もう一つのザインクラフト
俺は急いで晴の下へと向かった。
事は急を要する。
ザインクラフトを破壊されるとは…!
歯噛みする想いを飲み込み、晴の研究所へと走る。
研究所には誰でも簡単に出入りできるわけじゃない。
当然セキュリティが存在してる。
「何だね?君は、ここは子供が来るところじゃないぞ、帰った帰った」
そう言ってガードの人間がシッシッとうっとおしそうに手を振る。
当然といえば当然の反応だが、今は面倒なこと、この上ない。
以前はザインクラフトで認知阻害をかけて侵入したが、今回はそうもいかない。
「晴さんとは、顔見知りですよ。彼女に直接連絡を取ってもらえれば分かります」
刻紋を刻みさえすれば、あとは起動させるだけで、ザインクラフトなしでも使える。
刻紋によるRings通信を試みるが、晴の応答がないのが不穏だった。
「そんなこと、できるわけないだろう?我々はガードだ。こんなことで主任に直接連絡が取れるわけがない」
当然の反応だが、それでは困るのも事実。
どうしたものか…
「守衛さん…」
「なんだ坊主?」
「寝てろ!」
俺は容赦なく鳩尾を蹴り上げる。
凄まじい悲鳴をあげて倒れ伏す守衛。
もう一人がこちらを捉えようと襲いかかってくる。
「このガキ!イタズラではすまんぞ!」
ほんとにごめんね。仕事をまじめにしてる人にしていいことじゃないんだけど、マジで今、急いでるから!
「生意気な子供が! 思い上がるなよ!」
「おやすみ」
顎先に掌底を叩き込み、守衛の意識を刈り取る。
警報が鳴り響く中、俺は研究所の中へと入る。
中に入ったはいいが、幾度となく存在するセキュリティが俺の道を阻む。
ウザってぇ…
ザインクラフトがあれば、容易く、くぐり抜けられるセキュリティも物理的に破壊して突き進むしかない。
「侵入者だ!探せ、探せ!」
喧騒はどんどんと大きくなる。
守衛もこれで三度目の邂逅だ。
はやく、晴を見つけないと…!
晴の研究室に向かうエレベーター前まで来た。
人集りはない。
静かなものだった。
その時
妙な匂い。
次の瞬間、視界が黒く染まり、音が途絶えた。
咄嗟に横へ飛ぶ。
直後。
俺の首があった位置を、黒い棍影が薙いだ。
ブンッ!
風を切る音がして、俺が先ほどまでいた場所に降り立つ人影がある。
「な!?なんで今のが避けれんだよ!」
ヤマカンでかわしただけの、単なる紛れだった。
今の俺が次、仕掛けられたらまずい!
そう感じ、振り返ると
俺はその姿に目を丸くした。
なぜならそいつは…その男は…!
「光 善…!」
なぜ彼がいまここに? 意味がわからない。
善は鋭くこちらを睨み返す。
「マシロ… いや、お前…」
「「醜男か?」」
俺達はお互いにその名前を口にした。
一番あり得そうで、嫌な予感を、
他者の肉体を奪えるやつを考えた場合、醜男が一番可能性が高かったからだ。
醜男の名を知っている!?
見た目は子供だ。この時点で善が醜男の名前を知ってるはずはないのだが、
この善は一体…
「違うのか? ならお前は誰だ? マシロ…じゃないだろ! 見た目は同じだが、中身が違う。誰だ!」
善はガワだけの話ではなく、こちらの存在の本質を見抜くかのように断言した。
善の胸元で、白い光が脈打っていた。
白い太陽を模した紋様。
見間違えるはずがない。
「ザイン、クラフト…だと!?」
晴はまだ完成させられていない、そういっていたはずだ!
だが、白い太陽を模したデザインのザインクラフトは確かに光 善が原作でつけていたものだった。
「お前、これがナニかわかるんだな?ナニモンだよ。答えろ!」
善は自前のトンファーを構える。
「俺は…晴の知り合いだ。彼女に会いに来た。」
「はっ!守衛ぶっ飛ばきて侵入してくるやつが、知り合いだぁ? 寝言は寝て言えよ!」
全くもってそのとおりなので、言い訳もできない。
面倒なことになった。
己のやること全てが裏目に出ている。
「彼女と話せば誤解は解けるさ」
「ああ、脳みそまで溶けそうだ」
言葉じゃどうにもならない。仕方ない、やるしかないか
「お前か?夏を攫ったのは!」
善は怒りの籠もった目でこちらをみる。
「違う!俺は夏さんを攫った奴を追っているんだ!」
「信じられねぇな!マシロの姿をして!晴さんの研究所に忍び込んで!守衛をボコボコにするようなヤツの言葉なんてな!」
全くもって言うとおりだった。
「お前をボコして、晴さんの前に突き出す!そこで同じ言い訳垂れろ!」
「なんだ、晴の居場所を知ってるのか?」
「!てめぇ…図りやがったな!」
「…いや、そういうわけでは…何でもない」
勝手に話したのは、君なんだが…
「てめぇ…いま俺をバカにしたろ!」
「…連れて行ってくれるんなら、はやくそうしてくれ。抵抗はしないから」
「ふざけんな!てめぇなんぞ誰が晴さんに会わせっかよ!」
突き出すんじゃなかったんかい…
「てめぇ!突き出すんじゃなかったのかよとか思ってんだろ!俺はわかってんだぞ!」
もう、なんでもいいです…
「手荒な真似だったってのは、わかってる。ボコってそれで済むなら殴られるさ」
「バカに、してんのか!?俺がそれで大人しくすんならとかいうと思ってんのか?」
「いいからさっさとやれよ。そのくだり、めんどくせぇ」
殴っても殴らなくてもどっちでもいい。ほんとどっちでもいい。
「プッツン」
善は突進してくる勢いで俺に向かってくる。
そして…
「歯を、食いしばれ!」
俺の顔に鈍い衝撃が走り、俺は倒れ伏した。
手足を拘束されながら、俺はズルズルと引きずられていく。
そして、晴の研究室まで連れてこられた。
そこには晴の姿はなかった。
だが
「何ア〜シのことを、見てんのよ。あんたもしか、ヲタク?」
ポテチを頬張りながらこちらを睥睨する金髪の幼女がいた。
ソイツを見て、俺は息を呑んだ。
——なんで、コイツがここにいる?
なぜならそいつは本来ここにいてはいけない奴だったから。
「アンリマー・タルヤ」
「ニャハ!な〜んでア〜シの名前知ってっし!あんた、もしかア〜シのスト〜カ〜?」
おいおい、一体どうなってんだよ…
このゲームの『主人公』と『ラスボス』が揃い踏みじゃねぇか!




