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012 謁見

 

 人の多く住む大都市でも浮いてしまうような異様な一団は、レンガ造りの建物の立ち並ぶ街路を、右や左にぐねぐねと進み、開けた場所に出る。


 開けた場所とはいっても広場というわけではない。


 そこにあったのは、今まで見てきたよな家と同じくレンガ造りでありながら、その規模は40~50倍、あるいは100倍くらいはありそうな巨大な城壁だ。周囲は大きな道が整備され、内側には静かな水を蓄えた掘まであり、掘の周りにはナツメヤシの木や低いソテツが生えている。

 もし空中でぶことができるなら、10跳びぐらいで越えられそうなぐらいのほりだ。


 男の奴隷たちはここで、別れることになる。ウガ王国国王がご所望なのは、女の奴隷たちだけなのだ。男の奴隷たちはまた違う場所に行くことになる。一部の護衛とゴドリー隊がそれに付きそう。


 残った女奴隷と護衛たち、そしてハダリー隊はヴォネラムを先頭にして、掘を跳ばずに橋を渡り、門の前にまで来る。




 世の中にある入り口が常にそうであるように、ここの門も中へと通じている。ただしここの入り口を通るには、警備する兵士の間を通っていかなければならない。


 ヴォネラムが彼らに近づいて言う。


わたくしはエユィドナ共和国であきないをしておりますヴォネラムと言う者です。この度は格別のご縁をたまわりまして、遠路えんろ、ウガ王国国王様に商品のお届けに参った次第です」


これに対し警備兵の中でも年長の男が前に出て、


うかがっております。担当の者を呼びますので、少しお待ちください」


と言って若い兵士にその担当者を呼びに行かせる。



 そして待つことしばし、やがてやってきたのは、奇抜なカッコウをした男だ。

 年は結構な年配でありながら、伸ばした長髪をそのまま垂らしている。頭にカラフルで大きな鳥の羽を立てた帯を巻いている。服は無数の鳥の羽がついた、ダボダボの貫頭衣を身につけ、まるで鳥が空を飛ぶようにダボダボのそでを振りながら歩いてくる。


「お前がバルガ王の商人か?」


さすがのヴォネラムも、怪しさ満点の男に目と意識を完全に奪われながら、


「……はあ、そうですがぁ……こちらの方は?」


と警備兵たちに聞く。年長の兵士がこれを指して言う。


「こちらはコスキン様……担当の者です……」


「……ナル……ほど……」


年長の兵士がつけ足す。


「コスキン様は、宮廷専属の道化師様なのですよ……」





奴隷どもよ 偉大なバルガ王の前に ひれ伏せ~


そして偉大さを 思い知れ~


商人どもよ 偉大なバルガ王に 良きモノを届けよ~


そしてそのおんを 思いしれ~



 一団は歌いながら、そしてクルクルと躍りながら先導する“担当の者”に案内されて、気品ある異彩を放ちながら青く輝く門――イシュマル門を抜けて中へと入っていく。


 そこ――宮殿の敷地内に入ると、四方は城壁に囲まれているものの、手前はかなり広い広場となっており、奥側には段々になった巨大建築物を中心に、いくつかの建築施設が並ぶ。



 “担当の者”コスキンが


「間もなくここにウガ王国国王バルガ様がくる。それまでこの“民の広間”で快くゆっくりくつろぐがいい」


と、青い空が天井の広場を、極上の客間で客をもてなすかのように言う。



 護衛たちは広場の中央よりやや後方に、女奴隷たちはその前に横1列に並ばせられ座らされていく。兵士たちといえばハダリーの指示で、護衛の後ろに並ぶ。よって兵士たちは奴隷とその後ろの護衛に向かい合ってることになる。

 アイネは自然と、兵士たちの後ろにある建物の出入口へと目がいく。



 横の建物から胸当てなどの防具に身を包み、剣を腰に帯びた男が、後ろに部下を引き連れるように出て来る。歳は30くらい。とても厳しい眼差しが目立つ。


「あれが“王の剣”……」


コスキンが羽のついたそでを振りながら、大げさにその人物をテノヒラで指し示して、奴隷たち全員に聞こえるように話しだす。


「ベナッジョ様だ。くれぐれもウガ王国国王バルガ様に対して不敬ふけいのないように。さもなければ“王の剣”が貴様の首を飛ばすことになるぞっ!」


コスキンは両手を上げながら上半身を低くして、ヒザマズいている奴隷たちの顔をノゾき込みながら声をヒソめて言い放つ。彼の忠告は、荘厳そうごんな建物を背景にしたベナッジョの厳めしい風貌ふうぼうによって、山のような説得力があった。


 ベナッジョという男は奴隷たちにイチベツをくれただけで、干乾ひぼしレンガの欠片かけらほどの興味も示さず、部下たちに警備の指示を出していく。ベナッジョの指示が終わると、彼の部下たちは速やかに奴隷たちの前に並ぶ。その並びはほぼ完璧に等間隔で、全員が肩幅に足を開いき、左手を帯剣にそえて右手は自然に下ろしている。


 長いようで短い時間が過ぎ、また動きが起こる。

 右側の建物から、とある集団がやって来る。


 その集団の先頭には、金などに光るダイアデムを冠し、深緑のチェニックの上に金のフサで縁取られた深紅のショールを折り曲げて斜めに巻きつけた服装の男がいて、堂々と、それも時間をたっぷりかけて歩いてくる。その服装はもとよりその立ち居振舞いは、周囲にいるあらゆる人間が自身を敬うことを前提にしている、といった感じだ。


 アイネでさえ、「この男が王様というヤツかぁ……」と本能で理解する。


 王らしき人物の後ろには、白いチェニックに山吹色のショールを斜めにかけた装いの若い男がいて、立ち位置や格好からさぞ身分が高い者だとうかがえる。彼は姿勢を低くして並ぶ女たちを一通り眺めると、あるところで視線を固定する。


 ん?


 こっちを見ている?


などとアイネが思っていると……。

 頭を下げるベナッジョの横で王が止まると、随行ずいこうする者たちも合わせて足を止める。


「待ちくたびれたぞ、ヴォネラム」


そう言ったのは先頭を歩いてきた男王だ。失礼にならない間をあけて、ヴォネラムが答える。


「ウガ王国国王バルガ様。申し訳ございません。いくつかのトラブルに巻き込まれたり、野生の脅威にさらされてしまい、遅くなってしまいました」


「ほう、狼か何かにでも教われたのかね?」


「ツガイの土蜘蛛でございます」


「2匹も出たということか! それは難儀なんぎだったな。それでは被害も相当だろう」


「それが私の護衛や、派遣して頂いたウガ国兵士の活躍によって、10名ほどの被害でおさめることができました」


これに対し王は、「ほう」とだけ言い、顔は女奴隷たちの方に向ける。


「明日、宴を催すので詳しい話はその時に聞こう。他国の話もな。それより今は……」


王が言いよどんだ先を見越してヴォネラムは、


「もちろんでございます。ぜひ自慢の商品をご覧ください」


と奴隷たちを手で示した。その先には、買われる不安と買われない不安で表情を曇らせた女たちがいる。




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