第八話 ゾンビの祈り
夜明けの光の中、僕は目を眩ませながらも病院に辿り着いた。ヨーコに、大切な人に、会えた。
「明日、手術なの」
え……と呟く僕の声は、続くヨーコの声にかき消された。
「明日の手術が成功すれば、私は普通の女の子になれるのよ」
俯き加減で、しかし少しだけ期待に弾んだその声は、僕の知っている彼女とは違っていて、僕は少しだけ取り残されたような気持ちになる。
「手術が成功すれば、私も、みんなみたいにお外を走ったり、転んで血が出て騒いだりもできる。それはきっと、とても幸せなことなのよ。ああ、手術が待ち遠しいわ」
僕は、その手術の成功率を尋ねることができなかった。あんなにも副作用の強い薬を飲んでいて、しょっちゅう集中治療室へ運ばれるような、華奢なこの少女の病気が、そう簡単な手術で治るようなものだとは思えなかったからだ。それなりに側にいた分だけ、僕は彼女のことを悲しいくらいによく知っていた。
その代わりに僕は、「そうなんだね」と答えた。ずっとずっと言えなかったその言葉を口にした途端、胸のつかえがじんわりと溶けていくような気がした。
素直に幸せを祈れない僕は、いつものように悪態を吐く。
「き、きみなんか、僕みたいに長生きしちゃえばいいんだ!」
「うふふ、じゃあ、あなたは死ねばいいわ」
不穏な言葉を口にした少女は、柔らかく目を細めて笑った。僕が見た彼女の笑顔は、それが最初で……最後だなどとは、この腐り切った口が裂けたって、絶対に言いたくない。
きみがいつか僕を置いて死んでしまうのは怖いけれど、そんなのは、今きみの笑顔を曇らせていい理由になんか、絶対にならないんだ。
どんなに願っても不確かなままの二人の明日は、ただ静かに、大きな口を開けて待っているのだろう。
それでも、いつだって、夜明けは訪れるのだ。




