不吉な夢の輪郭
嫌な夢をみた。
目を覚まして、僕はあたりを見渡す。
冬はいない。いつもだけど、冬は僕よりも遅く寝て、先に起きる。冬が寝てる姿は見たことがなかった。
その光景はもう見慣れたもので、驚きはしない。けれど、今日に限ってはそれが不安になった。
妙な胸騒ぎがする。
冬を探して階下に降りると、冬は朝食の準備をしていた。
手慣れたもので、淀みなく調理をし、もう盛り付けまで済ませてあった。
「起きたか、冬真。食べろよ。朝食はできてる」
いつもの姿、いつものセリフに少しだけ落ち着く。けれど、胸騒ぎは収まらなかった。
「冬、どうしても、今日行くのかい?」
「ああ、支度は済んだ。これ以上伸ばしても仕方ない。あちらから迷い出てくる奴らに関しても対処は必要だ。一通り町を見回ってから、晴のところに向かうよ」
「アフが円柱世界の構築に動き出したが、今すぐに出来上がるものではない。外から来る脅威に、対処する必要がある」
「期限は、延ばせないのかな?」
「…何かあるなら、ちゃんと言いなよ。それじゃ伝わらないぜ」
冬はこちらの不安をなんとなく察する。
そりゃそうだ。僕らは存在を観測し合ってる。
こうやって向き合って会話する以上に、伝わるものがある。
それと同時に伝わらないものもはっきりしてる。
自分の中で形になっていないものは、伝えるのが難しいのだ。
「ごめん、うまく、言えないや」
夢で見たから、とは言えない。
というよりも、その夢の内容さえあやふやで。
単にナーバスになってるだけだと言われればそれまでだ。
「冬真、漠然とした不安ってのは大事だ。特に俺等に関してはね。君は俺とは異なる問題を抱えているのだろうし、俺とは違う視点でものを観てる。だから別の予兆をそれとなく受け取っているのかもしれない」
「え?」
意外な言葉だった。
「俺も君も、同じアバターを使っている以上、君もまた何かしらの情報を君の視点、持っている情報から判断してる可能性はある」
「いや、でも、夢の話だし」
そこまで真剣に言われると、今度はこっちが躊躇ってしまう。
「とはいえ、延期にするにも限度はある」
「…うん」
そりゃそうだ。不安があってもなくても、今やれることをやらないで先延ばしにしたら、もっと大変なことが待ってる。
「だから、その問題はお前に頼むよ」
「え?」
「前にも言ったろ。この町のことは頼むって。それにこの町には聖寵を持ったアニマがいるし、最悪アフに頼ればいいでしょ」
「…アフってそんな強いの?」
「知らないから無理ないか」
冬は笑う。
その反応をみて、本気で言ってるのがわかった。
(マジか。アフって、今んとこ、あんま頼りになる印象ないんだよなぁ。)
ひなたぼっこしてて、よほど気持ちよかったのか、そのまま目あけながら鼻ちょうちん膨らませてたし。
この前なんてアイス持ちながらとてとて短い足で走って転んで、アイスこぼして泣いてたし。
ほんと、近所にいるちょっと鈍臭い子供くらいにしか見えないから余計心配になった。
冬のアフに対する信頼はどこからくるんだろう?
「俺も予備のアバターであちら側に渡る。しばらくはこのアバターはお前が主体で使うことになるけど、もしもの時はすぐに俺が主意になって問題に対処する。それでどうにもできないなら、そもそも俺がここにいてもどうにもできない問題だよ」
「…うん、わかった」
嘘だ。形だけの同意。
冬の言ってることは充分過ぎた。
充分過ぎるほどに準備もしてる。それでも不安は拭えなかった。
冬も、こちらの不安を感じてはいるが、予定はもうずらせない。冬は今日、旅立つだろう。
◇
宿を出る。
冬真の不安は未だに晴れない。
とはいえ、もうあまり時期を延ばすのもよろしくない。
あちら側の接触が致命的な問題を起こさない保証はないのだ。できるだけ問題を片付けて戻ってくるしかない。
俺は聖都を回る。
しばらくはもう見ることもできない。
闊達な雰囲気のあった町も、アフの宣言から少し空気がギスギスしだしている。
ノルマの反アニマ主義は過激な行動に出やすくなってる。
アニマ達も自衛をせざるおえない故に、怪我をさせることもある。そのことでさらに責められる。悪循環だ。
このようなタイミングで出ていくのは、気が気じゃないが、もう後ろ倒しにはできそうにない。
晴の下へ向かう前にナツさんを探す。
最後に一目だけでも見ておきたかった。
町の喧騒を抜け、いつも彼女達が遊び場にしてる公園へと向かう。
その時、
「久しぶりだね、冬」
聞き覚えのある声に振り返る!
その姿に息を呑んだ。
「……ディラフト、シュラッケン……!」
息を呑む俺の視線が、奴の肩へと落ちる。
そこに無造作に担がれていたのは、紛れもなく、ナツさんだった――。
「ふふっ、あれを生き延びられるはずはないって?」
「ご明察。確かに、あれをまともに食らって生き延びることはできない」
「うるせぇ!そんなことよりも、てめぇ…ナツさんを、どうするつもりだ!」
「ふふっ、相変わらずだね。こんな人形にご執心だ。だからさ」
「あ?」
殺意が噴き出す。
今すぐにぶっ殺してやりたいくらいだ。
「君の関心を引くためには、中途半端なことじゃ無理だからね」
そんなことの、ために…!
「いい加減にしろ!もうほっとけよ!彼女達を、俺を、この世界を巻き込むな!てめぇなんぞに興味はねぇし!てめぇのやることにも興味はねぇんだよ!」
「いけないねぇ。いけない。いけない。いい、け、なな、ない、ない!」
言葉にジリジリとノイズが走る。
まるで壊れたラジオのようだ。
「お前…虚無化、したのか…?」
「ああ、私は、わた、たわ、わたし、は…虚無の力を手に入れた」
「君と、遊べるようにね」
「遊ぶだぁ!?」
「あの塔」
ビクリと反応する。
観えてるのか!
「界顕体が残した遺物だろ?空想世界は広がった。楽しみだね、これからの世界のルールが変わるかもしれない、時代の分かれ目だ。」
俺は即座に駆け、ナツさんを抱える腕を斬り飛ばそうとする!
振り抜いた腕は宙を撫でる。
そして
スッと音もなくディラフトの腕が俺の胸を薙いだ
俺は側転しかわそうとするが
「ずいぶん、反応が遅くなったね」
この…!
歯を食いしばるその時に、違和感に気付く
「俺のザイン、クラフトが…!」
胸に下げられたザインクラフトが消滅していた。
「てめぇ!!」
「玩具は壊した。しばらく、大人しくしているといい 全てが終わったら、また会いに来るよ」
「ザケンな! 待て!」
その静止も虚しく、ディラフトは姿を消す。
ナツさんを連れて。
「クソがああああああ!」
俺の怒号が虚しく響いた。




