表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐れ縁  作者: 吾妻 あさひ
8/9

第八話 ゾンビの祈り

 夜明けの光の中、僕は目を眩ませながらも病院に辿り着いた。ヨーコに、大切な人に、会えた。

「明日、手術なの」

 え……と呟く僕の声は、続くヨーコの声にかき消された。

「明日の手術が成功すれば、私は普通の女の子になれるのよ」

 俯き加減で、しかし少しだけ期待に弾んだその声は、僕の知っている彼女とは違っていて、僕は少しだけ取り残されたような気持ちになる。

「手術が成功すれば、私も、みんなみたいにお外を走ったり、転んで血が出て騒いだりもできる。それはきっと、とても幸せなことなのよ。ああ、手術が待ち遠しいわ」

 僕は、その手術の成功率を尋ねることができなかった。あんなにも副作用の強い薬を飲んでいて、しょっちゅう集中治療室へ運ばれるような、華奢なこの少女の病気が、そう簡単な手術で治るようなものだとは思えなかったからだ。それなりに側にいた分だけ、僕は彼女のことを悲しいくらいによく知っていた。

 その代わりに僕は、「そうなんだね」と答えた。ずっとずっと言えなかったその言葉を口にした途端、胸のつかえがじんわりと溶けていくような気がした。


 素直に幸せを祈れない僕は、いつものように悪態を吐く。

「き、きみなんか、僕みたいに長生きしちゃえばいいんだ!」

「うふふ、じゃあ、あなたは死ねばいいわ」

 不穏な言葉を口にした少女は、柔らかく目を細めて笑った。僕が見た彼女の笑顔は、それが最初で……最後だなどとは、この腐り切った口が裂けたって、絶対に言いたくない。

 きみがいつか僕を置いて死んでしまうのは怖いけれど、そんなのは、今きみの笑顔を曇らせていい理由になんか、絶対にならないんだ。


 どんなに願っても不確かなままの二人の明日は、ただ静かに、大きな口を開けて待っているのだろう。

 それでも、いつだって、夜明けは訪れるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ