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売り出し中の新人女優

 バンドランのレストランで昼食を取りながら作戦を練る。


 チキが上品にナプキンで口元を拭いながら尋ねる。

「そのティナというのは、どのような女でしたの?」


 フォークの手を止めてラルクが答える。

「やさしく……は無かったんだな。今思うと」


 皆の視線が集まる。

 それに気付いてラルクが自虐的に笑う。

「はは、たぶん、表面だけしか見てなかったんだろうな」


「まさか、恋人でしたの?」

「いや。彼女は勇者と付き合ってた……らしい。それも最後に知ったんだけどね」


 それを聞いてチキの顔がほころんだ。

「あら。そうでしたの」


 そこにファンクが余計な一言。

「けど、好きだったんだろ? ファッキン片想いってやつだ」


「な!? そ、そんなこと!」 

 ラルクが慌てるさまをチキは見逃さない。


 チキはファンクを視線で牽制しながら、笑顔で取り繕う。

「い、いいですわ。そんな過去の女のことなんて。今は私がおりますもの。昨夜だって、たっぷり……」


 それを聞いてラルクが狼狽する。

「そ、それは、チキが勝手に……てか、急に眠くなって、ほとんど……」


 そこでギルバートが話題を変える。

「でも、復讐するにしても具体的には何をするんですか?」


「そ、それは……」と、言ったきり、ラルクが言葉に詰まった。


「ファッキン! ボコボコにしてやるんじぇねえのか?」


 ギルバートは首を竦める。

「そんな。いくら恨みがあるからといって、レディに暴行するなんて!」


「フ〇ック。だったら、どうすんだよ? 裸にひん剥いて売り飛ばすか?」

「野蛮ですねぇ……ファンクは。やはり貴族の僕とは住む世界が……」

「貴族? 元貴族だろ? ファ〇ク!」


 しばらく考え事をしていたラルクがフォークを置く。

「プライド……これはプライドの問題なんだと思う」


 皆がラルクの様子を見守る。ラルクは頭の中を整理するように続けた。

「あのラストダンジョンで追放されるまで、自分なりに頑張ってきたと自負してた。どんな困難も強敵も、仲間が居たから乗り越えられた。そんな勇者パーティの一員である誇り、それが粉々に砕かれた……」


 チキが目に涙を浮かべて「ダーリン……」と、呟く。


 ラルクは言う。

「たぶん、あのダンジョンにプライドを置いてきちゃったんだと思う」


「ファッキン! だったらその女のプライドをへし折りゃいいんだ。売り出し中なんだろ? 正体暴いて人気暴落! なんてどうだ?」


 その時、店の入り口が賑やかになった。

 目立つ風貌の団体客が入店してきたのだ。


 店内の注目が集まる箇所には黒服の屈強な男達。

 それに囲まれた中心には赤いドレスの女……。


 それを見てラルクの動きが止まった。

「ま、まさか……」


 ラルクが凝視する中、テーブルの横を一団が通り過ぎようとする。


「ティナ」

 ラルクが思わずその名を口にした。

 すると、タイミングが合ったのか、女がそれに気付いた。


 ラルクと目が合う赤いドレスの女。

 女が足を止める。

 どうした? といった風に一団の足が止まる。


 赤いドレスの女が口を開く。

「ラルク? ラルクじゃないの」


 返事をする代わりにラルクが冷笑を返す。

 すると女は急に怒り出した。

 そして、ラルクのテーブルにあった水差しを引ったくり、ラルクの頭からぶっかけた。


「な!?」と、硬直するラルク。

「ちょっと!」と、チキが立ち上がろうとする。


 女は水差しを放り投げながら怒鳴った。

「あんたのせいで! あんたのせいで酷い目にあったのよ!」


 ラルクは、なぜ追放された自分が怒られているのか理解できない。

 目を白黒させながら、やっとの思いで口を開く。

「ちょっと待て。追放したのは、そっちだろ?」


 赤いドレスの女ティナは、ラルクの襟首を掴んで怖い顔を近づけてくる。

「本当なら魔王を倒して有名になるはずだったのに! そしたら、こんな苦労しなくて済んだのに!」


 それを聞いてラルクが驚く。

「え? あの後、魔王を倒せなかったのか?」

「そうよ! 惨敗よ! 死ぬかと思ったんだからね!」


「マジかよ……結局、倒せなかったのか」

 ラルクが何ともいえない顔で首を振る。


 そこでファンクがゲラゲラ笑いだした。

「ファッキン! 倒せなかっただと? 南の魔王を!? 冗談だろ」


 ファンクの言葉にラルクが怪訝そうに尋ねる。

「南の魔王? 南って……まさか他にも魔王がいるのか?」


「ファッキン! 知らなかったのか? 南の魔王なんて最弱だぜ? なんだよ。お前の居たパーティは大したことなかったんだな」


 唖然としてラルクとティナが顔を見合わせる。


 先に我に返ったのはティナだ。

「信じられない! じゃあ、何のために、あんな苦労したの? バカみたい!」


 ラルクも動揺を隠せない。

「ま、魔王が複数いるなんて……え? 初耳なんだけど……」


 チキが「なるほど、ですわね」と、納得する。

「魔王が倒されたら、もっと大騒ぎになっているはずですもの」


 ティナはラルクの胸倉を揺すりながら文句を言う。

「あのクソメガネが言ってたのよ! こんなことなら、あいつを連れてくるべきだったって!」


「クソメガネ? 黒魔導士のバルガードか?」

「そうよ! あのインチキ・クソメガネがグランにそう言ってたのよ!」


 ラルクを追放した張本人の勇者グランが黒魔導士とそんなやりとりをしていた?


「どういうことだ? グランとバルガードがなぜ?」

「知らないわよ! 本人に聞きなさいよ!」


 ラルクは、てっきり自分が弱いから戦力外になってしまったのだと考えていた。

 だが、あの後で勇者と黒魔導士が、自分を連れてくるべきだったと後悔していた?


 ラルクは激しく動揺した。


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