第54話 煉瓦騎士団と破格の救出依頼
ある日のこと、アルトたちは冒険者ギルドの入口で呼び止められた。
振り返ると、アルトやクレアよりは少し年上の少年が立っていた。金属製の盾と胸当てを着けたハンサムな少年だ。
「アルト君だよね?俺はテッド。Eランクパーティー『煉瓦騎士団』でリーダーをやってるんだ。カルサムスってどこに咲いてるか教えてくれないか?メリルに聞いたら、カルサムスは『魔剣』に聞けって言われちゃってさぁ」
この2年間のもう1つの変化、それは子供Eランクパーティーの誕生だ。Fランクパーティーの中からEランクに昇格するものが出てきたのだ。彼らは主に10歳から15歳の世代で、『魔剣』に次ぐDランクへの昇格を目指していた。
『煉瓦騎士団』はその最も先を行くものたちで、5人の少年少女で構成されていた。なかなか依頼が発生しないEランクの依頼を着実にこなし、あと1つでDランクというところまで来ていた。
そんな中、バルディア商会からカルサムスの花の採集という依頼が出されたのだ。
「カルサムスの花は川の近く、少し南の方に咲いてるよ。川まで行ってから南に向かって歩くとすぐに見つかると思うよ。だけど、近くにパラライズビーの巣がたくさんあるから、気をつけた方がいいよ……」
クレアが割って入る。
「クレアルト様が何とかしてくれるよ!クレアルト様は村の守り神で、パラライズビーから守ってくれるんだよ!!」
クレアの布教活動が始まり、テッドは戸惑う。
「クレアルト様って何?」
クレアは西の詰所の塔の上にあるカカシを指さす。
「あれだよ!!」
テッドはそこで、『魔剣』はDランクパーティーだとはいっても2人は6歳の子供だったということを思い出す。大人な対応をしてくれる。
「そっか!スゴイね。俺たちもクレアルト様にお祈りしてから、行くことにするね!」
クレアはドヤ顔である。改めて、アルトが話を戻す。
「パラライズビーはホントに危険だから、よく準備してから行った方がいいよ」
「そうだね。俺たちも普段は戦わないようにしてるよ。でも、うちのパーティーには頼りになるやつらがいるんだ。魔術が使えるやつもいるし、隠密スキルを持ってるやつだっている。1人の力でできなくても、みんなと力を合わせて、なんとかしてみせるよ!」
なんかカッコイイ。アルトはそう思ってしまった。アルトだって、クレアとモックと力を合わせてやってきたのだ。迷宮のフォレストウルフだって、3人の連携があってこそ倒せるのだ。
しかし、アルトを含め、『魔剣』にはこういったカッコイイことを言う者はいなかった。冒険者としては自分たちの方が格上であるが、アルトは純粋に『煉瓦騎士団』に憧れてしまった。
自分のパーティーを見やる。クレアはクレアルト様に向かって土下座をキメていた。モックは間抜けな猿顔で、不思議そうにアルトを見て言う。
「大親分、どうしたんスか?」
アルトはため息をつき、依頼を受けに行く。その日の依頼はジャイアントスパイダーの糸の採取だった。
2年前は大きなウォーターボールを大量のファイアーボールで温め、さながら自爆のような魔術で倒したジャイアントスパイダーであったが、今のアルトはそもそも熱いウォーターボールを作れた。
また、魔術だけではなく、知識も増えた。
実はジャイアントスパイダーは巣だけではなく、自分の身を守るために常に尻から糸を出している。そして、その糸が最も丈夫で、最も高く売れるのだ。
ジャイアントスパイダーの背面に回り込み尻から出る糸を探し当てる。ロックボールに巻き付け回転させる。
ジャイアントスパイダーの尻から糸がずるずると引き出され、糸の出しすぎでジャイアントスパイダーは息絶える。ホットウォーターボールを巣にかけ、粘着性をなくしてから、またロックボールで巻き取る。
依頼はあっという間に終わった。戦闘というより、もはやこれは単純作業だった。
そんな作業をしながら、冒険者という仕事も悪くないのかもしれないなぁと思う。
けれど、やはりダンのセリフも思い出す。
「冒険者はいつ死んでもおかしくない仕事だ」
さっさと依頼が終わってしまったので、早めに冒険者ギルドに戻る。
メリルに糸を渡し、少し話をする。
「アルト君、おつかれさまー。そういえば、テッド君とは話した?」
「今朝、話したよー。僕らが来た時にすぐ出かけたみたい」
「そっかー。花を摘むだけの依頼だから、すぐに戻ってくると思ったのにまだ戻ってないのよねー」
「あの依頼は難易度高いから、すぐには帰ってこないと思いますよー」
「ぇ?難易度が高い?」
アルトはカルサムスの花畑周辺の状況を話した。
メリルの顔がみるみる青ざめていく。
「それ、Dランクで出さなきゃダメなやつだわ。ああ!なんで気付かなかったのかしら!!4歳のあなたたちがやってのけたから……あなたたちがあなたたちだってこと忘れてたわ!!」
若干失礼なことを言われた気がする。
メリルの話によると、Dランクの冒険者は難易度無制限の自己責任になる。このため、Dランクに昇格する際には依頼の難易度について、しっかりと選別するように案内をする決まりになっているようだ。
反面、Eランク、Fランクについては、ギルドが責任を持って制限する決まりになっているとのことだ。
言われてみると、確かにDランクになった時、メリルに長々とお小言を言われた記憶がある。あれはそういった意味があったのだ。
メリルは紙に何か書き始める。そして、辺りを見回す。この時間、冒険者ギルドには子供Fランク冒険者しかいなかった。ため息をつき、アルトに紙を見せながら言う。
「この依頼、受けてくれない?」
Dランク依頼、Eランク冒険者『煉瓦騎士団』の救出。小金貨1枚
冒険者ギルドの失態の隠蔽ということだろうか。報酬が破格だった。
アルトは即答する。
「受けます!」




