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やっぱり測量士は最強じゃない  作者: ののくにく
序章(リアドの町)
9/20

測量士の家族

 翌日、ケインは早朝の走り込みを行う。日が昇り始めて空気が澄んでいる町の外周を走り続ける。

『今何キロ走ったところ?』

(十一キロです)

 その言葉を聞いたところでケインは走る速度を落とす。ついでに現在の時刻を聞いて、そろそろ朝食の時間ということで今日はここで終わりにした。

 ランニングが終わったものの、この後の朝食を考えると気分は下がる。その理由は、母親が毎食、一緒のテーブルに着くように反強制してくるからだ。ジョブに就く前の純粋なケインなら喜んでいたが、『測量士』という下位ジョブに就いてしまった現在、家族と顔を合わせる嫌なイベントでしかない。

 足取り重く家に戻り、水浴びを済ませてリビングに入る。既に両親と兄が着席していた。

 兄であるウィリーが、いつも通り下民を見るかのような視線をケインへと向ける。

「まだ無駄な努力をしているのか。ご苦労なことだな」

 いつもの言葉だ。次第に慣れてきたのか、ケインを見ると条件反射のように罵倒の言葉が彼の口から流れ出す。せめて可愛い女の子ならば、幾分かマシなのにと思いながらケインは決められた椅子へと腰を下ろす。ウィリーからは離れた場所なので、至近距離で彼の言葉を聞かなくて済むので楽だ。

 そんな兄弟の会話を見て、母がウィリーを咎める。

「ウィリー、そんなこと言っちゃダメって言ってるでしょう?下位ジョブでも、努力次第で強くなるかもしれないでしょ」

「ふん、どうだろうね。ジョブの固有スキルが無い時点で、圧倒的な差があると思うけど」

 固有スキルというのは、そのジョブによって得られる固有のスキルのこと。

 ケインの『測量士』の場合は『測量』が固有スキル。シャルナの『読心者』だと『読心』がそれにあたる。基本的に固有スキルはジョブによって決まるが、互換性の高いジョブ同士では同じような固有スキルになることもある。

 ちなみに、ウィリーは「戦闘系のスキルがないから弱い」という、この世界では当たり前のことを言っている。

「そんなことを言わないの。スキルが全てじゃないのよ。私もスキルは持っていないけど白魔法は使えるし、剣術が無くても剣は振るえるわ。だから、下位ジョブでも戦闘系のスキルが無くても強くなれないわけじゃないのよ」

「ふん、どうだか」

 ウィリーと母の会話は大体こんな感じだ。父はこの議論に加わる気が無く、毎日傍観しているだけ。この場に限っては案山子よりも存在価値が無い人間だろう。

 そんな二人の会話がケインの目の前で流れているうちに、彼の姉と妹もリビングにやってくる。

「おはよう」

 このリビングにいる者全員に向けた挨拶に、ケインは無反応でいる。自分の肉親であるものの、この場ではあまり関わらない方がいいとこの一か月ほどでわかったのだ。理由はウィリーがうるさいから。以上。

 普通なら団らんの時間のはずが、ウィリーがケインを馬鹿にし、母がそれを止め、父たちは傍観者になりきる。そんな気まずいだけの時間だった。




 朝食後、いつも通り自己流の剣術の鍛練を行った。そして昼食を済ませてシャルナとの約束通り、昨日の場所へと向かう。道中でおやつとしてサンドイッチを購入して鞄に入れた。おやつがサンドイッチという点に関しては、甘味の値段が高いということで妥協した結果だ。

 家族といても安らがず、測量の反応は事務的。現時点ではシャルナとの対話が一番楽しみに感じている。それも仕方ない。唯一の友人がウィリーの傘下に入り、家族はケインが下位ジョブということで対応が冷たくなっている。普通に接してくれる人間が少なすぎる。

 ちなみに、他に友人を作ればいいじゃないかと思うかもしれないが、この町の治安維持に大きく貢献している者の息子ということで、あまり仲良くしてくれる人がいない。肝心の父親がケインに良い顔をしていないので、自然と仲良くする人がいなくなっているのだ。

 将来性があるなら、今から仲良くしようという者もいただろう。しかし、下位ジョブで治安維持に貢献できないだろう弱者にすり寄る物好きはいなかった。

 この町で重視されるのは力。だからこそ、力を持たない下位ジョブの者はヒエラルキー最下層に陥ってしまう。これは社会の仕組みとしてそうなっているのだから仕方ない。資本主義社会で金の無い奴は底辺だということと、言っていることは変わらないのだ。

 そんな社会の体系に不満は抱きつつも、ケインは前向きに行動している。

『どうすればシャルナちゃんの能力がグレードアップするんだろう。ねえ、何が必要になるかわかる?』

(……)

 わからないならわからない、と言ってくれればいいのに。無言というのは地味に傷つくから止めてほしいな。

『そういえば、測量さんもグレードアップするんだよね?するって言って?』

(……)

『はいはい、わかりましたよ。ねえ、グレードアップできる可能性はどれくらい?』

(100%です)

 え、絶対にグレードアップするの?すごいじゃん。具体的にどうなるのかは聞き方が分からないから、絶対教えてくれないだろうけど。

『それはどんな条件なんだろう。時間経過?測量した種類?数?』

 これにも測量さんは答えない。なんだろう、意地でも数字以外の何かを言わせたくなる。今は無理だろうけど、もしかしたらグレードアップすると日常会話できるのかも。

『後何日で測量さんはレベルアップしますか?』

(期待値では4日です)

 期待値、てことは時間経過でレベルが上がるわけじゃないっぽいね。

『後何種類測量したら測量さんはレベルアップしますか?』

(……)

 あれ、これは答えてくれないの?うむ、ということは、レベルアップに種類は関係ないということかな?というか、種類の定義がアバウトすぎて理解してもらえてないだけの可能性もあるね。

『後何回スキルを使えば測量さんはレベルアップしますか?』

(394回です)

 お、今度は確定した数字が出た。ということはスキルを使った回数でレベルアップするのかな。

『後何回スキルを使えば測量さんはレベルアップしますか?』

(393回です)

 ビンゴ!これだ。スキルは使えば使うほどレベルが上がるみたいだね。確かに、剣術とかは鍛錬で伸びるはず。もしスキルのレベルが上がらない制度であったなら、全員の剣術レベルが同じで、差別化がジョブ以外になくなってしまう。そうなれば残りのスキルの構成次第で勝敗が決まり、努力がとても薄っぺらいものとなってしまう。さすがにそうなれば社会が崩壊してしまうだろう。

(今以上にジョブ至上主義社会となり、下位ジョブに人権が無い世界だっただろうなぁ)

 しかし、スキルは全部レベルアップの余地があるのかとなると微妙だろう。『全言語理解』や『状態異常無効』なんかは進化の余地が無さそうだ。

『ていうか、測量さんはレベルアップするとどうなるの?』

(……)

 せめてこの無言が無くなればいいな。無視されているみたいで精神的につらい……。

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