〜勇者、売られる!?〜
青々とした空。
だんだん夕焼け色に染まって綺麗だ。
ああ、空ってあんなにも広かったんだなぁ。
としみじみ思う。
やばい、俺、売られるわ。
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数時間前に時は遡る。
「ここがリアの言ってた都市か。
意外とでかいんだなー」
「ブレイト!」
「ぼぐえぇっ!?」
俺が色んな建物を見上げながら
歩いていると首根っこを
ハーフマオリエに捕まれ、
変なアヒルなのか
チキンなのかわからない声が出た。
「なんだよ!?」
「私から離れないで!
いい?リアが言ってたでしょ?
この都市は人身販売があるって」
「……だからなんだよ?」
「もしあんたが勇者って商人にバレたら、
あんた、売られるよ」
「は?」
「ただの人間ではありませーん、
勇者でございまーす、って売られる
可能性もなくはないの。
だからなるべく
私から離れないでね」
ハーフマオリエが軽くイケメンに見えた。
「いらっしゃーい!
そこのカッコイイおにーちゃん!
この剣今なら安くしとくよ!」
「おっ、まじで?」
「言ったそばから!」
……そこから俺の意識はなく、
気づいたら今に至る。
俺は鉄格子の間から空を見上げながら
あ、いちばんぼーしみーっけ、
とか軽く現実逃避する。
「へへ、にぃちゃん勇者なんだって?
さっき話してるの聞いちゃってさ。
にぃちゃんの隣で歩いてた
あのえらく上玉な嬢ちゃんも
惜しかったんだが……。
まあ、今回はこれでいいさ」
武器屋のおっさんは
人身販売の商人だったらしく
凄いニヤニヤした顔をしていた。
やばい、俺、売られるわ。
『レディースアーンドジェントルメェーン!
さあさあ今夜もお客様の
お好みにあった出会いはあるのか!?
オークションを始めていきたいと思います!』
やばい、まじで。
オークション始まったぞ!?
俺は手も足も錠がかかっているうえに
鉄格子入りだから逃げれない。
たぶん装備付けてても
Lvがくそだから逃げれないだろうが。
オークションが進み、
人間、亜人種も売られていた。
リアが言っていた通りだ。
『それでは人間部門最後の目玉商品!
かの伝説の勇者でございます!』
オークショニアが高らかに叫ぶと
鉄格子から出され、
手足の錠に錘を付けられた状態で
ステージの上に立たされる。
会場は一気にピークを迎える。
やばい。俺はまじで売られるぞ。
カーン!カーン!カーン!
『それではいくらからいきましょうか!?』
客が数字の書かれたボードを
掲げていき、
俺は1億で落札された。
『勇者1億でした!
それでは次の商品は本日最高の大目玉!
魔族です!』
オークション会場がワアア!と盛り上がる。
俺がバッと見るともう会場の扉が閉まっていた。
「はあ、はあ、これが、
でんせつのゆうしゃ……たまらんでげふ……」
しかも目の前には
豚のように太った年中のおっさんが
いかにも高価な服に身をまとって
俺に抱きついてくる。
「うおおおおお!?や、やめ!」
「もうはなざないぃ、ぼくたんのゆうしゃ……」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
俺は会場から引きずられるように
その豚の家まで行くらしい
馬車に突っ込まれた。
てか俺の尻、もしかしなくてもやばい?
「ひえええええ」
俺が叫んだのとほぼ同時、
爆発音がした。
恐る恐る目を開くと
宙に浮いていたのだ。
「ブレイト」
戒めるように呼ばれ、
顔を上げるとそこには
ハーフマオリエの綺麗な顔と
胸に顔が当たった。
「ぶ!?ハーフマオリエ!?」
「やってくれたわね。
でも、結果オーライみたいよ。」
ハーフマオリエが顎をくい、とやるので
思わず下を見た。
そこにはオークション会場から
俺と同じように売られていく
亜人たちやあの魔族もいたのだ。
「このまま追うけどいい?」
ハーフマオリエが魔族の方を指差す。
「頼む!」
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都市から離れた森の近くまで
ハーフマオリエが飛んでいたが
ふと、そのまま降りていく。
「どうした?」
「……おかしい。」
ハーフマオリエが険しい顔をして
森の茂みの先を見据えた。
おもむろに地面に耳をあて
滝が近いみたい、
とひと言。
「滝?」
俺が聞くと同時に
ガサガサッと茂みから音がした。
「ふぃー、ようやく逃げれた逃げれた。
……ってあれ?
オークションで売られてた勇者!
なんでここにいるの?」
茂みから出て来たのは
黒い羽のような尻尾を
身体に溶け込ませたような状態で
けろっとしている、魔族だった。
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「なはははははははははは!」
「いつまで笑ってんだこら」
魔族のヴァン・リーは俺が
オークションに出された経緯を聞いて
ひたすら爆笑しやがった。
「じゃお前はなんであそこにいたんだよ?
お前も俺みたいに捕まったんだろ!?」
「ごめんごめん。
ここまで笑うつもりは……ぶふっ!」
ヴァンが笑うと彼女の爆乳が
ゆっさゆっさ動くから目に毒だ。
「それで勇者ちゃんは何が聞きたいの?
いや、ブレイトくんと言うべきかな?
君はボクがオークションに捕まった
理由なんてどうでもいいんじゃないかい?」
妖艶な笑みを浮かべて言うヴァンに
うっ、と声が詰まった。
「貴女の一族で魔王の住処を
知っている方はいるかしら?」
ハーフマオリエが俺の代わりに聞くと
ヴァンはにやっと笑った。
「知ってるよぉ、知ってるとも」
「本当か!?」
「でも教える前に聞いていい?
どうして君は魔王様のところに?」
「……そ、それは……」
前にもハーフマオリエが
話していたが、ここで馬鹿正直に
魔王を倒すためです!なんて言ったら
きっとヴァンは教えてくれないだろう。
「えと、ハーフマオリエが
そこに、ほら、あれだ、友人が
連れ去られてて?」
「ぶふっ!君、嘘つくの苦手だろ?」
俺の挙動不審な状態に
ヴァンが吹き出してから
安心してよ、と付け足すように言った。
「ボクの家系は魔王様派閥じゃないんだ。
一応魔族だから魔王様は慕っては
いるんだけど、どっちかって言えば
ボクの家系は人間派なんだ」
「人間派?」
「そ」
俺の不思議そうな顔に
ただヴァンは妖艶に微笑むだけだった。
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「魔王様なら最近この辺りにいたらしいんだ。
運良く会えるといいね」
そう言ったヴァンと別れ、
俺とハーフマオリエは
一旦近くの街へ戻って宿に泊まった。
ちなみについでに奪われた装備も
都市まで戻って返して貰った。
(ちなみに武器屋のおっさん俺を
売り飛ばした本人なのでハーフマオリエにボコられた)
「なあハーフマオリエ」
「ん?」
「なんで魔族に人間派と魔王派があるんだろうな」
俺がそうポツリと呟くと
ハーフマオリエは黙った。
「……なんか、ふりだしに戻ったみたいだね。
明日、一応王宮に戻って今までの
経緯を王様に報告した方がいいかな?」
「まあまだ1ヶ月も経ってないしな。
とりあえず文通で大丈夫じゃないか?」
「それじゃあ書いてくれれば
私が魔法で届けておくよ」
ハーフマオリエと
他愛のない話をしてこの日は寝た。
もう二度とオークションなんかには
売られないからな。
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ふわふわと宙に浮いているような感覚。
あ、これは夢か。
と脳が理解する。
ふわふわのばかみたいにでかいベッドに
飛び跳ねながら俺は穏やかに
この夢、覚めないといいなあ、
なんて思っていた。
「ブレイト……、ブレイトくん……!」
遠くから誰かの声がしてだんだん
眠気がさよならしていく。
ああ、俺の惰眠よ、残念ながら
ここでお別れだ。
「ブレイトくん、結構大胆なんだねえ♡
ボク、思わず昇天するとこだった♡」
あは、と笑う彼女は……
ヴァンだった。
「は!?え!?」
俺は寝起きからわけのわからないまま
自分の手を見ると、なんと
ヴァンの大きな乳房が。
「!?!!?」
一気に顔に熱が集まる。
「あん♡そんなに強くしないでよー。
さっきはあんなにも優しくしてくれたのに、
今度は激しくするつもり?」
「アアア!?
すみませんすみませんごめんなさいごめんなさい!!」
あたふたしながらその場から引こうとするも
布団に身体がもつれるし、
俺の上で跨っているヴァンもいるのも相まって
たぶん他所から見たら
1発よろしくやってるように見えるだろう。
「いやん♡そんな激しくしたらっ、ダメだって♡」
「誤解を招く言い方やめて!?」
あたふたしていると不意に
ガチャ、と部屋の扉が開いた。
俺は一気に青ざめる。
「……お邪魔しました」
ゴミを見るような目をした
ハーフマオリエがそっと扉を閉めた。
「待って!待ってハーフマオリエ!?
違う!違うからあぁ!?」
俺の雄叫びにも近い声に
ぶはっ、とヴァンがとうとう吹き出した。
「あっははは!もーさいこー!」
げらげらと笑いながら
俺の上から降りると扉を開けた。
「ごめんごめん、昨日
言い忘れたことあってさあ。
ブレイトくんの匂い追って来ちゃった!」
「来ちゃった!じゃねえんだよおお!」
俺がベッドから転がり落ちるように降り、
顔を上げるとハーフマオリエと目が合った。
「……昨晩はお楽しみでしたか」
「違う!違うから!
なんで微妙にカタコトなの!?」
半泣きで訴えると
ヴァンは腹を抱えて
床に転がるように悶絶する。
「もーお腹痛い、さいこー!」
「てか匂い追って来たってどういうこと!?
もう俺の人権返して!!」
俺の訴えも虚しくヴァンは
あー笑った、とか言って
笑い過ぎて出た涙を人差し指で拭う。
「あれ?言ってなかったっけ?
ボク、サキュバスなんだ。
だから1度嗅いだ男の匂いなら尾行可能なんだよ」
ヴァンの言葉に俺は頭を抱えた。
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身支度を整え、
部屋にあるテーブルを
囲うように3人で座って一息つく。
「それで、言い忘れた事って?」
ハーフマオリエがじとっとした目で
俺とヴァンを見つめる。
あんなハーフマオリエの表情は
いつも無表情な彼女を考えると結構レアだった。
「そそ、それなんだけどさ。
ボクの仲間の中に
昔魔王様に使えてた執事がいるんだよ。
会いたい?」
さっきのベッドの上と全く違う雰囲気の
ヴァンの言葉に俺は目を見開く。
「魔王の執事!?」
「今は引退してるんだけどね」
ヴァンはどうする?と聞きながらこちらを見ている。
俺はハーフマオリエを1度見ると
ハーフマオリエはこくり、と頷く。
「……会ってみたい。
けど、大丈夫なのか?」
「昨日も言ったけど
ボクは人間派の家系なんだ。
その執事はもともとそっちの出生。
ま、魔王様の執事になってから
魔族派閥に切り替わって、
引退してから人間派にまた戻って
今は穏やかに暮らしてるって感じかな」
ヴァンは行くなら案内するよ、と
付け足すように言った。
「なるほど……。
じゃあ案内して欲しい」
「……ってことはボクも
晴れて勇者くんのパーティに
仲間入りだね♡
よろしく♡」
……ん?
「ええええええええ!?」