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とある漁村にて発見された奇妙な魚について  作者: 青蛙


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第20話 変化



 キリエ博士もその腐臭に気が付いたのか、はたと足が止まる。


「ベリルさん、これってもしかして」

「砂浜の方からですね」


 獣の肉が腐ったような臭い。


 既に漁港からはだいぶ離れて、村のはずれまで歩いてきていた。

 海沿いの道から海側に向かって少し下ると砂浜が広がっていたが、腐臭はどうもそちらの方から漂って来ている。


 走り始めたキリエ博士を追って自分も砂浜へと降りていき、やがて波打ち際に落ちていたそれを発見した。


「やっぱり……ベリルさん、これ」

「奇形魚、ですね? かなり腐敗が進んでいますが……」


 魚種も今となってはよくわからない。

 しかし、肉が削げてあらわになった骨の形から、かろうじてそれが魚であったこと。やはり胸ビレのあたりがやたらとしっかりとした骨になっていて、それが人間の骨に酷似している事が見て取れた。


 それにしても酷い臭いだ。

 コリンがずいぶんと辟易した様子だったのも理解出来る。

 こんなものが水揚げした魚のなかに紛れていたら困るのも当然だ。


「打ち上げられて死んだんですかね? なんだか、随分多いんですね、この魚。……いえ、多いというよりは、増えているんでしょうか」


 そんな事を呟きながら、その腐りきった魚の死骸にキリエ博士は手を伸ばそうとしたものだから、慌ててその腕を掴んで止めた。


「博士! 何をしようとしているんですか!」

「何って、この死骸を調べようと……」

「だからと言って素手でやろうとしないでください! はぁ……どんな危険な細菌が湧いているか、わかったものじゃないんですから」


 調査に夢中になっていたせいで自然と手が出てしまったようで、彼女も自分のしようとしていた事に今さら気が付いて一瞬ハッとしたような表情になったが、すぐに笑ってごまかしている。

 仮にも生物学者なのだから、それくらいは気をつけて欲しい。


「これについては見るだけにしておいて下さいね。持ち帰るのも、流石に無しです」

「いやいや私もこれを持ち帰るつもりは無いですけど……」


 2人の視線が奇形魚の死骸に注がれる。

 特に、その人間の骨のような部分に。


 どうにもそこに違和感がある。

 魚の身体に人間の手がついていること自体が違和感であると言えばその通りだが、問題はそこでは無かった。


「明らかに、()()()()()()()()()、これ」

「ええ」


 彼女の言葉に自分も同意した。

 この奇形魚の死骸、明らかに人間の手の部分がそれまで見てきた赤子程度の大きさではない。

 小さな魚の身体に見合わぬ大きさ。10歳前後の子供くらいの大きさはあるだろうか。

 骨そのものも、だいぶしっかりとした形になっているように見える。


 大きくなったと言うよりは、成長したと表現するべきだろうか。


「もしかしてあの奇形魚って、まだ稚魚の段階にあるんでしょうか……? 成長しきったらいったいどんな姿に……?」


 思案する彼女の隣で、自分はポーチから1枚の呪符を取り出した。

 この奇形魚の死骸、手だけではない。もう一つ奇妙なものが付いていることに、観察をしていて気が付いた。


「あ、ちょっとベリルさん! まだ燃やさないで――」

「前言を撤回します。燃やしはしませんし、これは絶対に持ち帰りましょう」

「え、えっ?」


 呪符を魚の死骸の上に落とし、キリエ博士を連れて少しだけ後ろに下がる。

 そして、右手の人差し指と中指を2本揃えて垂直に立て、真下に向けて垂直に空を切った。


「『蜉蝣(かげろう)』」


 瞬間、死骸を中心にザッと砂が舞い上がり、つむじ風が起こる。

 またたく間にそれは内部が見えないほどに勢いを増し、高さ60センチ程度の小さな竜巻と化した。


「『(かい)』」


 数秒して頃合いだろうとそう唱えると、ぱっと小さな竜巻は消え失せ、あとには骨のみとなった魚の死骸が残されていた。


「あ……! この骨!」


 それを見て、キリエ博士も気が付いたらしい。

 大きな声をあげて、再びその死骸へと駆け寄ってしゃがみ込んだ。

 自分もまた彼女に続いて死骸へと歩み寄り、預かっていた調査用の道具の中から標本を回収する為の容器を取り出した。


「小さい、ですけど……これって()、ですよね?」


 その奇形魚の死骸は、尻ビレのあたりが猿の足のように変化しつつあった。






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