最終話 ゾンビと空と花束
「お買い上げありがとうございます!」
みすぼらしい身なりとぼろぼろの肌を訝しみながらも、花屋の店員は僕に白い花束を渡す。一体いつぶりだろう、こんな風に人間たちの住む場所へ出て買い物をしたりするのは。
僕は受け取った花束を手に、病院へと走り出した。
可憐に揺れるこの花束は、きっと彼女に似合うだろう。最後に見た微笑みを思い出しながら、僕は往路を急ぐ。
初めて見る青空とヨーコとのツーショットは、色白で華奢な容姿と雲一つない晴れ晴れとした空が、これ以上ないくらいに似合っていて、止まっているはずの僕の心臓がわずかに跳ね上がった気がした。
「退院おめでとう!」
「ありがとう」
微笑んだ彼女の頬に紅が差すと、僕は花にはあまり詳しくないけれど、まるで何かの花のようで。何とも言えない気持ちになったのを誤魔化したくて、僕は言う。
「こ、これで君も、僕と約束ができるだろう?」
「……何のことだったかしら?」
細くて長い指で口元を隠して、ヨーコは目を逸らす。彼女なりに照れているのだろうか。その頬には、さっきよりももっと色濃く紅が差している。……だけど、逃がしてやるつもりは毛頭ない。その目線の先に回り込むようにして顔を覗き込むと、彼女は予想外だったらしく、珍しく慌てた顔をした。
「ヨーコ。……僕と、友達になってくれないか?」
「あなたが生きるのをやめない限りは、ずうっと一緒にいてあげてもいいわよ」
少しはにかんだ彼女は、美しく空色に透き通る。
彼女のしなやかな指をすり抜けて、白い花束がコンクリートに落っこちた。はらはらと花弁が舞う中で、僕とヨーコは出会ってから初めての抱擁を交わした。
それは、嘘のように晴れた日のことだった。
メリーバッドエンド!意味が分かったあなたはお友達になりましょう




