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少女はやる気を出す



村に滞在中の宿泊先である、ガルさんの別荘。

いや、今日からは、わたしたちの始まりの家になる。


パンをたらふく食べたあと、家の中を案内してくれた。

食料庫の豊富なキッチン、孤児院に寄付できそうなものを集めた物置、ベッドだけが置かれた殺風景な個室がふたつ。そのうちのひとつはガルさんの自室に、余った部屋は客室に使用している。

その客室を、わたしが使わせてもらえることになった。ただ、あまり出番がなかったのか、少し埃っぽい。



「こりゃあ掃除しないと使えないね。ちょっと待ってな、今きれいに……」


「ちょっと待ったー!」


「ん?」


「その仕事、わたしにやらせてください!」



何から何までやってもらうのは申し訳なさすぎる!

わたしはもう客じゃない。これから一緒に生活する家族だ。ガルさんにおんぶにだっこのままじゃいやだ!


これまでたくさん助けてもらった分、じゃんじゃんこき使ってほしい。

わたしにできることはなんでもする。できないことはひとつずつ覚えていく。

恩返しさせてください!



「で、でも……ルリは安静にしていたほうが……」


「お風呂とパンのおかげで元気100%です! わたし、やれます! やらせてください!」



わたしの熱量に押し負け、ガルさんは仕方なさそうに笑った。



「わかったよ。掃除はルリに任せよう」


「やったー!」


「くれぐれも無理しないようにね」


「はいっ!」



お任せあれ! ぱぱっと終わらせちゃいます!


ガルさんは掃除道具の場所だけ教えると、リビングダイニングへ戻っていった。食器洗い、森で採集したきのこや果実の保管、届けるパンの下ごしらえなど、やはりタスクは山積みのようだった。


お手を煩わせずに済んでよかった、と安堵しながら、わたしも記念すべき初任務を開始する。室内を軽くほうきで叩きながら埃を集め、雑巾がけをし、しつこい汚れを取り除く。

余裕だろうと調子に乗っていたが、幼女ひとりにしては面積が広く、意外と体力を使う。お風呂とパンでフルチャージできたエネルギーを、大事に活用しなければいけない。

とはいっても、森にいたときと比べれば、めちゃくちゃ元気だ。睡魔も来なければ、疲労のひの字もない。



「あはは。図太いなあ、わたし」



思えば前世もそうだった。体調を崩すことはめったになかったし、体力は平均以上だったと自負している。それが少女の身にも影響しているのだろうか。……さすがにそれはないか。記憶はあれど、体は別物。才能や特徴まではそうそう受け継がれないだろう。


となると……少女自身がタフだった説が、濃厚になってくる。


前世のわたしに似て、ハイパー元気っ子だったのかな。

お嬢様みたいな服を着ていたから、てっきりおしとやかな子かと思っていたけれど、かわいいギャップだ。

健康志向な家族に鍛えられたのかな。健康って大事だもんね! 元気が一番!

あれ? でも……健康的に育ったのに、体中に傷がついているのは矛盾してる? 体の傷は故意ではなく、事故?



「う~~ん……謎は深まるばかりだなあ」



そうこうしているうちに掃除は終わった。ぴっかぴかのきっらきら。埃ひとつない。ガルさんにも褒められちゃった。えっへん! やればできる子なのですよ!

真面目な話、簡単な家事であればすぐに対応可能です。前世でたくさん経験してきましたからね。今後もわたしにお任せくださいませ!




「ひと段落ついたことだし、村の人たちに挨拶しに行こうか」


「はーい!」



日が暮れてきたころ、挨拶回りをすることになった。

ガルさんについていき、まずは隣の、隣の、そのまた隣の家を訪れた。村で一番大きな平屋。どうやらここには村長が住んでいるらしい。

扉をトントンと叩くと、白髭を長く生やした老爺が現れた。腰の曲がった姿勢を、木の杖で支えている。


そ、村長っぽい……!

わかりやすい第一印象だった。



「この子、あたしが育てることにした」


「ほう……」



えっ、ガルさん!? その説明でいいんですか!?


いろいろすっ飛ばし、結論だけ述べたガルさんに、うろたえているのはわたしだけで、村長は悠然と白髭を撫でていた。

村長の開いているのか開いていないのかわからない細長い目が、わたしをまじまじと捉える。上から下まで観察された。


な、なんだこれ……品定め? 金属探知機みたいな能力あったりする?

わたしがかわいくて目が釘付けになっちゃった? 村のアイドルにならんかねって誘われちゃう!? アイドル事業で村が復興し、一躍人気観光スポットに!?

ハッ……逆か? うちのガルレットを誑かしよってー! ってガチギレされる!? 美少女すぎる罪で、魔女狩りみたいな目に遭っちゃう!?

わたしは平穏に生きていたいだけなのにー!


……なんて、現実逃避がてらポジティブ妄想を働かせていると。


村長がいきなり村人たちを集め出した。呼びかけひとつで、村人たちはぞろぞろ寄ってくる。

おそらく、わたしがここに現れてから、ずっと気になっていたのだろう。

瞬く間に全方位囲まれた。五十に満たない数の住人たちが、心配そうに、それでいて怪訝そうに渦中を窺っている。


わたしは緊張のあまり、そそくさとガルさんのうしろに隠れた。

見られてる。めっちゃ見られてる……! 目の数がすんごい! わたしこういうのに慣れてないのに! どうしたらいいの!?

隠れたままでいるのはちがう気がする。そうだ、わたしは挨拶しに来たのだ。その機会を村長さんが作ってくれたのかもしれない。

よし、アイドルのファンサをイメージしよう。なりきれ、わたし。勇気を出せ。かわいさを武器にしろ。きっとできる!



「はっ……は、はじめまして……!!!」



あっ。唯一の取り柄、元気が、フルパワーで発動してしまった。

これのどこがファンサだ。道場破りでもする勢いじゃないか。

ほら、みんなも、目をがん開きにして唖然としているよ。さらに不審がっているにちがいない。もう静かにしておこう。

ところで耳は大丈夫ですか。わたしはメンタルが大丈夫じゃないです。



「ガハハッ!」



顔を真っ赤にしてガルさんのスカートにくるまるわたしに、快活な笑い声が降った。



「うちの子、かわいいだろう?」


「が、ガルさん……」


「みんなにも知ってほしい。この子のこと」



ガルさんは、順番に事情を説明し始めた。

謎の多いわたしのこと。家族になった経緯。

すべてを打ち明けても、わたしの正体はわからず、怪しいことに変わりない。それでも、ガルさんの持ち前のフレンドリーなコミュニケーション能力によって、村人たちはわたしをガルさんの娘として快く受け入れてくれた。ガルさんがいかに愛され、信頼されているのかがわかる。


壁がなくなった途端、「体は大丈夫なの?」「熱はないのかい?」「ごはんは食べた?」「挨拶できてえらいね」などと口々に話しかけられ、少々戸惑ってしまった。今までためこんでいたのだろう。けれどもわたしは聖徳太子のような聴覚は持ち合わせておらず、体調のことしか聞き取れなかった。笑って「今はメンタルが」と冗談を言えば、本気で心配され、誤解を解くのに苦労した。みんなものすごいいい人。



夕飯は各々ご飯を持ち寄り、村の中心で食べることになった。わたしの歓迎会のようなものらしく、宴のようにご馳走を囲んだ。

村の子どもたちとも仲良くなった。最初はよそよそしかったけれど、わたしが試しに遊ぼうと誘ったら、嬉々として輪に入れてくれた。



「お名前はなんていうの?」


「ルリ! よろしくね!」


「ルリちゃん! よろしく!」



わたし、この世界で楽しくやっていけそうだ。



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