第七十五話 ヘリックス村:午後の決戦、そして新たな夜明け
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午後、いよいよ最終決戦の火蓋が切られた。
商人ギルド副会長マルセル・デュランが前に出ると、静かだが重みのある提案を口にした。
「ユエ殿、我々は提案したい。この村で扱っている魔牛、クワックチキン、そして野菜や薬草に至るまで、全商品を『ブランド化』して独占的に販売させてはいただけないかと」
ブランド化――それは、既存のギルド員たちが狩りや採取で立てている生計を脅かさないための配慮でもあった。
無秩序な流通で相場を荒らさぬよう、年間の仕入れ数を固定し、まずは限定的な供給で市場をコントロールする。
商人の冷徹な計算の裏には、大陸の経済バランスを守るという意図が透けて見えた。
だが、彼らの狙いは食材だけではなかった。
「……そして、もし叶うならば、貴殿が持つロストテクノロジーの技術、その一端をカームに伝授していただきたい。無理にとは言わぬが、古代の最先端技術は、我が国の発展に不可欠なのだ」
その言葉に、私は静かに頷き、一つだけ条件を出した。
「構いません。ただし、条件があります。提供する技術はあくまで『生活水準の向上』のためのものに限定し、決して戦争に利用できないよう厳格な魔法制約を設けていただきます」
大陸の国力バランスを保ち、第二の帝国……あの悲劇を繰り返さないための安全処置だ。
「行き過ぎた技術は、世界を危険に晒す。かつて、それを制御できずに滅びた者たちの末裔として、これだけは譲れません」
私の言葉には、経験者ゆえの重い説得力があった。調査団も商人たちも、その言葉の重みに居住まいを正した。
「……無論だ。決して悪用せぬと、我らカーム国がここに誓おう」
確かな言質を得て、私たちは細部を詰めていった。
ブランド化の条件、民生技術の提供、そして契約の履行。
魔法制約が施された書類に署名する際、背筋に走る魔力の感触は、この村の未来を担保する重みそのものだった。
この契約は、互いの同意があれば破棄できるが、不当な不履行があれば魔法裁判にかけられる強力な拘束力を持つ。
商談が大詰めを迎える頃には、外は日が傾き始めていた。
私は一行を、さらなる改良を加えた客室へと案内した。
現代の高級ホテルにも引けを取らない設備に、商人たちの目が再び輝く。
「これは……宿泊施設としても、破格の価値があるのではないか!? 幻の帝国跡地、秘境の迎賓館……」
窓の外には、幻想的に輝く魔晶石の巨大な柱が立ち並び、魔力汚染の影響で変異した植物たちが、イルミネーションのように夜の森を彩っている。
この地ならではの、残酷なまでに美しい光景。彼らは商談の疲れも忘れて見入っていた。
翌朝。
さらに観光施設開発に関する熱烈な打診を受けた私は、それを笑顔で受け流しつつ、彼らに最後のおもてなし――朝食のフルコースを提供した。
心ゆくまでヘリックス村を堪能した一行は、名残惜しそうに、しかし確かな満足感を携えて本国へと帰路についた。
一世一代の商談。
それは、完膚なきまでの成功を収めて幕を閉じた。
私たちは、この地に新たな歴史の礎を築いたのだ。
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