22
病弱軍師 ~桜の花のように美しく散ることを彼が望まないのなら~
桜に包まれて彼女は亡くなった。美しく亡くなった。
それを望まない選択肢はいくつだってあったのかもしれない。
楽に美しく彼女が望むように、楽しいままに消えていけることを幸せだと僕は判断した。彼女もそれを望んでいるようだから、それを否定するべきではないと判断した。
それ以外の選択肢を考えていなかった。
最期まで足掻け。死ぬな。どうしても死なずにはいられないその場所まで、どんなに逃げても連れて行かれるところまで、苦しんで苦しんで足掻き続けろ。
できるだけ生きてもらうために、死でかっこつけさせないことは、相当にかっこよくなければできないだろう。
僕にはそこまで言う勇気なんてなかった。
無理して生きさせて必死に必死に生きさせて、最期に彼女を抱き締めて、そんなかっこいいことは僕にはできない。
失った苦しさを更にひどく心に傷を作るだけじゃないか。
苦しいからと言って、僕だって彼女のことをすっかり忘れて生きていこうというつもりはない。
だからといって、僕だっていつまでも彼女のことを引き摺りながら生きていこうというつもりだってない。
前を向いて、けれど過去を受け止めて向き合いながら生きていくなんてことができる強さなんて僕にはない。
他人に気を遣って生きていくような性格でなければ、他人に受け入れられないでは、他人と同じでいられないでは生きていけないような僕ではないけれど、そこまでは堂々としていられない。そこまでは強くない。
一緒に拘らないというだけで、強いというわけではないのだ。それとはまた、違っているのだ。
「ずっと必死でいるだけ。その瞬間に必死でいるだけ。それが強さだというのなら、俺はどこまでも強いのだろう。俺には自分で正しいと信じたことをするくらいのことしかできない。それは間違っているのだけれど、俺にとっての正だ」
迷わずにそれだけのことを言えるこの男性はどこまでも強い。
少なくとも僕には真似できない。
真似ができないものだから、愛おしい彼女を失ったのは同じなのに選んだ道は全く違う。
全くもって違う選択肢だったから、僕にはそれを選べることに憧れた。
もちろん、僕が選んだことを後悔はしていない。これは変わらない。
やりたくてもできない、なりたくてもなれない、そんな僕の憧れの強さを持ったこの男性が僕には魅力的に見える。
違うものは違う。違うのだから違う。
どれが正しいでもないことをだれもが知っている。
そんな中で、自分が正しいと信じることをできる人がどれだけいることだろう。
「あなたみたいな人と想桜ちゃんが出会えたら、僕としては何よりも嬉しいことです。きっと軍師さんのご両親は、喜んでいますよ」
「必死に守っていた娘を、俺みたいな評判の悪い男に連れ出されて、危険な戦場に駆り出されて、恨みこそすれそれはないだろ」
「そんなことはないと思いますよ。娘を大切にしてくれる人がいて、娘が幸せに生きられて、充実した時間を過ごせて、それを喜ばない親はいません」
「俺は間違っているんだよ。正しいと信じているからやってるだけで、世間的には間違っている。それを受け入れてくれる人が少ないことを知っている上でやってることだから、別に構わないんだ。それでもやりたいって、正しいと思うことをしたいって、思うからしているんだ。自己満足だから、構わないんだ。気を遣ってくれているんなら、俺はそういうのいらないから気にしてくれるな」
どこまでもこの人は強い。けれど、なんだか憧れはやはり消えたような気がした。




