やりすぎ注意報
平坦で真っ白な湖上に、ひょっこりと現れた首長竜は異様だった。
クセーナが「で、で、で、出たア!」と、逃げ出すが、ツルツル滑って前に進めない。
挙句に転んで、顔面を氷に打ち付けてしまった。
「ほええ」と、ピピカは首長竜を見上げている。
「長い首ですこと」と、チキは他人事のように感心している。
クセーナは赤くなった鼻を押さえながら喚く。
「喰われる! ぜったい喰われるっ! みんな逃げてぇ!」
首長竜は、つるっとした表面に日光をキラキラ反射させながら微動だにしない。
色は濃紺。頭は細長く、小さな角が後ろになびいている。
『グギャァアア!』
突然の咆哮にピピカとチキが驚いて尻もちをつく。
そこでネムが前に出る。
そして、毛皮のコートに手を掛けると、前をはだけながら叫ぶ。
「ほーれ、見てごらん!」
それは変態と言う名の紳士が自らの裸体をさらけ出す時の儀式だ。
唖然とするチキとクセーナ。
ピピカは「変態でしゅ!」と、色めき立つ。
毛皮のコートから露になったネムの下着姿。
それと対峙する首長竜。
なんともいえない間が空いた。
そして首長竜が反応する。
『フォオオン……』
先程の咆哮とはうって変わって、甘えたような甲高い声。
首長竜は頭を下げて、ネムに顔を寄せて来た。
「冷たぁい! でも、良かった。この子がオスで」
すっかりネムに懐いた首長竜を見て、クセーナが目を丸くする。
「な、なんで懐いちゃってるの!? それってテイム?」
「そうだよ♪ でも、オスにしか効かないの」
チキが、やれやれといった風に首を振る。
「ダーリンが見たら、また『ハレンチ』だってお嘆きになりますことよ」
「てへ♪ もう、クセになっちゃってるから」
クセーナが化け物を見るような目でネムを見る。
「そんなのでテイムができるなんて……しかもドラゴン相手に」
ネムは首長竜の頭を撫でながら言う。
「この子、飛べるのかなぁ? 飛べるなら乗って行けるんだけど」
チキは苦笑いを浮かべる。
「さすがに無理ですわ。水中に生息しているみたいですし、この首の長さ、飛ぶような体型ではないですわね」
「そっかぁ。残念。じゃ、次、行こ?」
ネムはそう言って首長竜にバイバイする。
『フュオオン……』
切なそうな首長竜の鳴き声に後ろ髪を引かれながらネム達は乗ってきた飛竜に戻る。
クセーナは何度も振り返りながら首を捻る。
「信じられない……あんなに懐くなんて」
チキが飛竜の手綱を握って皆を促す。
「では、次に参りましょう」
そして女組は、次の目的地に向った。
* * *
高台から夕暮れ時の港を望みながらラルクが感心する。
「よくこんな場所に港を作ったな。まあ、隠すには最適なんだろうけど」
「フ〇ック! 外海に出るには、あの狭い部分を通らないとならないみたいだな」
三日月型の湾は、外海に出るための水道が百メートルぐらいしかない。
しかも両側には山がせり出していて、船が行き来するのは大変なように思えた。
ギルバートが船の数を数えながら呟く。
「全部で32隻。ほとんど軍艦ですね」
「ファ〇ク! 完全に軍港だな。左側の方には船のドックがあるぜ」
「ああ。海軍の本拠地だけあって、凄い数の船だ」
「倉庫もデカいですよ。多分、武器を大量に貯め込んでいるんでしょうね」
「ファッ〇! あの倉庫、あれで軍の上層部はボロ儲けしてるんだってな」
「どういうことだ?」
「フ〇ック! よくある話だ。武器商人からのリベートで私腹を肥やしているんだよ。戦争ともなれば多くの物資が消費される。その分、金も動く」
「僕も聞いたことがあります。戦争が起こるのは戦争をしたい奴等が居るからだって」
二人の会話を聞いてラルクが頷く。
「よし。全部、爆破しよう」
「フ〇ック!? そりゃいいけど、俺がやっちまっていいのか? そのほうが手っ取り早いけどな」
「いや。さすがにそれじゃ死人がでるだろ。火薬庫を狙う。火をつけて最後にドカン、だ」
「なるほどですね。それは彼等にとって大打撃ですよ」
「そうだな。けど、それだけじゃ足りない。あの大量の船を何とかしたいんだが……」
「フ〇ック! ピピカを連れて来れば良かったな! 強制交換で軍艦を全部、陸に揚げてやれば当分、出撃できなくるのによう」
「それ、いいアイデアだな。そうか……」
ラルクは外海の方向を見ながら考える。
そして何か閃いた。
「そうだ! ファンク! あの水路を断てば軍艦をこの湾内に閉じ込められるぞ!」
「ファ〇ク? どうやって?」
「山を崩せるか? ここから見て左の山の岩や土砂が流れ込めば、外海へ出ることが出来なくなる」
「ラルクさん、理屈は分かりますけど無理ですよ。山を崩すなんて」
「ファッキン・できらぁ!」
「で、出来るんですか!? ファンクさん、あんた何者ですか!」
「ファッキン・大魔王だが?」
「ああ……そうでしたね」
「ギルバート、俺達は倉庫を襲撃するぞ。ファンクは山を頼む」
「フ〇ック! ほいよ」
そう言ってファンクは黒い液体の入った小瓶を取り出して、匂いを嗅ぐ。
「ファッ、くっそ臭ぇ! ギルバートの屁みてえだ!」
と同時に『ボフン!』と大魔王に変身。
ギルバートが呆れる。
「もう慣れましたけど……相変わらずインパクト大ですね」
「ファ〇ク! それじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
大魔王ファンクは黒い大きな翼を広げると、あっという間に港を飛び越えて、港と外海を繋ぐ湾まで到達した。
「あいつ、せっかちだなあ」と、ラルクがポカンとする。
「山を崩してくるとか気軽に言ってましたけど、まさかそんな簡単に……」
だが、次の瞬間、『カッ!』と、閃光が広がった。
強烈な光は夕闇を押しのけて周囲を蹂躙する。
続いて『ズッ!』と、遠くで大きな音がした。
見ると山のシルエットが動いている。
まるで斜めに線を入れた部分がスライドするかのように、山の右側半分が斜め下に滑り落ちていく。
ギルバートが叫ぶ。
「山が動いた!」
地滑りの『ドドドド!』という音と振動がここまで伝わってくる。
地震と勘違いした人々が港の建物から一斉に飛び出してきて、大騒ぎになっている。
山の半分が崩れて海に流れ込んだことで湾内が激しく波立つ。
「おお! 水路が完全に埋まったぞ!」
「みたいですね。あれじゃ船は通れませんね。浅くなってるだろうし」
「あいつ、やっぱり大魔王だけのことはあるな。地形を変えてしまうなんて」
「とても中年妖精の仕業とは思えませんよね……」
「今のうちに倉庫の方もやってしまおう! 行くぞ! ギルバート」
混乱に乗じてラルクとギルバートは、港に下りて倉庫に火をつけて回った。
勿論、残っていた警備の兵の抵抗はあったが、テイムとガスの前では成す術がない。
武器庫の火薬と軍艦の燃料は、文字通り火に油を注いだ。
次々と炎上、爆発していく倉庫街は、夜の到来に抗うかのように、煌々《こうこう》と港をオレンジに染めた。
小一時間の間に、ラルク達の破壊工作で海軍基地は壊滅した。
軍艦は港から出られず、倉庫は徹底的に焼き尽くされた。
ラルクと合流したファンクがオレンジの明かりを眺めながら言う。
「フ〇ック! 武器商人の奴等、いい気味だぜ。だいたい、人殺しの道具で儲けようなんていうのが気に食わねえ!」
ギルバートが同意する。
「その汚いお金に群がる軍の上層部も『ざまあ』ですよね!」
ラルクが頷く。
「ああ。ここはこのぐらいにしておいてやろう。次に行くぞ!」
またひとつ、サブン連邦の軍隊に大ダメージを与えて、ラルク達は次の目的地に向かう。




