強行突破
ラルクが懐から小型の木槌を取り出しながら皆に尋ねる。
「みんな、準備はいいか?」
チキはポシェットに手を突っ込みながら頷く。
「勿論ですわ!」
ピピカはドングリを握り締める。
「お役に立ちたいでしゅ!」
ギルバートは若干、ガニ股で気合を入れる。
「いつでも、どうぞ!」
ファンクはハエのように飛びながらサポートするために周囲に気を配っている。
ラルクが先頭に立って指示する。
「行くぞ! みんな、鼻をつまめ!」
鼻をつまむ面々を見てピピカが戸惑いながら真似をする。
そこでラルクが合図を出す。
「ギルバート! 水色だ!」
「はい。では……んっ!」『プゥゥゥ』
ギルバートが睡眠効果のある水色の屁を噴射する。
そして、そのまま敵陣に向かって走り出す。
鼻をつまんだラルクがそれに続き、チャム族の前衛からの攻撃を弾いていく。
ギルバートは迷子の子供のような走り方で突っ込んでいく。
「うわああああ!」『プピピピピ』
ギルバートの尻から絶えず漏れ出す水色の気体が、次々とチャム族のカエル人間どもを眠らせていく。
屁を吸わなかった奴は、ラルクが木槌でぶん殴って気絶させる。
離れた位置から弓で攻撃してくる敵は、矢を放つ瞬間に3秒テイムで狙いを外させる。
ピピカのスキルも有効だ。
手持ちのドングリと弓を強制交換して敵の攻撃手段を奪う。
チキは寄ってくる敵に火炎放射のゲロで対抗する。
走りながら、それぞれが特技を活かして包囲網を突破した。
「ファ〇ク! 右だ! 洞窟に入れ!」
ファンクの指示に従って、一行は右へ方向転換。
立ち塞がる敵はモノともせずに正面突破を図る!
遺跡を駆け抜け、目的の洞窟の入り口まで到達した。
ラルク達は迷わず洞窟に侵入する。
洞窟内に入ると、敵の攻撃はパタリと止んだ。
まさか、あの大包囲網をこんなに簡単に突破されるとは思っていなかったのだろう。
「ファッキン! そのまま進め。道なりだ」
こういう時のファンクの勘は当てにして良い。
目的は軟禁されているサーカス団の手品師だ。
洞窟内は鍾乳洞になっていて、天井からぶら下がる氷柱のような石が連なっている。
所々の窪んだ箇所に蝋燭が設置されていて、明かりになっている。
このように道が作られているところをみると、チャム族は、ここを頻繁に利用しているらしい。
しばらく進むと大きく凹んだ箇所に小部屋がある場所に出た。
それは休憩所だったり、物置き場だったりするようだ。
道は真っすぐではないが分岐はしていない。
さらに道なりに進んだところで、ひらけた場所に出た。
そこはちょっとした池になっていた。
「フ〇ック! 水が溜まってやがる!」
道なりに進むには、この池のような場所を越えなくてはならない。
一応、桟橋のようなものが向こう側まで続いている。
ギルバートが水面を覗き込みながら言う。
「それほど深くはないですね……怖いけど」
「行きますわよ。さっさと橋を渡ってしまいましょ」
チキは気にせずドンドン進もうとする。
すると、突如、右方向の水面が盛り上がった!
それに伴って大きな波が生じ、桟橋の上を水が通過していく。
「きゃっ!」と、チキが足元を水に持っていかれそうになる。
近くに居たラルクが「危ない!」と、チキの手を掴んで引き寄せる。
危うく池に放り出されそうになったチキを助ける格好になってしまった。
「ダーリン! ありがとっ!」
チキがハートマーク全開でラルクに抱き着いてくる。
水面が盛り上がった箇所には目もくれない。
代わりにギルバートが裏返った声で報告する。
「で、で、でましたぁ……」
水面からせり上がってきた岩のような物体から『ザザザザ』と、滝のように水が流れ落ちる。
「ファック! 多面ガエルのお出ましだぜ!」
流石にラルクも驚いた。
「デカい!」
高さは3メートル、横幅が十メートル以上ある。
巨大なカエルだとは聞いていたが、やはり実物を目の前にすると圧倒されてしまう。
色は鍾乳洞と同じ系統、ただ、全身のあちこちにカエルの顔がついている!
ひとつひとつは人間の頭の大きさと変わらない。
黄色い目と横に長い口。それが無数に張り付いている。
ラルクが唸る。
「だから多面ガエルなのか……気持ち悪い奴だな」
いったん桟橋の手前まで引き返して戦闘態勢を整える。
いつものようにラルクが接近するにしても、相手は池から出てこない。
こちらから行くにも水が邪魔になる。
「ファ〇ク! こういう時に遠距離攻撃ができないパーティは辛いぜ」
ラルクがチキに尋ねる。
「チキ、あそこまで飛ばせる魔法は無いか?」
「ちょっと遠いですわね。ドラゴンの実は爆破系の魔法ですけど……」
ラルクが一歩前に出る。
「だったら、引きずり出すまでだ」
そこで3秒テイムを発動する。
ラルクはしゃがんでカエルのようなポーズをとると、そのまま前方にピョンピョンと数回撥ねた。
すると多面ガエルが、その動きをトレースして大きくジャンプした!
その巨体でのジャンプは、着地と同時に『ズシン!』という衝撃と『バッシャア!』という激しい水飛沫を生み出した。
これで距離は詰まった。ジャンプすれば届く。
そう判断してラルクが助走をつけてジャンプの体勢に入った。
「ファッキン! 待て!」
ファンクの制止にラルクの足が止まる。
それと同時に多面ガエルの足についていたカエルの顔が『グオッポッ!』『ゲッポ!』と何かを吐き出した!