ラーソン王国 刑法第148条
昨夜、話し合った結果、次に向かう先は、隣国にあるドワーフの里ということになった。
出発の準備を終え、昼前に宿を出ようとした時、チキが外の異変に気付いた。
「あら。なんだか騒々しいですわね?」
宿の入り口は馬車を乗り付けるスペースがあり、その周りはちょっとした庭になっている。
そこに、なぜか人だかりができているようだ。
ギルバートが首を傾げる。
「偉い人でも泊っているんですかね?」
「ファッキン! その割には警備が緩そうだぜ?」
不思議に思いながらラルク達が外に出ると、野次馬の視線が一斉に集まった。
「やっと出てきた!」
「あれが相手か?」
「あんま強そうじゃねえな」
「バカヤロー! かーえーれ!」
なぜ自分達が注目されているのか分からず、ラルクが戸惑う。
「なんなんだ? どうして俺達が……」
その理由は直ぐに判明した。
ラルク達の前に、売り出し中の新人女優ティナが立ちはだかったのだ。
ティナは昨日の赤いドレスとはうって変わって、白魔導士の防具で全身を固めている。
白を基調としたローブは、おへそや肩を見せることを意識した露出多めの物だ。
ティナを遠巻きにして野次馬が興奮する。
「ティナちゃん、カッコいい!」
「ティナたそ! 萌えええ!」
「俺達のティナ!」
バックの声援を背にティナがラルクを睨みつける。
「昨日は、よくも恥をかかせてくれたわね! ラルクのクセに!」
やはり、ティナは昨日のレストランで粗相させられたことを根に持っていた。
ラルクが呆れ顔で返す。
「だから? 大騒ぎするようなことか?」
「ふざけないで! 私は有名人なのよ!」
そこでファンクが吐き捨てる。
「フ〇ック! 売れねえ駆け出しのくせに」
それを聞いてムッとしたティナが手にしていたロッドを振る。
「うっさい! ホーリー・ニードル!」
白魔導士が得意とする魔法の光の針が『ザクザクッ!』と、ファンクを貫く。
「うぎゃ、ファ〇ク!」
それを見て野次馬が「おおっ!」と、歓声をあげる。
ティナは満足そうに言う。
「引退して半年。でも、腕は衰えてないわよ!」
ラルクが遠い目をしながら呟く。
「そっか……あれから半年も経つのか」
ラルクの反応にティナがイラつく。
「ここで終わりにしましょ! あんたに決闘を申し込むわ!」
そこで、どっと野次馬が沸いた。悲鳴や歓声が入り混じる。
ティナは腕組みしながら告げる。
「ラーソン王国、刑法第148条第7項。知ってるわよね?」
ラルクの表情が変わる。
「勿論だ。前項にかかわらず、決闘において相手方を死に至らしめた場合はこの限りではない。だろ?」
「そうよ。どう? 受ける?」
「どのみち俺を消すつもりなんだろ?」
「私はこれから、もっと有名になるの! あんたの能力は邪魔なのよ!」
「は? 俺がお前に固執するとでも? 自意識過剰だ」
「ラルクのクセに生意気! やるの? やらないの?」
「いいだろう。受けて立つ」
「決闘、成立ね。良かったわ。で、4対4で良いのね?」
「ああ。この4人でいいぞ」
ティナは悪だくみするような笑みを浮かべ、手を挙げて合図する。
すると、野次馬の中から武装した3人の男が現れた。
ティナは宣言する。
「これで、あんた達は終わりよ! こっちは私の親衛隊から選りすぐった猛者が、ついてるんだからね!」
ティナが言う猛者というのは、剣士、黒魔導士、弓兵の3人だった。
ピピカがギルバートに「親衛隊ってなんでしゅか?」と、質問している。
「ああ。熱狂的なファンですよ」
その回答にピピカは「ひょええ」と、首を竦める。
ティナは自信満々だ。
「この人達は、私の為なら命がけで戦ってくれるわ。覚悟しなさい!」
しかし、ラルクに緊張感はない。
「まあ、後悔するのはそっちだけどな」
「ラ、ラルクのクセに生意気!」
ティナは激高した。
その時、チキが周囲を見回して顔を顰めた。
「嫌な感じですわ。撮影されているみたいですわよ?」
いつの間にか投射鏡放送(テレビの放送)や写真の機材を構えた連中が、野次馬の前線に陣取っている。
その連中に向かってティナが不機嫌そうな顔を見せる。
「なんか少なくない? ねえ、もっと大々的に生中継するんじゃないの?」
報道関係者と思われるオッサンが言い訳する。
「も、申し訳ない。テフラ峠の紛争に人手が奪われちゃって……」
「もう。それじゃ、最低でも10回は放送してよね」
ティナの意図を理解してファンクが呆れる。
「ファ〇ク! 生中継だと? どんだけ目立ちたいんだ!?」
ティナは余裕たっぷりに説明する。
「面白いでしょ? 元白魔導士の美人女優が、パーティを追放されたストーカーを成敗するの。それを全国のみんなに生で見てもらうのよ!」
ノリノリのティナとは対照的にラルクはゲンナリする。
「誰がストーカーだ……」
盛り上がる野次馬と報道陣。やる気満々の親衛隊の面々。
主役のティナは、ラルクをあの世に送ると息巻いている。
苦々しそうにラルクが呟く。
「やっぱ、最悪だな。この女」
それが聞こえたのか、ティナが戦闘モードに入った。
「ラルクのクセに生意気! 行くわよ!」




