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愛 ~それは偽りでも~
もし今この状態で、僕があなたの愛を失ってしまったときには、僕はどうなってしまうことだろう。
あなたが他のだれかを愛するようになってしまって、僕へ向けられていた愛なんてものはすっかり忘れてしまったとしたら。
あるいは、最初かあなたが僕のことを愛してなどいなかったのだとしたら。
だって僕は騙していたわけではないか。
女性だと思って僕に通ってくださっていたわけでもあるし、優しさから受け入れてはくれたものの、それでも子どもだってほしいのに決まっている。
偽りでも構わないと、僕は言えるかな。
今まで注がれていたあなたからの愛が、僕の正体を知ってからはずっとただの優しさだったのだと知って、それを僕は頷ける?
そんな優しさならいらないと、逃げ出してしまうのではないかな。
もしかしたら、命懸けで僕のことを守ってくれていたのに、その命を無駄にしてしまうようなことがあるかもしれない。
絶望ばかりの僕の世界に差し込んだ光なんだ。
全てを奪われたところから、幸せへやって来たのに、またその幸せを失わなければならないなんて、僕だったら耐えられない。
だってそうでしょ……?
今まで感じて来なかった”嫉妬心”というものが僕に芽生えていた。
「招き入れてくださったあの日の喜び、今でも忘れられません。ですから、この夢がいつ醒めたとしても構わないと思うところがあるのです。まさか、何よりも愛しているのに、失うことに耐えられるはずがありませんのに」
僕が言葉を発しようとしたところで、先にあなたに言われてしまった。
「本気?」
尋ね返したら、あなたは少しだけ笑った。
「遊びと言えたらどちらも救われるのかもしれませんね」
笑ってあなたは言うものだから、僕は胸が締め付けられた。
僕もあなたも救われない。
そんなこと、あなただってわかっているはずじゃないか。
ああ、僕だってそうだ。
疑心と不安の間で揺れた僕の心を読み取って、きっとあなたはそう言ったのだろう。
「それなら改めて卑怯な手ででも惚れさせましょうか」
僕の提案をどういうことかとあなたは首を傾げる。
「髪をあげます。香を焚いて、私の香りをたくさん染み付けた髪を、あなたに差し上げます。そんなものを持っていたら、いつだって私を想わないではいられないでしょう? 同じように、あなたからはとびきりの歌を下さいな。何があっても私の心が揺れないような、私だけのための歌を」
ころりとあなたの笑顔は変わった。
今度は明るい笑顔で言ってくれる。
「それは確かに卑怯ですね」




