た。かかった時間は三〇秒だ。
「三〇秒でこのくらいの満足感なら、『あり』だな」
男性は他の動画を探し始めた。
次回は『この試合は負けたな』というお話です。




