女は度胸!? 伝説のドラゴンを求めて
凍てついた山の頂上付近に、こんな大きな洞窟があるのは驚きだった。
伝説のドラゴン『ファラギエナ』を求めて、チキ達は寒冷山脈を訪れていた。
嵐のような吹雪から解放されてホッとしたのも束の間、ネムが白い息を吐き出しながら辛そうな顔を見せる。
「ねえ、お義姉さん。なんだか息苦しくなぁい?」
「そうですわね。だいぶ高い所まで登ってきましたから、空気が薄いのですわ」
クセーナがランプを掲げながら頷く。
「ええ。ここは標高二千を超えてるから」
チキが天井を見上げて感心する。
「それにしても立派な洞窟ですわね。不思議な地形ですわ」
確かに山の頂上に近い場所で、このような洞窟があるのは珍しい。
水の流れが何千年とかけて、地中を削ったというのなら分かる。
ピピカが洞窟の奥を指さして言う。
「なんか明るいでしゅ」
それを聞いてクセーナが「ああ!」と、何か思い出したようだ。
「分かった! 『ヒカリ苔』よ! 聞いたことあるわ」
「なんですの? それは」
「光を放つ苔よ。この辺りの鉱物は魔石が豊富だから、それを食べる苔が光るのよ」
ネムが首を傾げる。
「魔石が取れるの? その割には人が居ないけど?」
クセーナが首を振る。
「鉱山になるほど良質の魔石じゃないから。それにファラギエナが生息してる」
「あら。そのドラゴンは凶暴ですの?」
「勿論! 普通の人は、まず近付かない。今だって、凄く危険なのよ!」
クセーナが緊張しているのに対してチキ達は遠足に来ているような感覚だ。
どんなドラゴンが相手でも、ネムのテイムがあれば味方に出来る。
ただし、オス限定なのが欠点だが……。
洞窟内部は奥に進むにつれ、青白い明かりで満たされている。
「ほええ……トンガリがいっぱい、ぶら下がってるでしゅ」
「まあ、大きな氷柱ですこと!」
「そうね。あれで命を落とす人も少なくないわ。ほら、あそこ。骸骨があるでしょ」
クセーナの指さした場所には、朽ちた骸骨が放置されている。
ネムが顰め面で言う。
「いやだ。よく見ると、あっちこっちに死体があるよ」
「でも、おかしいですわね。氷柱が落ちてきて亡くなった割には骨が粉々のような……」
「ファナギエナよ。ファナギエナの氷結ブレスは人間を一瞬で凍らせるの。骨の髄まで。そこに衝撃が加わったら、あんな風に骨まで砕けちゃうらしいわ」
「そ、そうなんですの……恐ろしいですわね」
しばらく進んだところで小さな横穴が点在する場所に出た。
この辺りは特に骸骨やキャンプの跡が目立つ。
「あら? あそこ。焚火の跡ですわ」
「ホントだ。まだ煙が出てる……てことは誰か居る?」
クセーナが周囲を見回した時だった。
突如、横穴から人影が現れた。
「おいおい! マジで女だけか?」
ダミ声の言葉に呼応して野太い声がする。
「へへへ! 女だ! ラッキーじゃねえか!」
チキ達が警戒する。
「な、なんですの? 人が……」
横穴から現れたのは登山用の防寒具に身を包んだ男4人組だった。
「よおよお! お嬢ちゃん達! どうしてこんな所に?」
「そんな装備でよく登ってこれたな」
「危ないよ? オジサン達と遊ばないか?」
「ちょうど人肌恋しかったんだよねぇ」
ガラの悪い酔った男達を前にチキが毅然と対応する。
「お断りしますわ! お構いなく!」
「おいおい。なんだよ? 温めてやろうってのに冷たいな」
「お嬢ちゃん達もファラギエナの牙を採りに来たんだろ?」
「密猟は罪だよ? 危ないよ?」
「遊んでくれたら分け前をやるよ?」
クセーナが男達を睨む。
「こいつら密猟者だ。ファラギエナの牙や角は高く売れるからね」
「うひょお! よく見るとみんな上玉じゃねえか! ちびっ子も混じってるけど」
「お、俺はちびっ子でも、いいぜ?」
「へへへ、なら、四対四で数も合うじゃねえか」
「温めあおうぜ? 可愛がってやっからよう!」
男達のギラギラした目つきにチキ達は身構える。
チキは草を取り出して口に含み、準備を整える。
ジリジリと距離を縮めてくる男達。
その手にはナイフやらカナヅチがそれぞれ握られている。
「おとなしく言うことを聞けよ」
「裸にひん剥いて楽しんだ後はポイ捨てしちまうぞ?」
ダミ声の男がナイフをチラつかせて接近してきたところでチキが動く。
『ぼええ!』
黄色い電撃のゲロが男の顔面にかかる。
「あばばばば!」と、ゲロを浴びた男が激しく痙攣して倒れた。
「わ! こいつ、いきなりゲロ吐きやがった!?」
「けど、なんで失神したんだ?」
その隙にクセーナは小刀を抜いて男達に斬りかかる。
「この、クソオヤジ!」
「うげえええ!」と、チキもゲロで援護射撃。
「ふざけんな! くそアマ!」
「ぶっ殺すぞ!」
「こうなったら力づくだ!」
そこにネムの得意技が炸裂!
「ほーれ! 見てごらん!」
「う!?」「うひょ!?」「おおっ!」
男達の視線がネムの露になった下着姿にくぎ付けになる。
男達の動きが止まったところで女組が畳みかける。
『バババババ!』と、ネムの高速ビンタ百連発。
「ぼえええ」と、チキのゲロ電撃。
「あい」と、ピピカの強制交換。
強制交換された男は洞窟の高い所に飛ばされた。
クセーナは何もすることがなくて唖然とする。
電撃を喰らった男は失神。
高速ビンタを食らった男は顔が2倍ぐらいに腫れあがってのた打ち回る。
ピピカに飛ばされた男は氷柱にしがみつきながら「うわああ! 下ろしてくれえ!」と、泣き叫んでいる。
それを見上げながらチキが吐き捨てる。
「ざまあ、ですわ!」
「ひ、ひええ! 落ちる! 助けてえ!」
無様に泣き喚く男。
と、その時、男がしがみつく氷柱を『シュゴゥ!』と、白い物が凄い勢いで貫いた。
一陣の風、というよりも光線のような白い帯が飛んできたように見える。
その直後に男の悲鳴が止んだ。
チキ達が不思議そうに男を見上げる。
氷柱にぶら下がっていた男が、ゆっくりと氷柱から離れて落下する。
それはスローモーションのように見えた。
そして、落下と同時に男の身体から『バキャッ!』と、何かが割れるような音がした。
あの高さから落下したのだから骨折は止むをえない。
それにしても音が大げさだ。
「ひっ!?」
チキが思わず口元を押さえる。
「あ……」と、ネムが顔を背ける。
「バラバラでしゅね」
ピピカは平気そうだが、落下した男の頭や手足が変な方向に散乱している。
続いて、光線が飛んできた方向から『ギャワーン!』と、大きな咆哮。
それでクセーナが理解した。
「氷結ブレス! 縄張り内で騒いだから怒ってるんだわ!」
その言葉通り『ズシン、ズシン』と、不穏な振動が近づいてくる。
やがて逆三角形の頭に鳥のような翼を持った青いドラゴンがその姿を見せる。
クセーナが大声を出してしまいそうになるのを我慢して首を振る。
「で、出た。やっぱりファラギエナ……」
ところがネムは暢気に「居た居た♪」と、嬉しそうに駆け寄っていく。
「ちょ、危な……」と、クセーナが止めようとするが間に合わない。
ネムは毛皮のコートに手を掛けて、本日二度目の御開帳!
「ほーれ、見てごらん!」
ファラギエナがネムの存在に気付いて足を止める。
そして無言の対峙……。
『フェミィイイ!』
ファラギエナが吠える。
その咆哮にシンパシーは欠片もない。
ネムが慌てて逃げ出す。
「ダメ! この子、メスだわ!」
クセーナが絶望する。
「ど、ど、どうすんの!?」
ファラギエナは明らかに敵意を持って追いかけてくる。
おまけに今の咆哮で、天井の氷柱が幾つか落ちて来た。
それも結構な大きさで、当たったら大変なことになる。
クセーナは取り乱して逃げ惑う。
「びえええ! 来ないでエ! 死ぬウ!」
ファラギエナはチキ達に狙いを定めて氷結ブレスを吐き出す態勢に入った。




