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翌朝、俺たち3人は打ち捨てられた炭鉱に集まった。
あたりには自衛隊員達が駐留しており、坑道の入り口で送風機を動かしている。
自衛隊員達は俺たちのことを見止めるとすぐに顔を逸らしたり、あるいは仲間内でヒソヒソと話したりしていた。
「さ、参りましょう。岩崎さん、樹里ちゃん。」
「…………。」
「ええ、行きましょう。」
樹里が全く喋ろうとしない。
小石さんは随分樹里を気に入っているようだが、樹里の方はどうも苦手らしい。樹里は人に注目されるのが好きな癖にいざとなると好き嫌いが激しい。
しかしこの前からよくよく変なのに好かれるもんだ。特に今回は危険な香りがただよう。
炭鉱の中は暗く、じめじめとした空気が漂っていた。もう少し交通の便がよいところにあればホラースポットとして人気が出そうなぐらいだ。暗闇の中で照らされる樹里の肌はより一層青白く、まるで幽霊のようだ。
小石さんが辺りを照らしながら先導する。彼女が一番この坑道に詳しい。決して口には出さないが、彼女に背中を任せることもできないからだ。
「樹里ちゃん、足元に気をつけてね。」
樹里は無言で答える。というか、さっきから俺の後ろに隠れるようにして歩いている。それは構わないのだが、服を掴むのはやめてほしい。伸びる。
「えー……っと、そうだ、ここの敵は蟹でしたね、小石さん。確か亜種みたいだとか。」
「はい。どうもここの炭素分を摂取できるような種類のようで。学者さん達はサンプルを欲しがってましたよ。」
「炭素を?ラダムは全身、あらゆるパーツが金属で出来ているのではないのですか?」
「亜種ですから。」
俺たち人間のような炭素生物と違い、ラダムは完全な金属生物だ。鉄や銅はもちろん、俺が聞いたことのないような金属までたくみに組み合わせ、金属のみで生命を維持しているという。その徹底ぶりに例外はなく、通常の機械にあるようなゴム皮膜やガラスのレンズなんかも存在しない。ラダムの研究で科学が300年進んだという話も聞く。
「そのおかげで原種の蟹と違ってかなり素早いです。お気をつけて下さい。」
「そうなんですか。それは気をつけないと。なあ、樹里?」
「…………。」
おお、なんと冷たい視線。
これはもう諦めて仕事に集中したほうが賢明だろう。俺も口をつぐみ、黙々と坑道を下っていった。
どんどんと奥へ、そして下へ進むにつれて坑道は狭くなっていった。最初は二車線の道路ほどはあったが、今はその半分もない。人が三人並んで歩くのは難しいぐらいだ。
幸いにもそんな閉所でラダムに出くわすこともなく、ただ黙々と進み15分ほどたったころだろうか。小石さんが思い出したように話しかけてきた。
「そろそろ私が撤退したときの最終防衛ラインです。いつラダムが出てくるか分からないのでお気をつけて。」
「そうか。ここからが本番って訳か。」
ここまでがあんまり静かだったから少し気が緩んでいたところだ。気持ちを引き締めて進むことにしよう。
「ひゃっ!?」
樹里が小さく悲鳴を上げた。
「ラダムか!?」
「あ、あそこ……。」
俺の陰に隠れたまま、懐中電灯の明かりで指し示す。そこには男の死体が転がっていた。全身血まみれで両手が無い。その顔には怒りと苦悶の表情が張り付いていた。
「私と共に戦ってくれたお仲間ですわ……。むごいこと。」
「そうか。ちょっと待っててください。」
俺は死体に近寄る。死体には刺し傷のような無数の穴が開いていた。どれも急所を外れている。
周囲の岩肌を操作した。死体は泥の中に沈むように岩の中に沈み込んでいく。最後に盛り土と十字架を作って終いだ。
「後できちんと埋葬してあげましょう。今はこれで。」
「すごい……岩崎さん、岩を操作できるんですね。岩崎さんだけに。」
「え?ああ、はは……まあこれはおまけみたいなものでして、本命は別なんですが。」
「孝ちゃんはこんなもんじゃないし。もっとすごいし。」
「まあぁ~~そうなの?樹里ちゃん、私にもっと詳しく教えてくださる?」
小石さんが顔を輝かせるとサッと俺の影に隠れる樹里。いい加減打ち解けて欲しい。
「それじゃ、行きましょうか……と、行き止まりですね。」
目の前の道は瓦礫にふさがれている。とても進めそうにない。
「ええと、ラダムの巣はこの瓦礫の向こうにありまして、一本道ですからここを通らないことには……。」
「ああ、それじゃ瓦礫もどかしましょうか。」
道をふさぐ岩のひとつに手を触れる。岩はスライムのようにぐにゃりと溶けると、まるで意思を持っているかのように蠢き、他の岩と溶け合っていく。一塊になった岩はテープを逆回しにするように規律ある形へと変化していき、最後には人が一人通るには十分なトンネルになった。
「さあ行きましょう。」そう言おうと振り返ったそのとき
カチカチ……カチ……
トンネルの奥から金属音が聞こえてきた。
10.19.12 加筆修正




