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第一話 ゾンビは死にたがり
僕は数十年前に交通事故に遭い、ゾンビになった。
どうしてそうなったのかは分からないが、今はっきりしていることは、こっそりと見守っていた僕の家族はみんなとっくの昔に墓に入り、残された僕は誰に会っても恐れられ逃げられるということ。
本来ならば僕が大叔父になるはずだった男の子が僕のことを見て大泣きした二年前、僕はあることを決意したのだ。
何としてでも、死んでみせる。
僕はそう、決めたのだ。
二年間、いろいろな方法で自殺を試みてみたが、やはり僕はゾンビなだけあってなかなか死ねやしない。唯一少しだけ効果があった日光ですら、次の日に肌が真っ赤になって、いつもより余計に蛆が湧いた程度で済んでしまったのだ。
一度駄目だった方法でも何度も何度も試しながら、それでも、まだ死ねずにいるのだ。
しかし、何かのはずみで交通事故に遭い、何かのはずみでゾンビになったのだから、何かのはずみでまた死ねることもあるかもしれない。
今度こそは絶対に死んでやる。
濁った眼で見上げた空は、くすんでも尚、青かった。