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ティナという女

 あの追放劇の裏で何があったというのか?


 真実を知りたくてラルクはティナに尋ねた。

「頼む! 教えてくれ。バルガードは今どこに?」


 しかし、ティナは腕組みしながら「知らないわよ」と、吐き捨てる。

「魔王の城から逃げ出して、そのあと誰とも会ってないから」


「手掛かりだけでいいんだ。何か思い出せないか?」

 ラルクのお願いにティナが迷惑そうな顔をみせる。

「だから知らないって! あのゴリラ女なら何か知ってるかもしれないけど」


「ゴリラ女? 女ドワーフのリッツか!」

「故郷に帰るみたいなこと言ってたから、ドワーフの里に戻ってるんじゃない?」


「他には? 何でもいいんだ。ヒントになるような……」

 尚も情報を引き出そうとするラルクをティナが「しつこいわね!」と、拒否する。


「勝手に捜しに行けば? 私には関係ないから。あんな奴等には、もう関わりたくないし」


「そんな……仲間だったのに?」


 ラルクの言葉をティナは笑い飛ばす。

「仲間? くっさい言葉。まだ、そんなこと言ってんの? ひょっとして、そちらの連れは、あんたの新しい仲間?」


 ラルクはムッとしながら「そうだ」と答える。

 

 ティナは小馬鹿にしたような顔つきで言い放つ。

「せいぜい、その微妙な人たちと仲良くすることね。あんたにはお似合いのポンコツ揃いなんでしょうけど」


 流石にラルクが怒った。

「おい。謝れ!」


「は? なによ。事実じゃない。とても冒険向きの顔ぶれじゃないでしょ?」

「お前に何が分かる? 仲間を侮辱するな」


「仲間? 追放されたあんたが仲間を語る? プッ、ウケる!」

「な!?」

「まあ、いいわ。とにかく、もう二度と顔を見せないで! わたしは、もっと有名になるの!」


 そう言い残してティナはボディガードの黒服を連れて、店の奥の大きなテーブルに陣取った。


 そこに小さな女の子がサインを求めに近付いた。

 ティナは周囲を一瞥して、打算的な笑みを浮かべると、それに応じた。


 そこでラルクが3秒テイムを発動する。

 ティナが筆を動かすタイミングに合わせて、何かを書く動作をした。


 テイムの対象はティナだ。

 彼女の手はラルクの動きを正確にトレースする。


 色紙を見て女の子が驚いた表情でティナの顔を見上げる。

 ティナ本人は筆を持ったままフリーズしている。


 女の子はサインを受け取らず、呆れたようにティナのテーブルから離れる。

 ティナは茫然としながらも、口元が引きつっているように見える。


 チキが小さい声で尋ねる。

「ねえ? 何をしましたの?」


 ラルクは椅子の上で《あぐら》をかきながら、耳をほじる。

『ウンコの絵、描いたった!』


 それもティナがトレースした。動きも発言も完コピだ。

 ティナの口から出た言葉に周りがドン引きする。

 

 一呼吸置いてラルクは、三たびスキルを発動させる。

 お尻をボリボリ掻きながらボヤく。

『あ~ ケツかゆい!』


 数メートル離れたテーブルでは、その動作と発言がティナに真似されている。

 不貞腐れた表情でティナは豪快にお尻を掻いた。

 

 ボディガード達の唖然とする様子。周りの客たちの軽蔑するような視線。


 ティナが冷や汗をかいているのは明白だ。

 さっきまでの傲慢な態度はみじんも無い。


 とどめにラルクは鼻の穴に指を突っ込んでスキルを発動する。

 鼻をホジホジして、鼻クソをピーンと飛ばしながら、ついでにゲップする。


 ティナが正確にその動きを再現したところで、店内がざわついた。

 はじめは、華やかな女優の来店に色めき立っていた空気が、今では何ともいえないシラケたムードに一変していた。


 茫然自失のティナが、ふと、何かに気付いたかのようにラルクに目を向けた。

 そして鬼の形相でツカツカと歩いてくる。


「まさか、あんたの仕業しわざ?」

 ティナはラルクを睨みつけながら問いただす。

「あんたのテイム能力! まさか、人間にも有効なの!?」


 ラルクはすっとぼける。

「はて、何のことやら?」


 ティナが「ふざけん……」と、手を上げたところで、ラルクがすっと立ち上がり、彼女の手首を掴んだ。


「そうだよ。お前らが散々、バカにしてくれたテイム能力だ」


 引っ叩こうとした手を封じられたティナの顔が歪む。

「酷い! そんなの聞いてない!」


 ラルクは表情一つ変えずに答える。

「知らなくて当然だ。仲間に対しては使わないからな。仲間には」


 仲間という言葉に含みを持たせたその言い方にティナが押し黙る。


 ラルクは冷たく言い放つ。

「謝れ。さっきの暴言。俺の仲間に謝るんだ」


「嫌よ! なんで、あんたの言うことなんか……」

「だったら女優をクビになるまで続けてやろうか? 舞台に出るんだってな?」


 ラルクの言葉の意味を理解してティナのテンションが下がる。

「え、あ、そ、それは……やめて……」


 演技の途中で悪意のある人間に操られることは、女優として致命的だ。

 ことの重大さに気付いたティナが涙を浮かべて懇願する。

「お願い……何でもするから……それだけは」


 彼女は涙を浮かべて、しおらしくラルクに訴えかけた。

 しかし、ラルクの表情は変わらない。

「その手には乗らない。追放される前だったら騙されていたかもしれないが」


 ラルクがなびかないのでティナの表情が、瞬時に怒りモードに切り替わる。

「なによ! ラルクのくせに! わたしのお願いが聞けないの? いつからそんなに偉くなったのよ!」


「やっぱりな。嘘くさいんだよ、お前。女優に向いてないんじゃないか?」

 ラルクの冷静な返しにティナは激高する。


「ラルクのくせに生意気! あんたも、あんたのポンコツ仲間も、まとめてあの世に送ってやるから!」


 そう叫んでからティナは、ドレスの裾をたくし上げ、走ってレストランを出て行った。

 慌ててそれを追うボディガード達。


 嵐が去った店内は静寂に包まれた。

 

 もめ事を起こしてしまった後ろめたさもあり、ラルクは急いで店を出ることにした。


 ティナという女の実体を見せつけられて、ラルク達は口数が少ない。

 チキが、ぽつりと呟く。

「初めてですわ。あんな悪い女……」

「ファ〇ク。想像以上だったな」


 ソースを頬につけたままのピピカが頷く。

「怖かったでしゅ」


 なぜかギルバートは落ち込んでいる様子。

「あんなに美しいレディが……信じられないです」


 しかし、ラルクにはティナの捨て台詞が気にかかっていた。

「このままで済むとは思えない」


 ラルクは知っていた。ティナが異常なまでに執念深いことを。


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