第九十八話 湖畔の集落と変わらぬ慈愛
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人影のない森の影で人型へと戻った私たちは、衣服を整え、新しく生まれた巨大な湖の畔へと足を進めた。
集落の入口には槍を携えたエルフの門番が二人、鋭い視線で私たちを射抜いた。
「止まれ! 何用でここへ来た!」
私は一歩前に出ると、カーム王国で仮発行された身分証と、聖樹王国の紋章が刻印された召喚状を差し出した。
「女王メルティナ・アイナ・サリア陛下からの召喚に応じ、参りました。帝国跡地を直線的に踏破してきたため、一晩の滞在許可を頂きたい」
門番は書状の真贋を確認すると、即座に姿勢を正した。
「大変失礼いたしました! ですが現在、近隣の闇妖精の集落が襲撃されたとの報があり、厳戒態勢を敷いております。念のため、魔道具による事実確認をお願いできますか?」
差し出された魔道具に手を当て、私は偽りなき言葉を宣言する。魔道具が真実を告げる光を放つと、門番たちは深々と頭を下げた。
「遙か旅路を歩みし客人よ、ようこそ。我ら清流妖精は、世界樹ユグドラシルの導きと、この湖の静寂をもって貴方達を歓迎いたします。今宵、その疲れを母なる水の抱擁で癒やされますよう」
正式な賓客として迎えられた私たちは、そのまま族長のもとへと案内された。
族長は私たちの到着を喜びつつも、魔の森を抜けてきたことに疑念を隠さない。
私は魔道具に手を置いたまま、キメラという核心部分を伏せて事情を話した。
「私どもは帝国の末裔です。魔力汚染が落ち着いた地に村を築き、暮らしております。今回は闇妖精襲撃事件の被害者を保護した事実確認のため、陛下の招きを受けました。森を抜けられたのは、我々が当時の遺失技術を保持していたからです」
「帝国の末裔……。なんと……」
魔道具は『真実』を示し続ける。驚愕に震える族長だったが、その視線が私の背後にいたザナドゥで止まった。
「あぁ……君は、西の境界の集落にいた闇妖精のザナドゥじゃないか! 襲撃があったと聞いていたが……。よくぞ、よくぞ生きていてくれた! それに、お前はニクスじゃないか!? ん? お前、本当に、ニクスなのか? ……どうしたんだ、その姿は……」
族長の動揺は激しかった。
ザナドゥが重い口を開く。
「お久しぶりです、族長……。実は、私たちは闇組織に捕らえられ、非道な人体実験の被検体にされていました。死を覚悟したとき、こちらにおわすユエ様の仲間に助けていただいたのです。ニクスの変貌も、その実験によるものです」
族長は沈痛な面持ちで私を見た。
「ですが……ユエ殿。貴方も彼と同じように、人ならざる異形の部位が見受けられますが。もしや貴方も、その実験の……?」
ニクスの変貌と重なる私のキメラとしての特徴。族長の問いに、私は静かに頷いた。
「経緯は異なりますが、私も大昔の実験により、この姿となりました。その件も含め、王都へ向かっております」
族長は深く思案し、やがて静かに首を振った。
「……それは難儀なことで。貴方方が少しでも傷を癒せるよう、世界樹へ願います。それとニクス……ご両親は残念だった。あのような非道な襲撃に遭いながら、それでもこうして生き延びたお前を、我らは誇りに思う。気を落とさず今を生きなさい。我らは、君がどんな姿になろうとも同族だと思っている」
その慈悲深い言葉に、ニクスは涙を堪えながらも強く頷いた。
案内された宿に荷を解き、一息ついた私たちは、夕闇に包まれ始めた集落を散策することにした。
八百年の歳月が流れても、叔母上様が治めるこの国の『慈愛』は、私の知るあの頃と何も変わっていなかった。
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