波の音(作:美汐)
タイトル「波の音」
……ザザーン……。
聞こえる。
これは波の音。
寄せては返す、波の音。波頭は弾け、飛沫とともに、音を立てる。
ああ、もうすぐここにあなたはやってくる。私はあなたを待ち望んでいる。
私は暗い穴のなかで、いつまでもいつまでもあなたのことを思っている。
いとしいあなた。
広く限りないあなたの胸に抱かれることを、私はずっと待ち望んでいる。
ザザーン。ザザーン。
ああ、早く来て。
この暗闇から私を連れていって。
私にはあなたが必要なの。あなたがいないと私は生きていられない。
苦しいの。
早く来て。
早く来てくれないと、私は捕まってしまう。
あなたから引き裂かれてしまうの。
不気味に忍び寄る影。それは突然やってきて、私の兄弟たちを連れ去ってしまった。
恐ろしい恐ろしい、それは巨大な化け物で。
その化け物から私を救えるのは、あなたしかいない。今はこの穴で身を潜めているけれど、きっと私ももうすぐ見つかってしまう。
お願い!
早く来て!
そして私をここからどこか遠くへと連れ去って。
私が生き残るには、もうそれしか道は残されていないの。
いとしいあなた。
波の音とともに、あなたがここにやってくることを私は願っている。
………………。
ズズズ。
地響きが私を襲う。
まさか……! 嘘よ!
私の隠れ家が、ついに見つかってしまった。
やめて! 来ないで!
行きたくない!
助けてあなた!
闇から引き摺り出され、私が目にしたのは、明るい日射しと、遠くに見える青い海。
……どうやら間に合わなかったようね。
「おかーさん! 見て見て! こんなに大きいアサリ見つけたよ~!」
「あら、本当。いい大きさね。お母さんも負けられないわ。どんどん採らないと」
「潮が満ちるまでもうあまり時間がないぞ! 急げ!」
「はーい。お父さん!」
ザザーン。ザブーン。
ああ、波の音が、遠くに聞こえる……。
※以上、アサリ貝の独り言でした。
〈おしまい〉




