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夜酒 ~君の香りに溺れて酔うも酒の所為か~
酒を飲むことはないのだけれど、絶望の淵にまた叩き落されるようなことがあったならば、精神が弱り切った僕にそうした応急措置を取ってくれることもあるのだろうか。
本当に僕のことを想ってくれているのだと思っているけれど、それも僕のためだと思ってくれるかもしれないし、本当にそれで救われる僕がいるかもしれない。
あなたを失ってしまったら、つい考えてしまうのだからいけない。
待っても帰って来ない人を待つこの人は、どんな気持ちで日々を過ごしているのだろうか。
「美味しいのですか?」
こんな問いがよくないとは僕にもわかった。
「もったいないことだよな、味も感じないのだから。ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ酔わせてもらうために、その効果を求めて飲み続けているのだ」
「なるほど」
そうは答えたものの、僕にその意味はわかっていなかった。
美酒と呼ばれるものを持って、いつものように現れるあなたを僕は静かに待っていた。
ぴったりいつもどおりに現れたあなたを招き入れるも、僕は後ろ姿で対応する。
「どうしたのです」
肩に手を掛け尋ねるあなたに、振り向きざまに僕は酒を注ぎ込む。
あんまりにいきなりなものだったので、あなたは驚いているだろうね。
「ど、どうしたのです」
猪口に入っていた酒を呑み干しさせられて、目を丸くしてあなたは尋ね直す。
驚いているあなたの口に、注ぎ直した酒をまた流す。
酔っている姿の想像ができないから、見てみたい気持ちが強かったのだけれど、この行為の強引さは僕もわかっている。
これはさすがに怒ってもいいところなのではないかな。
「誘っているのだと勘違いしますよ? なぜこのようなことをするのです?」
「あなたを酔わせてみたくなったのです。好奇心ですね。だけどこうして私が正直に話してしまったことで、あなたは私にもそうしたいと思ったことでしょう?」
「それでまずは力ずくでってことですか。それなのに、聞いたら案外すぐに答えてくれるものですね」
「あなたに隠しごとをできるわけがないではありませんか」
そういった会話のやり取りがあって、なんだかんだあって、いつの間にか僕も酒を飲まされていた。
二人で酔っ払ってしまったなら、あなたの姿がちゃんと見られないのに。
「駄目。やっぱり私が酔っちゃいます」
「可愛いからいいと思いますよ」
そういうことじゃないのに、流されてしまいそうな僕がいた。
哀しみが強くなったら、この僕が酒に強くなるのだろうかと少しばかり興味は湧いたけれど、その興味のために哀しみに落とされる気は毛頭ない。
ふわふわとした気分だけが残った。




